周木律「双孔堂の殺人 〜Double Torus〜」を読んだ

双孔堂の殺人 ~Double Torus~ (講談社ノベルス)
周木律「双孔堂の殺人 〜Double Torus〜」を読んだ。

メフィスト賞受賞シリーズ第二弾!


容疑者は名探偵!? 鍵形の館で同時発生した二つの密室殺人事件!

Y湖畔に伝説の建築家が建てた、鍵形の館――「双孔堂(ダブル・トーラス)」。
館に放浪の数学者・十和田只人(とわだ・ただひと)を訪ねた、警察庁キャリアの
宮司司(ぐうじ・つかさ)は、同時発生した二つの密室殺人事件に遭遇する。
事件の犯人として逮捕されたのは……
証明不可能な二つ孔の難問、館の主の正体、
そして天才数学者たちの秘められた物語を解く鍵は!?
メフィスト賞『眼球堂の殺人』を超えた、シリーズ第二弾!

周期律の作品には「古き良き」新本格ミステリの雰囲気がある。
不条理に思えるくらい常識を逸した建造物。
学者、個性的な人々が集まりその中で殺人が起こる。
状況は密室、不可能犯罪。
そして全てを律する狂った神のような天才。


綾辻行人が描いた狂った建築家 中村青司が造る奇想の館*1
そして森博嗣が描いた天才 真賀田 四季。
そういう要素を持った作品が現在の、すっかり新本格ミステリと呼ばれるジャンルが下火になり、ラノベと融合したり頭一つ抜ける作品が無い中に出てくるからこそ異質に見える。
衒学的な数学知識に覆いつくされて殆どの読者は、ジャーゴンで構築された暗号のような会話に目隠しされたまま読み進み、その真相を知らされるのだが、真相は実に俗っぽく、ドロドロと血の臭いがする。
勿論、その辺りのギャップも意図的で、天才の掌の上、愚かな殺人者は私怨と感情で踊り人を殺し、天才はそれをただ見ている。


探偵は探偵としてではなくただシステムとして条件がそろった時点で回答を吐きだす。探偵もまた天才であり、システムは感情を扱わない。

天才ってのは境界を含まない開集合のことをいうんだ。
天才の境界には、どれだけ微小のイプシロンだけ近づいてもさらに近傍が存在する。だかこそ天才は天才なんだ。
全体のトリックはある程度ミステリを読みなれた「歪んだ視点を持つ」読者なら見当がついてしまうものだけど、雰囲気が溢れまくった数学者の面々が数学話を延々としてそれをどう受け取るかでリーダビリティも評価も変わってくる気がする。

Amazonのレビューの点はちょっと低すぎる気がする。
いや、言ってる事は判るが「二番煎じだから読まなくていい」は酷い。
それを言い出したら森作品は、途中からとっくに劣化をもごもご...。


今の世の中ってもう色々なものが出尽くしてる。
だから音楽なんかでもブルージーなロックの音が懐古で鳴らされたり、そういうものが新世代と言われたりする。一周回って知らない世代になら当然新しい。
既存のトラックを切り刻み(チョップ)一部だけを張り付け、またスクラッチする事で新たな文脈(サンプリング)として見せる。
今のコンテンツ文化の主流は「引用」なんじゃないだろうか。
オリジナルであるから素晴らし、のではなくいかにうまく引用し見せるか。
それが「今」だとおもう。
オリジナルだから素晴らしい。
他にないから素晴らしい。
じゃあ昔のものを見てればいい。

材料をどうやって料理するか、どう見せるか。
そこに注視すればこの作品の評価ってそんなに下がることも無いと思うんだがな。


こういう大伽藍に仕掛けられたミステリはとても好みなので是非とも続けて行って欲しいし、次作も発売したら光の速さで買いに行くつもり。
奇想の館で起きる数学的見立て殺人とかやって欲しいなぁ...。


あと表紙はもっと新本格っぽい方が...。
それこそ(故)辰巳四郎風の画とかなら食指をさらにそそられるんだが...。


次回も楽しみにしてます。

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*1:島田荘司でもある