お笑い、ツッコミ、テロップ、VISUALBUM

お笑いは難しい。
難しいがテレビのバラエティとしてのその技巧は発展してきた。


例えばテロップ。
お笑いはまず「ボケ」がある。
例えば漫才であれば「ボケ」「ツッコミ」と言う役割がある。
「ボケ」は時代のパラダイム*1とズレた非常識な事を発言する。
そして「ツッコミ」はパラダイムに沿った事を言いボケを訂正して見せる。
その「非常識から常識への復帰」の際に観客は面白味を感じ笑う。

かたっ苦しくてわかりづらいので平易に書く。

ベタな漫才を想定してみる。

ボケ・ツッコミ「どうも~」
ツ「いやー、毎日暑い日が続きますね~」
ボ「七月でこんなに暑かったら十二月なったらどんな暑なんねやろ?」
ツ「なんでやねん!」

はい。
全然面白くないけれども。
このボケの「七月は暑い」→「十二月になると更に暑い」と言うのは月の数字が増えれば暑くなると言う発言だが、観客のパラダイムからすれば「日本には四季があるし十二月になったら寒い」という事を知っている。
そこでツッコミ役は「その思考は常識的におかしい」として「なんでやねん」を発動させる。勿論、最近の笑いではこのツッコミの際に比喩表現を使ってさらにそのツッコミを複雑にする技巧もあるが、それはまた別のお話。
ボケによる不条理からツッコミによる日常への復帰。
それが笑いになる。


シュールな笑い、と言うものがある。
シュールがなぜシュールかと言えばそれはツッコミが無い場合が多い。
舞台の上で、ボケ役がまずボケる。
ボケると物語内でパラダイムからのズレ(齟齬)が発生するが、日常へ復帰させるツッコミが存在しない。
日常からの齟齬から復帰せず、齟齬を抱えたまま舞台の上の物語が進んで行く。
観客はパラダイムを前提に観るため目の前の不条理を理解しているが、舞台の上の世界はその不条理を認識しないまま内包し続ける。
それがシュールなんだろう。

シュールな漫才を想定してみる。
ボケしかいない。

ボケ・相方「どうも~」
相「いやー、毎日暑い日が続きますね~」
ボ「七月でこんなに暑かったら十二月なったらどんな暑なんねやろ?」
相「ほんとだよねぇ。ところでさぁ...」


テレビのバラエティ番組にはツッコミ役が存在しない事がある。
ボケたらボケっぱなし。
司会がいて、雛壇があると言う形式であればツッコミは司会役になるが一体多数になる為に拾いきれないボケも当然ある。そこで活躍するのがテロップになる。
テロップは、ツッコミと同じく何がおかしいかを提示して見せる。


テロップとはガイドライン。
自転車で言えば、補助輪と言っても良い。
ここで笑うんですよ、ここが面白いんですよ。
それを示す道標。
昔、上岡龍太郎*2
「テロップのせいで視聴者のお笑いの感覚が鈍る」
と発言してた。
ガイドラインがある笑いに慣れてしまうと、ガイドラインが無い笑いを理解しづらくなってしまう、と。
かつてガイドラインは無かった。
確かにその通りで、今やバラエティを見ていればテロップがにぎやかに表示され、ここで笑え、ここがおかしいといちいち表示される。
本来はそれが無くてもおかしみを感じられたはずだが、これだけ乱用されるともはや何が正解かも曖昧になってしまった。


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松本人志

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松本が90年代に発表したVISUALBUMってのは画期的だった。
テレビ放映を前提としない撮り下ろしのコント集。
今や当たり前だろうけども。
中身はツッコミも無く不条理な世界が延々続く。

握った寿司を出す度に叩き潰す寿司屋の話なんてテレビならBPOが黙ってない。
<<コントで使ったお寿司はスタッフが後で美味しくいただきました>>
そういうバカバカしい縛りから離れたところで造られたのがこのVISUALBUM
テロップも無い。
ここで笑えと言う指標が無い。
不条理は不条理のままそこにあって、シュールと言えばシュールだし、ツッコミが欲しいと思うがそれが無い。
当時観ていて
「松本の笑いはツッコミがあるから柔らかくなっているが本来はとてもキツイ」
と言うのを実感した。
浜田のハードなツッコミは松本のボケの強さを緩和して、観客に翻訳して見せる。
どちらかが強かったり弱かったりするとコンビは成立しない。
浜田がピンでやり始めた頃は、ツッコミがきつすぎて観ていてしんどかった。

このVISUALBUMはほとんどが松本独りとその周辺(今田、東野、板尾、木村etc...)で造られて、浜田が出演しているコントは四本。
浜田は、ツッコミ役と言うよりもボケの補強役として登場している。
Blu-Ray5枚組なので高くは無いが、元素材の画質は当時のSDだろうし、アプコンしてても限界もあるし、そんなに高画質で観るもんでも無い。だったら低画質でBlu一枚に入れてくれりゃあ良いものを...。
ただ副音声の解説と寸止め海峡が入ってるらしいのでそれはちょっと興味がある。
とはいえ...なぁ。

ツッコミも無く不条理なボケだけが延々と続く世界。
それはツッコミの重要性を再認識させるし、ボケ単体の笑いとは何かって言う考えを深める。
つまりは
VISUALBUMって結構しんどいよ」
と言うお話。

*1:ここでは一般通念という用法

*2:ウチにこのフレーズが多いのは中高生の頃に独演会とか見に行ってたからです