JBはここにいる

俺がJBだ!―ジェームズ・ブラウン自叙伝 (文春文庫)

架空の物語っていうのは、本当のことを伝えるために嘘をつくことなのだ
ビッチマグネット/舞城王太郎
電車の車窓。

繰り返し同じパターンが繰り返される手抜きで貼り付けたテクスチャみたいな田舎の光景。
ケミカルブラザーズのスターギターのPVは同じ映像の繰り返しだったけど、今見てる車窓なら加工せずそのまま使える。
林、林、民家、道路、畑、林、林...。
The Chemical Brothers - Star Guitar - YouTube





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ボクは学生をやりながら、バイトでライターをやってる。

ライターと言っても依頼さえあればなんでもやる雑文書き。
特に取材なんてしないし、埋まらない隙間があればボクが埋める。
雑誌、新聞、ネットなんでもあり。

つぶやきやブログを調べて「芸能人○○はこのように言っている」と書けば一丁あがり。
これでニュースになるんだから誰にでもつとまる。
本を書く予定もない。

当然、余白を贅沢に使うオシャレな雑誌には呼ばれない。
風俗情報やゴシップと同じページに並ぶことが多い。
ネットでも三流芸能ニュース系サイトがほとんど。

一応ライターなので、それなりにネタは集まる。
記者のつてで聞いたり、大学の友だちからまた聞きしたり。
ネットワークはそこそこ広い。

ゴミみたいなネタがほとんどだが、中には大きなネタがこぼれ落ちてきたりもする。
でも『新人風俗嬢紹介!』の横に書くわけにもいかない。
大概はボツになる。


そんなボツネタのひとつに「ジェームズ・ブラウンは実は日本で生きている!」というものがある。
「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」10位*1に入る伝説の大スター ジェームズ・ブラウン。
飲み屋で某新聞記者が、ビール片手に話してくれた。

世界的ファンク歌手 ジェームズ・ブラウン(以下JB)は、2006年に心臓マヒで亡くなったことになっている。
膨大な遺産を巡りJBの周辺はかなりキナ臭かったのだそうだ。

2006年のクリスマスに心臓発作で亡くなったジェームス・ブラウンだが、ジェームスの広報を当時務めていた女性がその死をめぐって探偵に調査を依頼しているという。

ジェームスの死の当時、ジェームスの広報を手がけていたジャック・ホランダーはジェームスの死は他殺によるものだと考えていて、心臓発作で亡くなったとは一度も認めていないと語っている。また、ジェームスが殺されたとしか思えないという立場を公にしてからは殺害予告を度々うけていて、以後、身を隠さなければならなくなったと語っている。
「ジェームス・ブラウンは殺された」と元パブリシストが語る (2011/09/16)| 洋楽 ニュース | RO69(アールオーロック) - ロッキング・オンの音楽情報サイト


JBといえば舞台の上で一度倒れてみせるパフォーマンスが有名だろう。
舞台の上で歌い力尽きるJB。
観客が声援を送るがJBは起き上がれない。

そこへ舞台袖からアシスタントがやってきて、うずくまるJBの背中にマントをかける。
するとJBが復活して再び歌い始める、というあれ。

親族が自分の遺産を巡って争うのを悲しみ、殺害予告まで受けたJBが、舞台の上でのパフォーマンスを実生活で行ったとしてもそれほどの発想の飛躍ではないだろう。

JBは、舞台演出のように倒れ、自分が死んだことにした。
そして密かに海外へ脱出することにしたのだそうだ。

そして潜伏先として自分のことがあまり知られていない日本を選んだ。
JBと日本は意外と縁が深い。


James Brown live in Japan 1986 - YouTube

日本語をひそかに勉強していたのかも知れない。

さすが世界的エンターテイナーJB。
日本での活動も視野に入れた努力が、まさかこんなところで役に立つだなんて、本人も想像だにしていなかったろう。

とはいえJBは、世界的な歌手。
幾ら日本だとはいえ気軽に外出するわけにもいかない。
人目を忍び老後を過ごすJBは独り異郷の地で寂しく過ごしていただろう。

日本に潜伏して数年目。
そんなJBの元に、とある芸能事務所から連絡が入る。

電話の相手は言う。
事務所の看板歌手が突然事故死してしまった。
そこでJBに整形をして替え玉になってもらえないだろうか?という依頼だったのだそうだ。

かつてソウルの帝王と呼ばれたJBからすれば願ってもない。
舞台へのあこがれは心に秘めて潜伏していた日々。
そこでJBは東洋人の容姿に整形。
とある歌手の替え玉として舞台へ上がり、今も芸能界で活動しているのだという。

その芸能人はあの有名な……。


「源義経は実は大陸へ渡りチンギスハーンになった」
「キリストは日本で死んで墓も存在する」
「プレスリーは生きている」
それらと変わらない都市伝説。
くだらないネタだから当然ボツになった。
東スポなら載せてくれるかもしれないけれど、その話してくれた記者の勤める新聞では無理だったそうだ。
そりゃあそうだろう。

もちろん、どこにでもある与太話。
でもあれだけ肌を焼いているように見せるのは、正体を隠


そのとき電車が新宿についた。
押し出されるようにして歩き、今日も変わらない日々を過ごす。

昨日と同じ今日、今日と同じ明日。
平和な同じ毎日が繰り返される。

だから、みんな物語を求めるのかも知れない。
くだらなくても美しい人生を繰り返す。

美しい人生よ かぎりない喜びよ
この胸のときめきをあなたに
この世に大切なのは
愛し合うことだけと
あなたはおしえてくれる

愛のメモリー/松崎しげる

愛のメモリー(発売35周年 アニバーサリーエディション)
※この記事はフィクションであり、実在の人物・団体・事件や松崎しげるなどとは一切関係ありません