インターネットがオタクを殺した

※簡単な思索
※アニヲタを中心を主語として想定しており鉄ヲタ、ドルヲタなどは含みませんので主語を読み違えないように(主語を大きくしたがる人が多発してるので)

オタクはすでに死んでいる (新潮新書)

オタクはすでに死んでいる

旧来的なオタクと最近のオタクは違う。
かつてのオタクはまさに、文化的なアイデンティティを外壁を作って守って全員が維持していた。みんな勉強熱心だった。SFファンなら、SF小説を千冊読んでようやく一人前。そうしてそれぞれが厳しい鍛錬を積み、SF道を邁進していく。だからこそ、連帯感や誇らしさがでる。民族としての絆が生まれる。くわえて世間の冷たい目もあった。変態よばわりされ、たくさんのオタク批判にさらされながら、じっと耐えてきたという歴史もある。そんなつらい道を共に歩む者どうしに、絆が生まれないはずがない。お互い、がんばろうじゃないか。彼らは被差別の対象であり、また内部では求道的な側面もあった。だからこそオタクはひとつの民族たりえた。

2008-05-08 - 空中キャンプ

かつてのオタクは、今で言えば徹底した「情報強者」のセカイを形成したトライブ(民族)だった。
インターネットの萌芽すらない頃、一部の「ネクラ」「キモい」「マニア」と呼ばれアニメなどのコンテンツ消化に特化した人間…趣味人らは現実は不得手で趣味を分かち合える物理的な友だちがいるのは幸せな方で、多くは繋がるべくもなく、アニメ雑誌の片隅に載った「ペンフレンド募集」などで繋がりを持つ程度しかなかった。
地方の同人誌即売会や大規模なコミケが始まり、そんな趣味人が繋がりを持ち、コミュニケーションの間隔・感覚から「お宅」とお互いを呼びオタクの語源になったとか言うのは諸説紛々。
とはいえオタクはこうして繋がることで名付けられ「呼ばれる」ことになる。

オタクはなろうと思ってなるもんじゃなくてさも 気付いたらなっているもの*1であって、オタクとは名乗るものではなく呼ばれるものだった。

宅八郎が「オタク」のステレオタイプをテレビで見せキャラ化した。
オタクとは「アキバに通い、髪がベタベタしていて紙袋を下げ、猫背で服装に無頓着で気持ちの悪い笑い方をする。
アニメやフィギュア、マンガなどに詳しくそれらを集めることに人生を捧げているから当然のように詳しく、オタク同士のコミュニケーションの際にはお互いの知識を披露しお互いの知識の隙を探り、上に立とうとするポジショニングが含まれる」
情強が、オタクの自尊心を支える。


ggrks

そこへインターネットが登場した。
インターネットは外部記憶装置だ。
何かを書き込み、それが的外れだったり情報が欠けていたりすれば
「情弱wwwwww」
と草を生やして揶揄される。

旧来的なオタクの会話であれば、情報に弱かったとしてもその弱点を埋めるにはそのコンテンツをさらに探し求めて手に入れ自身に取り込まなければならない。
積み上げたマンガ雑誌をより分け、録画したビデオテープを漁り、巻き戻し、あるいはレーザーディスクの一コマ一コマを確認する。
自身が持ちえる物理的、知的アーカイヴの量こそがオタクの情強を支える。
アーカイヴが増え、知識の補てんを繰り返すことでオタクは自身の知識密度を増していく。
情強なパーソナルが支える群れでありながら個のトライブ。

ところが今の情弱に対する常とう句は、
「ggrks(ググレカス)」
である。
判らなければグーグルで自分で検索して調べろ(ボケ)という意味だが、つまり「自身に欠けている情報は検索すれば見つかる」のだ。
これはオタクが自分の脳と言う記憶装置にひたすら情報を詰め込んだ旧来的なオタクとの決定的な差だろう。


今は知識を覚える必要はない。
知りたければ、ググれば出てくる。
どこかの誰かが、無償で書きこんだ知識をその場その場で漁れば足りる。
ネットで繋がればそこに情報がある。
情強と情弱の差は検索しているかしていないか、流れ去る板やツイートあるいはそのコンテンツを見たか見ていないか、アンテナ(観測範囲)を張ってるか張ってないか、検索の仕方が上手いか否か、そこに閾値が存在する。
もちろん基礎としてある程度の知識があるとはいえ、情報を自身に蓄積する必要は決してなく、情強と情弱の差は情報アーカイヴではなくその場その場での即時性のあるテクニックの差でしかないのかも知れない。


引用


映画『イノセンス』劇場本予告 - "INNOCENCE" Theater Trailer - YouTube
押井守は、映画「イノセンス」において登場人物がネットに接続し、既にある言葉を引用し語るシーンを多用した。
インタビューで氏は、
ダイアログっていうものをドラマに従属させるんじゃなくて、映画のディテールの一部にしたかったというのが動機です。  劇映画の台詞って退屈ですよね。ほとんどが説明やなりゆきで。それが嫌だった。というか、もっとやることがあるんじゃないかと。言葉それ自体をドラマのディテールにしたかった。ディテールである以上は、それなりに凝ったものでなければならないわけで。一つ一つに足を留めてもいいような陰影のある言葉。ちょっとした人物が吐く台詞も何物かであってほしい。たとえば刑事の『柿も青いうちは鴉も突つき不申候』とか。ドラマといったん切り離したときに言葉は映画のなかでディテールになる。可能であれば100%引用で成立させたかった。古典に関してはほぼそのまま引用しました。世阿弥とかね。様々なレベルで、言葉を機能させたかった。
このように答えている。
「ドラマといったん切り離したときに言葉は映画のなかでディテールになる」
とはアーカイヴに存在する一定の文脈から切り離した言葉を使うことでその言葉自体が新たな文脈に組み込まれ別の作用を始めることを意味し、過去の賢人らの名言を引用することで自身の考えを代弁したり、表明したり、補填・補強する用途としても機能してみえる。

日常生活を送る上でかつてのセリフを引用する、という行動は滅多に行わない。
海外ミステリを読んでいるとたまにシェークスピア劇のセリフやポーの詩や聖書の一説を口にするようなキャラクターが登場するが、日本で「シェークスピアにこんなセリフが…」などと口にすれば途端、ミサワ臭が立ち込めてしまう。
格好つける、身の丈に合わない。
言葉と存在は結びつく。


「人は金のために生きるのではない」
という言葉をもし本田 宗一郎が言ったとすれば、自己啓発好きなキャリアポルノ*2オナニストたちは欣喜雀躍するだろうが、
「人は金のために生きるのではない」
という言葉を35歳ニートが言ったのだとすれば「お前はまず働け」と突っ込まれてしまう。
同じ言葉であれ、それを誰が言うかによって変わってしまう。
言葉や情報を自分のものにするということは自分の文脈でそれを語る…アナログな行為。

何かの作品について熱く語る時、その作品の魅力はその人物の中に蓄積された脳の中で変質したアーカイヴから発生する。
それは元の作品の事であるが語り手の観測によって変質したアナログな情報である。
しかしデジタルは同質である。
誰かの言葉を引用し、それを語ればそれは自身の言葉ではなく誰かの言葉だ。
昔の(他の)誰かの言葉を借りた自分の言葉でしかない。
引用とは過去の文脈から一部を切り離し新たな文脈に当てはめ語る行為ではあるが、同時にその言葉はかつての文脈と繋がったままで使われる。


アナログ・デジタル

しかし、現在は違う。ネットが普及し、オタクは容易にコミュニケーションをとる(というか、他のオタクの存在を知る)ようになり、企業は大量の情報を流すようになり、オタクとして生きる敷居は劇的に下がる事になった。結果、起こったのはオタク層の肥大化だった。上にも書いたように、オタクというのはかつて自分で選択した生き方だった。しかし、今のオタクはどうだろうか? オタクとして生きるのにどれほどの障害があるだろう? オタクとは主体的に選ばねば辿り着けない生き方だろうか? 無趣味、無教養な人間がダラダラとネットを続けた結果、最終的に行き着いてしまう人間廃棄処分場、現在のオタクとはそんな層になっていないだろうか? もちろん、かつてと同じように主体的な生き方としてオタクを選んだ人間もいるだろう。しかし、最近のオタク層の急激な肥大化は、それ以外の層の人間が大量に流入し続けている事を示している。

ネットの普及によりオタクの構成層は本質的に変わった - 有象無象

旧来的なオタクとはアナログなモノだろう。
岡田斗司夫が、萌えを理解出来ず「死んだ」と嘆いた旧来的なオタクは、アナログで自身に知識を貯め込む内部記憶装置型。
そして今のオタクは多様になり、誰でも使える巨大なインターネットという外部記憶装置・共通知を使いこなす。
オタクは、死んだのではなく変質し閾値が下がった。

誰かの言葉を借り語り、誰かの知識を借り語る。
誰かの言葉を借り、誰かの知識や情報を使ってもそれは変質しない。
自分のものとしてそれを使い自身の知識やポジションの補強として引用を行う。
アナログからデジタルに変化し、情報は劣化する事なく等しく複製される。


まとめ

デジタルなインターネットによってアナログなオタクの価値は下がった。
だから「オタクはすでに死んでいる」のではなく濃いものが薄まった、のだろう。
濃いものは濃いままに、薄いものが増えた。
もはやオタクという言葉は単なる「アニメなどの趣味を好きなクラスタを指す言葉」くらいの意味合いしかないのかも知れない。
情強でなくてもオタクを名乗れるし、オタクを語れる。
「情強こそが至上である」というパラダイムで生き抜いてきた旧来のオタクにとって今どきのオタクらによるオタク語りはどう映るのだろう。

…ウチは情弱サブカルなんでよく判んねえっす、と記事を終わる。

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*1:©げんしけん

*2:©メイロマ