「殺戮にいたる病」を凌ぐ衝撃作!我孫子武丸「狼と兎のゲーム」読んだ

※ネタバレなし

狼と兎のゲーム狼と兎のゲーム
孫子 武丸

講談社
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2年前に母が失踪して以来、小学5年生の心澄望(こすも)と弟の甲斐亜(がいあ)は父・茂雄の暴行を受け続けていた。夏休みのある日、庭で穴を掘る茂雄の傍らに甲斐亜の死体が。目撃した心澄望とクラスメートの智樹を、茂雄が追う! 死に物狂いで逃げる彼らを襲う数々のアクシデント!! 茂雄が警察官であるゆえ、警察も頼れない二人の運命は──。
そして待っていたのは、恐怖と驚愕の結末!!

http://bookclub.kodansha.co.jp/kodansha-novels/1307/abikotakemaru/

新本格にハマっている頃は毎月、講談社ノベルスをチェックしてた。
綾辻「館シリーズ」や有栖川有栖の「作家アリスシリーズ」。
中でも我孫子武丸の「速水三兄妹」シリーズが特に好きだった。
一作目「8の殺人」では、ジョン・ディクスン・カーをイメージした密室殺人。
二作目「0の殺人」では、クリスティのトリッキーさを思わせ、
三作目「メビウスの殺人」では、クイーンを踏襲。
海外ミステリから日本のミステリへと移行してきた自分の趣味に合っていたし、いかにも新本格と言うコードを前提としながらも裏切ろうとする姿勢が好きだった。

「殺戮にいたる病」
最後、本当に最後でキレイに世界をひっくり返された。
世界をグラつかせるミステリってのは幾つかあるが、その中でも別格。
物語をどこに立って読むか、それで印象は大きく異なるんだろう。
自分は物語の中、作者の思い通りの位置で思い通りに物語を見て、思いきり裏切られた。
ロス・マクドナルドの「さむけ」よりも強烈な一撃。

担当者コメント

多彩な作風で知られ、人気ゲーム「かまいたちの夜」シリーズのシナリオも手がける我孫子武丸さんの新作は、久々のサスペンス・ミステリー。暴力衝動を抑えられない警察官である父に追い詰められる小学生二人。圧倒的な力の差があることを知りながら、子供たちも知恵を絞って、逃げようとしますが……。そして驚くべき真相! 『殺戮にいたる病』を凌ぐ衝撃作の登場です!!


アッバス・キアロスタミの「友だちのうちはどこ」と言うイラン映画がある。

ある時、とある小学校で生徒が先生に怒られている。
「宿題はノートに書いてきなさい、次に書いて来なかったら退学だからね」
主人公はクラスメイト。
家に帰ってついその友だちのノートを持って帰ってしまったことに気づく。
大変だ、このままじゃあ友だちが退学になってしまう。
そこで主人公は友だちのうちにノートを届けようとする。
ところがイランは日本とは違う。
日本なら電話でもかければいい、バスに乗れば良い、タクシーを呼べばいい。
主人公はその友だちのうちがどこにあるか詳しい場所も判らない。
しかも、その友だちの家はジグザグ道を越えた山の向こうにある。
主人公は何とかそのノートを返そうと独りで友だちの住所を探し、馬車に乗り、町をさまよい歩く。
「友だちにノートを返す」
それだけの事が、とんでもない冒険旅行になってしまう。


今作では主人公は友人と共に逃避行に出る。
暴力的な友人の父親から逃げるため。
しかもその父親は警官、だから警察を頼る事も出来ない(と子供だから考える)。
心澄望(こすも)甲斐亜(がいあ)なんてキラキラネーム。
夏休み、「スタンドバイミー」では死体を探す旅だったが、今作では死体を目撃したから旅に出る事になる。
大人にとっては普通の距離でも子供にとってはとても大きな距離だし大きな世界。

怪物、父・茂雄は、身体こそ大人だが精神的には幼い子供。
気にくわないものは殴る、壊す、脅す、犯す。
子供の倫理観で社会を生きてきて、だからこそ情け容赦が無く自身の理屈だけで他者を蹂躙する。


作品自体は、そんなに悪くないとは思う。
心澄望に全く感情移入できないってのはちょっといたかったけども。

『殺戮にいたる病』を凌ぐ衝撃作の登場です!!
それよりもこの一文で期待してしまったわけですよ。
人によっては判らないけどそこまでの仕掛けがあったかな?
世界をグラつかされるような印象は無かった。
サスペンスがメイン、そしてトリック。
そういうお話、佳作だと思う。
持ち上げすぎは逆に作品を落とす。
そういう事もあるんじゃないかな?
殺戮にいたる病 (講談社文庫)殺戮にいたる病 (講談社文庫)
孫子 武丸,笠井 潔

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