九井諒子「竜のかわいい七つの子」も名作揃いでやはり手放しで絶賛してみる

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九井 諒子

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二つの隔絶する存在。
世界、国、人間、関係性。
その間には齟齬や争いや不認識が横たわっている。

信じるものが違う、住む世界が違う、見ているものが違う。
それは国同士だったり、種族だったり、人と人だったりする。
何か少し手を伸ばせばその別の世界に、人に、人でない何かに手が届く。
そして解り合える。
※以下、若干ネタバレ有り







七つの子

「ひきだしにテラリウム」に引き続いて過去作「竜のかわいい七つの子」を読んだ。
こちらは
「竜の小塔」「人魚禁漁区」「わたしのかみさま」「狼は嘘をつかない」「金なし白祿」「子がかわいいと竜は鳴く」「犬谷家の人々」の七編の短編が収められている。
一つ一つの物語がとても丁寧で隅々まで端正に作られていて感心する。
柔らかくて、繊細な印象。
一つ一つのクオリティがとても高い。


「竜の小塔」「金なし白祿」「子がかわいいと竜は鳴く」には(竜の小塔はグリフォン、金なし〜と子がかわいい〜は龍)、
「人魚禁漁区」には人魚が出て来る。
「わたしのかみさま」には魚の姿をした小さな神様「狼は嘘をつかない」には狼男「犬谷家の人々」には超能力者
伝説や伝承には出て来るが虚構・不在の存在。

「竜の小塔」で描くのは、国と国との違い、そして戦争。
「人魚禁漁区」では、人間と人魚の違い、住む世界の相違。
「わたしのかみさま」では人と神様、少女の将来への不安、今と未来との変化と境界。
「狼は嘘をつかない」では親と子、病気。
「金なし白祿」では親と子、。
「子がかわいいと竜は鳴く」でも親と子、復讐、憎しみ。
「犬谷家の人々」では人と超能力者、誰もが持つ才能と可能性。

「金なし白祿」

高川白祿は、かつて都一と呼ばれた天才絵師。
全て描くとその絵が命を持って動き出してしまうから、作品にはいつも片目を書かない。
しかしそんな天才絵師も年老い落ちぶれ、しかも金をだまし取られた。
白祿はある日、自分の作品の贋作を見つけ、目を書き入れる。
絵が実体になり掛け軸より侍が飛び出す。
白祿は金を手に入れる為、過去に自分が描いた作品に目を入れ、そこから金策をするのに侍を使おうとした。

この「金なし白祿」は、他の作品と比較すると構成が違って、最初に関係性の隔絶が描かれず、最後になって実は「暗喩的にこうだった」と言う図式が浮かび上がる。
構成の妙味が一番光って見えた。
年老い頑になる老人、そして絵から飛び出た頼りない侍。
絵師とその作品。親と子。
他人の子は可愛く無いかも知れないが孫であれば可愛さは覚えるだろう。

技巧派

作家はどうしても絵柄と言うものがある。
描けば自分が好きな線があるし、それ以外の線を描こうと言うのはなかなか難しい。
しかし九井諒子はペンを使い分けるように絵柄を使い分けてみせる。
「狼は嘘をつかない」冒頭に見る実録マンガ風の作中作。
精緻なタッチを見せる「人魚禁漁区」
「犬谷家の人々」のコメディセンス。
テクニックとセンスクオリティがとても高く、書き分ける絵で表現が出来る希有な作家だと思う。
短編集なら優劣はある。
この話は良い。
この話はあまり良く無い。

しかし九井諒子が素晴らしいのは描かれたそのどれもがクオリティが高く優劣の劣が存在しない事だろうか。
どの話も本当によく出来ている。
優しい感覚と暖かい視点からの読後感。
そのどれもが後味に悪いものを残さずすっきりと終わらせて見せる。
最新作「ひきだしにテラリウム」も素晴らしかったが、これもまた素晴らしい。

どちらが良かったかは人によって違うかもしれない
でも何もなくなったわけじゃないんだ

「わたしのかみさま」

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