「台風の日: 真造圭伍短編集 」を読んだ

台風の日: 真造圭伍短編集 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)台風の日: 真造圭伍短編集 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)
真造 圭伍

小学館

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真造圭伍の短編集。
中身の方向性はてんでバラバラ。
ビールを飲む怪獣の話とか、締切間際のマンガ家の話とか宇宙人の話とか。
絵柄はやっぱり高野文子を想起させてしまうんだけど、中身は黒田硫黄とか小田扉っぽいシュールさ。
マンガ文法がしっかりしてるので安心して読めるし、小技がいちいち効いてて上手い。


個人的に上手いなーと思ったのが表題作「台風の日」の一場面

台風で町が水没。
避難勧告が出て誰もいないアパートにこもってる男二人の話。
暇なんで野球版ゲームでもやろうかと言う話になり引っ張り出してくる。
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時系列で言うと
1.右上コマ 野球で遊んでいる。攻守交代
→2.左上 空き缶なめのロング
→3.右下ブロック上部 野球盤バット
→4.下部右 2B横通過
→5.下部左 球がアウトゾーンに
→6.下部中央 あーあうとー
→7.下部左 野球盤なめの眼鏡
の順になる。
コマ1、2は熱量少な目で開始。
右下3、4、5は打った球が2B横を通ってアウトゾーンに至る流れを球の動きを画としては書かずにコマの時制で動かして見せている。野球盤で転がる球はコロコロとそれほどの勢いも無いし、動線を付けるよりも動きの無い球をコマの動きで動かす方が実際の動きに近しいイメージになる(激しい描写は必要ない)。
そしてコマ6のアウトはコマいっぱいに書かれているから熱量は高い。
画角に対して被写体が近い方が熱量は高い。
野球盤やってみたら以外にハマった、ってとこだろうか。
コマ7で野球盤は反対に向けられ攻守が交代する。


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そして次のページ。
時制は
8.右上コマ 野球盤ゲーム引きの画
→9.左上 片膝立てて寝ころぶ下半身
→10.下 黙々とゲームをやる二人
になる。
まず右ページの6であれだ高かった熱量は瞬間的なものでこの8の引きの画ですっかり熱量が下がっているのが判る。
「カチャコン...」の「...」が沈黙を表現してる。
画角に対して被写体が遠い。
そして9で片膝を立てて寝転がっている下半身の描写がある事で、熱量が下がりきっている事を表現している。
10で「...」の吹き出しを挟み、眼鏡の中には目が書かれず、もう一人は頬杖をつかせる事で野球盤に飽きたことを表現している。


ひとつひとつ細かい技が多くて、9の片膝が無くても成立するんだがそれを挟むことで黙々とすっかり飽きだしてるのに野球盤を続けている事が判るし、8→10に跳んでしまうと時制の流れが速すぎる。
10のコマの「....」が無くてもコマは成立するが飽きてしまって特に何も話さない沈黙を表現する事で心理が伝わる。
こういう上手い描写が多くていちいち唸らされる。


松本大洋黒田硫黄小田扉よしもとよしとも、あさのいにお。
その辺が好きなら間違いなく面白いと思う。

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