高野文子「ドミトリーともきんす」を漫画的な技法など気にしながら読んでいく

アクセスが少ないんで、今日はマニアックな事でも書こう。

九井諒子作品の技巧について/マンガLOG収蔵庫
http://d.hatena.ne.jp/m-kikuchi/20130325/1364150260
こちらの記事がとてもよかった。




例えば時代劇なんか観てると刀で斬った時に「ズバッ!」って音がするでしょ?
でも実際に人を斬ってあんな音はしないだろうってのは判る*1
でも観てて違和感は感じない。
不思議ですよね。
だって実際にしない筈の音なのにその音が目の前でなっても違和感を感じないなんて。

マンガ内での記号で有名なのは静寂を表現する
「しーーん」
ってやつ。
あれって手塚治虫の発明って言われてますけど、無音の状態は何の音もしない。
本当なら何も描かないのが正しい。
でも「しーん」って描く事で「無音なんだ」と認識してしまう、するようになっている。
そういうのを「マンガの記号」とか、コマ割りとかもひっくるめて文法とか言います。
今回はそんな文法を気にしながら読むとどう読めるか、って書いていく。
(当たり前すぎてつまらんかもしれませんが)


ドミトリーともきんす

マトログロッソで連載中の高野文子
「ドミトリーともきんす」4話を例にして以下。
http://matogrosso.jp/tomokins/tomokins-04.html

まず1ページ目下部のコマ割りはこのようになっている。
読者の視線は1~5へ流れる。
全て平面の移動で構成されてる。
f:id:paradisecircus69:20130326091417j:plain
(さっくりエクセルで作ったんで勘弁してください)
面白いのがまず2と3の関係。
映画のカメラで考えれば2は1よりも少し上に上がってる(看板下端が切れる)。
そして3は2と合わさって看板の上下を補完してる。
本来カメラが上がったなら3の位置はおかしい訳です。
ところが平面のページとして看板の上下を補完しあう事で違和感を無くしてる。
3は4と補完関係にあって、時制は2から3より3から4の時制が近しい。
とも子の身体がコマ割りを越えてお二階に呼びかけているように見せる。
そして縦長のコマによって二階を表現する遊びの感覚も面白い。
(とも子の立ち位置を考えると少し矛盾があるが、マンガ的表現なのでこれで良い)


2ページ目。左上コマ。
「あっ、二階からウサギが降りてきた。」
「あれはナカヤ君の飼っているウサギ。」
「中庭へ走っていくわ。」
ウサギがまるで長い紐のように表現されてる。
しかしこれで「ウサギが勢いよく走っていくさま」が表現されてる。
保管するように吹き出しは三つに分けられ、吹き出しによって同じコマの中で時制が表現されてる。そしてとも子は階段のところのウサギを指さし、きん子はテーブルの下のウサギを指さしてる。同時に二か所にいるんでは無く、だからこのコマで複数の時間が表現されてるわけです。
さすが上手い。


3ページ目。技巧の粋。
右側のコマの配置は以下のようになってる。
f:id:paradisecircus69:20130326094208j:plain
読者の視点は1~6に流れるかと思う。
2と5のコマは枠の外になってる。
特に5のコマは下が雪という設定だからそのまま外世界へ続いてしまっている。
2~4のコマは時制が2→3→4の順。
同じナカヤ君のセリフ。
4と5の隙間が少々大きいのは問い→答えの関係にあるから。
中庭の空間を示す大ゴマの中に1と6は存在し、その中で時制とセリフを表現する2~5のコマがある。


4ページ目。
上部三コマは手紙→雪の降り積もるさまを表現し、その後ろでとも子が希薄になっていく。
中庭ととも子のいる室内とが隔絶される。
だから中段左端のコマでとも子が「コンコン」とガラス戸を叩く。


とりあえずこんな感じで。
高野文子は漫画文法や表現の使い方がとてもうまい。
記号、文法って意味では卓越した書き手。
ひとつひとつ考えながら読むととても面白いし奥が深い。

今日はこんな感じで。

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*1:実際に斬った事は無くても