「未来改造のススメ 脱「お金」時代の幸福論」を読んで考える新しい世界のかたち

未来改造のススメ 脱「お金」時代の幸福論 Ver.Up版
「未来改造のススメ 脱「お金」時代の幸福論」がとてもおもしろかった。
(現在のところ)思考実験としては、とても。


当たり前の世界

今の日本は民主主義で資本主義をやってる。
小学校中学校高校を出て大学に入るか社会に出、労働し結婚し子供を作り死ぬ。
それが「普通」の人生。
でもこの「普通」は太古の昔から普通だった訳じゃない。
大昔は貨幣すらなく物々交換でコミュニケーションし、コミュニティができて村や町など規模が膨らみ人口が増え、宗教ができて神や仏が支配し、為政者が現れ神や仏は象徴になって、国ができて戦争をやって、幕府ができて政府になって、海外と戦争をやって負けて、リセットされて民主主義を与えられて今の日本がある。
この民主主義で資本主義が当たり前で普通な世界にいると、それを当たり前じゃないと考えるのが難しくなる。
産まれたときからこういうシステムだし、だから明日も明後日も何年後も何十年後も……。
本当にこの社会システムは変わらないのか。


歴史

※以下、小川一水「天冥の標VII 新世界ハーブC」のネタバレを含みます。段落読み飛ばし可
天冥の標Ⅶ
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小川一水「天冥の標」で主人公らは<<救世群>>に追われとある星の地下のシェルターに逃げ込む。
地上はパンデミックで崩壊し、他の星の人類も連絡が取れない。
そんな状況で、地下シェルターに生き延びた子供を中心とするコミュニティが形成され、既存の政府のマネから徐々にシステムを確立させる。
一部が強権を持ち統制をおこない、やがて民主主義に移行し圧制者は追われ民衆の代表が社会を統制する。

しかしその過酷な歴史を覆い隠すために統制者は偽の過去を作り、流布させる。
過去を改竄し、歴史の闇を覆う。
「我々は開拓者であり、惑星開拓を行うために宇宙船に乗ってここまで来た。
この星で繁栄することがその目的だ」

というウソ。ニセモノの歴史。
地下シェルターで生まれ、地下シェルターで過ごし、地上のことも地球のことも知らない子供らが社会を構成する時、そのウソは本当のことになっている。
誰しもが信じている中、疑問に思い疑うより従う方が楽なこと。
歴史は必ずしも正しくない。だから勝者のためにあると言われる。


当たり前じゃない世界

今の「当たり前」がどこまで続くのか。
インターネットやデジタルが普及し、コンテンツの価値は下落し続けている。
「一億総中流社会」と言われた頃と比較し、今の日本での格差はとても大きい。
子どもが多く老人が少ない状況なら成立していた社会システムも、子どもが減り医療が発達し老人の寿命が延びたことで破綻しつつある。
これからの未来に今のシステムは成立しない。

それは判っているはずだがその先にどうすればいいのか、をどう考えるかは人によって大きく異なる。
政治家や経済評論家、社会学者といった面々はまず民主主義で資本主義な日本の現在のシステムをベースにパッチ処理や拡張で現在のシステムの存続を図ることを提言する。現在広がった社会システムを敷衍する方が楽だし、システムの中でやりくりする方が簡単だから。
何もルールのないところから作り出すよりもルールを改変する方が楽に決まってる。


しかし岡田斗司夫氏や小飼弾氏はSF者。
SFは空想してなんぼ。
その社会システム自体の否定から始め、そこから広げ岡田斗司夫氏が提言する「評価経済社会」へと繋がっていく。
家族や資本主義と言った今までの「普通」を否定し、新しい社会のパラダイム(社会常識)を提言して見せる。
これはとてもおもしろい。
やりすぎればSFとかトンデモや宗教になってしまうところを、両者バランス感覚が卓越しているだけに地に足がついているところへの落とし込みが上手い。
岡田氏が実践しているFreeEXの叩き台(萌芽)もある。


まとめ

ベーシックインカムにより「最低限の生活」は保障されていて労働は権利であって義務ではない未来。
貨幣よりも評価が価値を持つシステム。
人は無償や趣味で働く。
「ただ働きで働く訳ねーだろ、アホか」
というツッコミに対してなら今のこのブログだって無償で書かれている。
一応、お小遣い程度の小銭がGoogleさんからチャリンチャリンといただけたりもするが、これを実際の労働力に換算すればこんな小遣い銭じゃやってられない。プロだのなんだのには程遠い。
お小遣いのために書いてるわけでもない(それが目的って人もいますけどね。金くれとか炎上とか何とか)
毎日読んでいる個人のブログのほとんどは無償で趣味の労働からなっている。


先日ファッションフォトグラファー ビル・カニンガムのドキュメンタリー映画「ビル・カニンガム&ニューヨーク」という映画を観た。
ファッションと言う悪魔に魅入られた男「ビル・カニンガム&ニューヨーク」 - あざなえるなわのごとし
ビル・カニンガムはニューヨークタイムズ連載コラムを持っているが報酬はほとんどもらわない。
もらえば誰かから口出しされても逆らえない。
自分の部屋は倉庫みたいになっていてキャビネットの上で寝起きし、食べ物にも執着がなく間に合わせの食事を済ませ、丈夫で安い上着を着てただひたすら道行く人のファッションを撮り続ける。
彼にとっての労働は「金」のためではない。
そして資本主義の今のパラダイムから見れば「変わり者」の烙印を押される。

人は無償や趣味で働くことが、ありえないとは言い切れない。
最低限の生活さえ確保できるのであれば。


この国のパラダイムは外圧で変わってきた。
黒船がやってくることで強制的に変わり、戦争に負けまた変わった。
今の「当たり前」がいつ「当たり前」じゃなくなるのかは判らないけれど、この二人の言うような未来が来るにはまだまだ時間がかかりそう。
そんな気がする。
今の資本主義にどっぷりつかってそれが当たり前と思っている人々がそうじゃないと思う日なんて来るのかしら。
多分、パッチ処理が追いつかずに社会が崩壊しきらない限りは無理な気がするけれど。


ちなみにKindleはVer.Up版が販売されており、別途の岡田斗司夫 小飼弾対談や岡田斗司夫公開読書まとめ(トゥギャリ)が入っていて実に今っぽい中身になってる。こうやって同じ本なのに更新され追記されるのも電子書籍の面白いところだと思う。

未来改造のススメ 脱「お金」時代の幸福論 Ver.Up版
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