「HUNTERxHUNTER」で否定されるパワーインフレーション

HUNTER×HUNTER モノクロ版 32 (ジャンプコミックスDIGITAL)HUNTER×HUNTER モノクロ版 32 (ジャンプコミックスDIGITAL)
冨樫義博

集英社

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電子書籍版HUNTERxHUNTERの32巻は4/4に配信予定だそう。
以前に「『ドラゴンボール』に本当にバランス感覚があったのか?」って記事を書いたんだが、その時にHUNTERxHUNTERの異質さも考えてた。
とはいえ漫画語りする人間にはHUNTERxHUNTERは絶好の素材で手垢がつきまくってるだろうけれど。
なのでいかはあくまで私論・試論として書いてみる。
ドラゴンボールのインフレに対するアンチテーゼ。


インフレーションの否定


師を通過した事で「スキルを使えると言う事の理由付け」が成される。
ジャンプ作品には多く見られる構成の一つ。
悟空で言えば亀仙人だし、カリン様だし、神様だし、界王様になる。
ゴンとキルアで言えば最初の師はウイングで次の師はビスケが相当する。

師と言うフラグは新たな主人公のスキルの開始と次のインフレの開始を表す。
そんな力のインフレーションを際限なく続けたドラゴンボールに判りやすい。
かめはめ波、界王拳元気玉キン肉バスター、キン肉ドライバー、卍解、仙人モード。


HUNTERxHUNTERに戻す。
天空闘技場篇だと一番強い敵は、ヒソカになるか。
ヨークシン編(幻影旅団編)なら旅団メンバーになる。

グリードアイランド篇で最も強いのはレイザーだろう。
ドッジボールと言うチーム戦ではあるがゴンはレイザーに単独では勝てなかった。
ボールを受けるためにヒソカとキルアの力を借りて、それでようやく勝つ事が出来た。
最後の決定打もレシーブしようとしたところにヒソカのバンジーガムがあったからこそレイザーは負けた。
そして続くボマーとの戦いでは片腕を失い、仕込んでおいた罠にハメる事で勝つ事になる。
最後の戦いでキルアもビスケも単独の力で勝っている。
ゴンだけが単独の力で勝てていない。

ゴンは各篇で一番強い敵とは戦わない、もしくは戦って負けている。
そこがドラゴンボールとは違う。
ドラゴンボールでは、悟空は常に最も強く、最強の敵と戦う。
NARTOで各人がそれぞれの敵と戦う中、ナルトは最も重要な敵と戦い、九尾の力で勝つ。
BLEACH一護が卍解で最も強い敵に勝つのも同じ。

だから次の話に向けて更なるインフレーションをしなければならない。
次に出て来る敵は今回の敵より強い
主人公<敵
だから
主人公<敵<修行後の主人公
であり、
主人公<敵<修行後の主人公<次の敵
主人公<敵<修行後の主人公<次の敵<修行後の主人公...

これがドラゴンボールでありインフレーションを起こし続けるシステム。

ところがHUNTERxHUNTERでの主人公ゴンは常に最強では無いからインフレーションの必要がない。
そしてそれはキメラアント篇での異質さにも見れる。

キメラアント篇


まずゴンはネフェルピトーに手も足も出せずにカイトを置いて逃げる。
ナックルに天上不知唯我独損を食らい念能力を封じられる。
最終的にはゴンもキルアもキメラアント討伐に参加はする事になる訳だが、
キメラアント篇で最も強いのは王メルエム。
しかしメルエムと戦うのはネテロ会長であってゴンではない。
ゴンと戦うのはカイトの仇、ネフェルピトー

メルエムに次ぐのは王直属護衛軍のネフェルピトー、シャウアプフ、モントゥトゥユピー。
メルエムvsネテロ会長
ネフェルピトーvsゴン
シャウアプフvsモラウ
モントゥトゥユピーvsシュート、ナックル(キルア、モラウ)

整理するとこんな対立図式だが、
メルエムは貧者の薔薇によって倒され
シャウアプフとモントゥトゥユピーも貧者の薔薇の余波で死ぬ。
ゴンだけが唯一戦い勝ったと言えるが、その為に自分を犠牲にしているのはネテロ会長と変わらない。
人間は、キメラアント相手に誰独り勝利を収めていない。
己の身を犠牲にして、毒を使い。そうでなければ勝てない。
勝者の不在。
インフレーションの否定。
それがキメラアント篇の特色だと思う。


善と悪


これもジャンプに多いが、二元論を描いて最終的に絶対悪にならない事が多い。
ドラゴンボールならピッコロ大魔王は悪だったが、マジュニアとして転生し仕舞いには悟空と一緒に運転免許を取りに行く始末*1
ベジータはブルマと結婚し、クリリンも人造人間18号と結婚した。
バッファローマンも味方になった。


HUNTERxHUNTERで重要な「ゲーム」
ゲームのモティーフは作品全体にある。
メルエムとコムギの「軍儀」が判りやすいが、初期ハンター試験の頃からゲーム要素は多い。
ゲームとは縮図だ。
戦争の縮図であり、世界の縮図。ヴァーチャルな盤上のシミュレーション。
メルエムは生まれて殆どをゲームをする事でしか過ごしていない。
悪虐非道な蛮行をした訳でもなく、コムギと軍議を打ち、ネテロと戦って貧者の薔薇によって死ぬ。
メルエムにとっての世界は、城の中と王直属護衛軍と一緒に出掛けた短距離の旅程。
短い生涯で見れた小さな世界。

そして軍議ではコムギに勝てない。
メルエムは力では最強だが、全てにおいて最強では無い。
レミングスのように並んだ人間を見て暴虐に振る舞うのは力の象徴であり、
コムギとの軍議では人間を理解しようとする理解者としての一面を見せる。
それは力においては勝者であり、ゲームにおいては敗者だから。
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だからメルエムはネテロを相手に理想を語れる。
人とアリとが住む世界を。
勿論その視点に「生物の頂点にいる蟻」と言う視点はあるが「善と悪」という二元論で語れる敵ではない。


ヂートゥ


力のインフレーションの否定を一番顕著に表してるのはヂートゥだろう。

ヂートゥはまず念能力で閉鎖空間を作り上げる能力を手に入れる。
モラウをそこで追いつめるが、ディープパープルによって破られる。
そして新たなボウガンを作り出す能力に目覚める。
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しかしモラウには勝てずに逃亡。
さらに紋露戦苦という念能力に目覚めるがシルバにあっさり殺される。
ヂートゥ<モラウとナックル<念能力ヂートゥ<モラウ<ヂートゥ(紋露戦苦)<シルバ
ここには力のインフレーションが、強い力によって止められる図式がある。
安易なインフレーションの否定。
キメラアント篇全体を縮小した姿がそこにあるように思えた。
※力のインフレが不適当だという指摘があったので追記。式は左から右に時系列になっている。パワーインフレに従えば単純に力が増大するはずだが、ヂートゥの場合、手に入れる念能力は必ずしも強化の要たり得ていない。ヂートゥが暗喩しているのはシンフレのアンチテーゼと単純な能力覚醒のディフォルメ。全体としてインフレシステムを表現しているのでこーいう式になっている...。


電子書籍版でしか追ってないので32巻楽しみにしてます。

関連記事:
・ゴンとキルアは、なぜ見た目が幼いのか?

http://azanaerunawano5to4.hatenablog.com/entry/2013/03/31/200613

・『「HUNTERxHUNTER」の戦いはジャンケン要素が強いから、パワーインフレを感じない』を読んだので反応する
http://azanaerunawano5to4.hatenablog.com/entry/2013/04/02/150542

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*1:アニメオリジナルだが