九井諒子にハズレなし。初期短編集「竜の学校は山の上」読んだ

九井諒子初期の短編集「竜の学校は山の上」を読んだ。

竜の学校は山の上 九井諒子作品集竜の学校は山の上 九井諒子作品集
九井 諒子

イースト・プレス

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短編
【帰郷】【魔王】【魔王城問題】【支配】
【代紺山の嫁探し】【現代神話】【進学天使】【竜の学校は山の上】【くず】

の九編が収録されている。

面白いさとか完成度でいうと順番に
「ひきだしにテラリウム」>「竜のかわいい七つの子」>「竜の学校は山の上」
だと思うけど、全てとても完成度が高い。

是非読んでほしいけれど
「ゴチャゴチャ書いて、こんなに語られる漫画読みたくない」
ってんならうちのブログが悪い。
このブログは、見なくていいので九井諒子は読んでください。
漫画に罪は無いんです。
全部うちのブログが悪いんです。






さて、中でも出色の出来は【現代神話】【進学天使】だと思う。

【現代神話】
人間の姿をした二足歩行の「猿人」とケンタウロスの姿をした「馬人」が存在する現代。
語られるのは二つの物語。
一つは猿人の夫と、馬人の妻の話。
一つは猿人の女性上司と、馬人の部下の話。
人間と同じ性質の猿人と違って馬人は寝る時間も少なく、働く事が苦にならない。
移動で走るのも速く体力もある。
労働現場でも猿人より馬人を多く採用する事から、馬人労働規制法案を政府は提案。
二つの種族は微妙な距離感で社会を形成している。

一つは猿人の夫と、馬人の妻の話のパートでは人種や文化の違いから来るエピソードを四コマ漫画にしている。
キャラも少しディフォルメして。
イメージとしては「中国嫁日記」と言えばいいか。

中国嫁日記 一中国嫁日記 一
井上 純一

エンターブレイン

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そして猿人の女性上司と馬人の部下のパートでは通常のマンガとして描かれてる。

この書き分けの上手さもあるが、漫画の方式を書き分ける事で当然雰囲気も変わる。
夫婦パートは、四コマならではのほんわかムード。
上司と部下パートは一筋縄ではいかない文化・種族(人種)の違いを描いてる。
これが現実の日本を舞台に外国人と日本人の文化の違いと相いれない部分を描いたりしたら非常に社会的になりそうな部分を、想像上のケンタウロス族に置き換える事で暗喩的な意味も含めてすべて優しい視点と感触で着地することになる。


【進学天使】では背中に天使の羽根の生えた女子高生のお話。
学生の若い恋が描かれるし、将来に悩む思春期の心情も描かれる。
「羽根があるから飛べる」なんて単純では無く、全力疾走するくらい疲れるだとか、受験で筋力が落ちると飛べなくなるとか、助走して風に乗らないと飛べないとか、都会は電線多すぎるしとか地についたディテールが細かいw
【現代神話】も同じ。
ケンタウロスは赤ん坊をどこで抱くのかとか、細やかで豊かな想像力から産まれるディテールが世界観を支えてる。

将来への不安、未来の可能性、現在の恋。
どこにでもあるような、誰にも経験があるような学生時代の恋心と未来への不安。

自転車で疾走するシーンは、松本大洋の「何も始まらなかった一日の終わりに」を連想させた。

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松本 大洋

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「何も始まらなかった一日の終わりに」【チャリ】編の主人公チャリは「変人」扱い。
いつも自転車に乗っている。
周囲に溶け込めない異物。
クソッたれな世の中に背を向け自分の中のモラトリアムに生きる。
坂道を両手を広げどこまでも走っていく。。。


背中の羽根を広げて飛び上がった彼女の眼下に広がる小さな自分の学校。
そこから見える広い世界と可能性の広がり。
「何も始まらなかった一日の終わりに」とは全く逆のベクトル。
モラトリアムに生き続け自分にこもり続け走ったチャリと真逆。


どれだけ言葉を尽くしても、一読には叶わないと判ってそれでも書き続けるゲスの極み(ぶつぶつぶつ...)。
ともかく断言。
「九井諒子にハズレなし」

もしかしたら読んだ事のない作者の漫画なんて買えねぇ、って人もいるかも知れない。
だったらここを読んでみて、それで読む気にならなかったら仕方ない。
趣味が合わない。


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