映像化が難しく、読まないと出会えないミステリー小説

貴族探偵

貴族探偵 (集英社文庫)
耶雄嵩「貴族探偵」が文庫になったので昨日から読んでる。
皇室御用達のシワひとつない高級スーツに身を包み口髭を生やしてる。
事件に乗り込んでくるが本人は物見遊山。
捜査も推理も本人はやらず、メイドや執事にやらせる。
「お前がやらへんのかい!」
読者も登場人物もツッコみを入れるが
「労働は貴族がやるものではなく従者がやるものだ」
とのたまう。

麻耶雄嵩と言えば「翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件」などに登場する「銘探偵メルカトル鮎」が有名。

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麻耶 雄嵩

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名探偵では無く「銘」探偵の「銘」は墓碑銘の「銘」。
事件の最後の最後、刻み付けるためだけに登場する。
物語にはほとんど関与しない。
誰も救わないし、救われない探偵。


山田正紀「神曲法廷」に登場するのは神の声が聞こえる探偵。

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探偵役は探偵では無く推理は「神」の御心のまま。
当然、神罰も下す。

探偵は記号化され、単に物語の構造を読者に開示するためのシステム。
物語を咀嚼し、整理・単純化し、提示するための「探偵」と言う記号。


後期クイーン問題

第二の問題

「作中で探偵が神であるかの様に振るまい、登場人物の運命を決定することについての是非」についてである。
探偵はそもそも司法機関ではなく犯人を指摘する能力はあるが逮捕する権限はなく(素人探偵の場合)、探偵が捜査に参加することあるいは犯人を指摘することにより、本来起きるべきではなかった犯罪が起き、犠牲者が増えてしまうことへの責任をどう考えるのかという問題である(例えば、探偵の捜査を逃れようとした犯人が関係者を殺して回るようなケース)。
また、「名探偵の存在そのものにより事件が引き起こされるケース(例えば、探偵を愚弄あるいは探偵に挑戦するために引き起こされる殺人のようなケース)」、あるいは、「探偵が捜査に参加することを前提として計画された事件が起きるケース」などとも絡んで議論される。
作品の外部構造(作者-読者)の関係性から生まれる「第一の問題」から、作品内の内部構造(犯人-探偵、あるいは犠牲者-探偵)の関係性から登場人物のアイデンティティーに関わる深刻な葛藤「第二の問題」が生起される。

後期クイーン的問題 第二の問題

「探偵」と言う観察者の存在がその対象になる「事件」に影響を与えてしまう。
それにより観測結果が変わってしまう。
しかし探偵が神だったり、事件が終了してから登場したり、あるいは探偵は何もせず従者が行うのであれば後期クイーン的問題は回避できる。


九十九十九

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わった探偵と言えばやはり清涼院流水
JDC(Japan Detectives Club 日本探偵倶楽部)に所属する多数の探偵は消費されるキャラクター記号として純化してる。
鴉城蒼司は「集中考疑」によって一瞬で事件を解決し、九十九十九は「神通理気」という能力によって推理では無く真相を悟り、ピラミッド・水野に至っては「超迷推理」能力で核心をつかない推理をする。
清涼院流水はJDCの探偵らを「ギャラクティカマグナム!」と叫べば普通のパンチでもものすごいもののように思えるように、推理に名前を付け能力に仕立て上げた。

名探偵の推理はよく判らないが何かしらすごい。
ポワロなら「灰色の脳細胞」と言い、バイオリンを掻き鳴らすホームズは「演繹法」を使う。
常人離れした能力の明文化には「技の命名」がわかりやすい。
ジョジョで荒木飛呂彦が超能力を「スタンド」として擬人化したように。


「探偵」と言う記号と物語世界

、そんなJDCの探偵九十九十九を弄びまくったのが舞城王太郎
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舞城と清涼院流水のキャラの相性は良かったんだか、なにやらとんでもない作品に仕上がった。
九十九十九』は、今の都合に応じて要約するが、主人公である「僕」が、僕の世界であるこの小説の中をさまよい、この小説世界を支配している神を探しだそうとする物語、と捉えることができる。ところが、ようやく探し出した場所に神は不在であり、実は神とは僕自身だったのだ、といった結末がやって来る。小説の中で「僕」が複数に分裂することにも注目したい。最終章(第6話)の登場人物として誕生した僕Aは、この小説世界が仮想であると知りつつもここに安住してもいいと考え始める。ところがそこに、第1話からずっとこの小説を生きてきたオリジナルの僕Bが現れる。僕Bは、各章に登場してきた人物をことごとく殺すことで、この仮想世界を消滅させ小説の外ともいうべき現実世界に戻ろうともくろんでいる

http://www.mayq.net/maijo9991.html

完全に「一見さんお断り」がひしひしと伝わる評。
つまりメタで内世界に対し自己言及的。
そして「ディスコ探偵水曜日」で舞城は更に書き進む。
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観察者たる探偵はここで世界を変容させる。
そして概念と化して永遠に子供らを救い続け無限の空間に解き放つ。
それって物語世界と現実世界への言及とも取れなくはない。
よく判らないなら「まどかマギカ」のまどかと思ってもらえばいい。
自分が概念と化す事で世界中の魔法少女のソウルジェムを永遠に救い続ける存在。


読書の秋

ーいうものは映像化出来ない。
だからこそ読む必要があるし読まなきゃ判らない。
竹本健治の「匣の中の失楽」は物語世界と読者との関係性と認識を意識させる作品だけど、これも読まなきゃ伝わらない。
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以前に中井英夫「虚無への供物」をドラマ化してた。主演は深津絵里
原作を再現は当然出来てなかった。
これも読まなきゃ判らない。
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確かにビジネス書だの実用書の方が身になるかも知れないし、探偵ものだの殺人ものなんてくだらないしそんなものを読む暇があるならもっとやることがあると言われてしまう。しかしこういうものを読むこととによって何か得られるものもあるし、それは即物的な自己啓発書やハウトゥ本には書かれて無い。
ミステリー小説ってのは三毛猫ホームズだとか、列車乗り継いでアリバイトリックだとか、崖の上で犯人が真相を話す作品ばっかりじゃない。
どっかの読解力も無い*1ノマドみたいにならないように、推理小説を読むのもいい。
読書の秋だし、たまには探偵小説なんてどうです?と言うお話。

出会ってない名作なんて山ほどある。
例えばTSストリブリングの「カリブ諸島の手がかり」とかさ...。


「貴族探偵」の感想は後日、またいずれ執事にでも書かせよう。
労働は家人に任せるに決まってるじゃないか。

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*1:誤読を恐れるな!