王家衛による王家衛なカンフー映画「グランド・マスター」


グランド・マスター - YouTube

世界を呑みこむ戦争の足音が、刻一刻と迫る1930年台の中国。北の八卦掌(はっけしょう)の宗師であるゴン・パオセンは引退を決意し、その地位と生涯をかけた南北統一の使命を譲る後継者を探していた。候補は一番弟子のマーサンと南の詠春拳(えいしゅんけん)の宗師・葉問(イップマン)。パオセンの娘で、奥義六十四手をただ一人受け継ぐゴン・ルオメイも、女としての幸せを願う父の反対を押し切り名乗りを上げる。だが、野望に目の眩んだマーサンがパオセンを殺害。ルオメイはイップマンへの想いも、父の望みも捨て、仇討ちを誓う。ここに後継者争いと復讐劇が絡み合う、壮絶な闘いの幕が切って落とされた。一方、八極拳(はっきょくけん)を極め、一線天(カミソリ)と呼ばれる謎の男も、不穏な動きを見せていた…。 動乱の時代を生き抜き、次の世代へと技と心を受け継ぐ真のグランド・マスターとなるのは誰なのか―?
ブルース・リーによって有名になった詠春拳の達人 イップマン(葉問)を中心に、大戦を背景に様々な武闘家の運命を描く映画。

どこかに「カンフー映画を期待して観たのにがっかりした」と感想が書いてあって驚いた。
もし押井守が監督するときけば、それはウンチクと鈴木清順的な演出が繰り広げられるだろうし、タランティーノが監督すると聞けばFUCKだのBITCHだの連呼して爽快でストレートなアクションよりもマニア受けするような作品になるのは間違いない。
ウォン・カーウァイ王家衛)もそういう監督。
カーウァイがイップマンの映画を撮る、と聞けば武侠映画「楽園の瑕」みたいにならなきゃ良いなぁ、と考えるしそれでも観る。
細かく切られるクリストファー・ドイルのカメラワークがそれっぽい。

楽園の瑕 終極版 予告編 - YouTube
見た目はキレイだけどストーリーは途切れていて、見た目はキレイでそれっぽいセリフとモノローグ。
多分そんな感じだろうなぁ、と思って観たらその通りだった。

グランドマスターカンフー映画としてみればガッカリだろうが、ウォン・カーウァイの映画を期待して観れば見事にウォン・カーウァイの映画だし、しかも「楽園の瑕」よりもアクションの撮影が格段に上手いんだからそれだけでも評価に値する。


例えば冒頭、イップマンが何十人の武術家を相手にする。
雨が降りしきる中、イップマンが一撃を繰り出す度に相手がワイヤーアクションで飛び、倒れる。
マンガなどであればその威力を表現するのに集中線など効果線を使うところを、このシーンでは打撃音と共に雨粒が弾け、それがイップマンの攻撃を表現する効果線の代用として機能してる。
降りしきる雨の中、浸水している道路で踊るようにして戦うイップマン。
帽子のひさしの下のイップマンの顔は濡れない。
彼だけは別のレイヤーに存在する。
敵は打撃を受け頭からずぶ濡れになりながら攻撃し、イップマンは冷静に立ち技を繰り出しいなす。
夜の闇、モノトーンの白い灯りの中に雨粒が光りしぶきが飛び、そこで演じられるアクションはとても美しい。


カミソリが組織から追われ刺客と戦うシーンも素晴らしい。
イップマンは詠春拳に対して、カミソリは八極拳の使い手なので、同じ雨のシーンだがそれぞれその特色を出している。
イップマンと違うのは、一撃ごとに相手の骨が砕け血が出る演出にある。
刃物をきらめかせ(刃物が近寄るたびに甲高い音がする)襲いかかって来る敵を頂肘(肘打ち)で殴り当て身で倒し頭を殴り、足を砕く。
こちらはイップマンの華麗な技と比べるとゴツゴツとしてとても硬い。
八極拳と言えば震脚が特徴。
地面を激しく蹴りつけることによりその力を頂肘や短打の威力へと転化し攻撃を行う。


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李氏八極拳に関しては「拳児」を読むとどういう拳法かがざっくり判る。


こちらはドニー・イェン版のイップマン(イップマンの家に殴り込みに来たところ。グランドマスター冒頭の戦闘がこれか)。


個人的にはドニー・イェン版のイップマン二部作(抗日がよく判る)を観ていて、その上で「グランド・マスター」を観たので、イップマンがどんな風に戦争の中過ごしたか、などという背景がある程度判っている。
グランド・マスター」も楽しく観れたが、単体で観ると判るかどうかは怪しい。
イップマン単体の部分は中盤から減りだして気づけば中〜後半はチャン・ツィイーの物語になってイップマンがどうなったかの辺りはざっくり端折られてる。

Q:今回も、事前に脚本が用意されないウォン・カーウァイ方式で撮られたのでしょうか?

シナリオはありませんでした。現場でその日に撮る分だけセリフをもらう、いつものスタイルです。でも慣れているので、まったく問題にはならないですね。監督の頭の中に、コンセプトがありさえすればいいのです


『グランド・マスター』トニー・レオン 単独インタビュー - シネマトゥデイ

2ch辺りでは完全版の噂も出ていたが、いかにもウォン・カーウァイっぽい「撮るだけ撮っといてあとは編集とモノローグで何とか仕上げる」といういつもの香港映画方式は今回も健在で、シナリオ単体をみれば繋がっていなかったり、何を描きたいのか今ひとつ漠然としてたり。
イップマンとどう絡むのか?!と注目して観ていたカミソリのストーリーも、最後まで特にメインストーリーに絡むことなく終わっていくのもいかにもらしいところ。

カンフー映画の様でありながら、やっぱりカンフーに特化したアクションに昇華しないところがウォン・カーウァイ映画。

ウォン・カーウァイ:単なるカンフー映画では無く、武術に生きる人の精神を描いていますから、カンフーに興味が無い方でもこの作品を観れば考え方が変わるかもしれませんね。映画のタイトルも、同じ時代を生きた数名の武術家を描いてるので『グランド・マスターズ』と一度変更したのですが、“人”では無くて“精神”を書いているので最終的に『グランド・マスター』に変更しました。
映画『グランド・マスター』ウォン・カーウァイ監督インタビュー「なぜ今カンフーなのか?」 – ガジェット通信


こっちはアンソニー・ウォン版の「イップマン 最終章」
他にもテレビドラマ版もあって、どれもこれもイップマン……。

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