人工知能と貞子

※SF者向け
ラギッド・ガール 廃園の天使Ⅱ
今、飛 浩隆「ラギッド・ガール 廃園の天使Ⅱ」を読んでる。

またいずれ詳しく書くんだろうけれど、簡単に言えば
「ヴァーチャル空間に人間が意識を送れる娯楽施設とそこで生きるAI」
の話。
AI(人工知能)とは、人間の創造物であって実際には存在していない。

いや、自意識を持って自分の意思で考え行動しコミュニケーションがとれる……つまり自我を持つ(ように見える)とすれば、そのAIはそこにAIが主張する「自分」として「存在」しているのか否か。

人間の意識が、電気的な信号が行き交う中で生まれたノイズだというのは当然として、だとすれば高速な演算処理を行い電気的に人間と遜色ない「意識」を作り上げればそれはどんな存在か。
物理的体を持たない人間の意識だけを作れるとすれば、その「意識(自我)」に人権や尊厳があるのか。

ひとのかたち

先日「人工知能」の表紙が話題になったが、人工物であれそれが現実のジェンダーやメイドなどさまざまな既存の存在に近づけば、既存の存在に対するのと同じ考えを適用しようとするのも面白い。
人工知能 2014年 03月号 [雑誌]
たとえばルンバの知能が今よりも高度になったとして、それに対して「人権が」だとか「女性が家事を」などという話に持っていかれることはない。

iPhoneのSiriは女性の声だが
「これは女性に対する偏見を増長する!」
「女性は何でも答える機械ではない!!」
「女性に対する性蔑視である!」

という意見は出なかったように思う。

現在は、Siriを男性の声に変更もできるようになったがどちらにしろ、スマフォの外観では声が女性だろうが男性だろうがそこに「性蔑視」という価値観を持ち込みにくい、ということなのだろう。
どこかのヒツジみたいに画面に女性とか男性のキャラクターが表示されれば騒ぎやすいんだろうけど。

「皮を一枚剥がせばそれが機械があれ、女性の外観で労働させるなら問題」

この辺は、深掘りしていけばいろいろ展開できる話(その絵を選んだ意図、箒)だが、本稿の主眼はそこではない。

く~る~きっとくる~きっとくる~♪


呪いのビデオ - YouTube
「呪いのビデオ」を見ると見た人間は貞子に殺され死ぬ。
この「リング」という作品が不条理なホラーではなく、SFだというところが面白い。

呪いのビデオを見る。
するとビデオの映像に仕込まれたウイルスが展開される。
人間をコンピューターだと思えばいい。視覚から光線による映像信号ストリームによってトロイの木馬が脳内のパルスネットワークに送り込まれる。

貞子、という恐怖のイメージを脳内で展開させ殺す対人ウイルス。
どこにでも現れるのは当たり前。
貞子は意識の裏、脳を走る電気信号の中に存在する。


呪いのビデオをダビングすると呪いが解ける。
そうすると「ダビングした」というトリガーによってウイルスの展開が止まる。
貞子はひとを媒介し「ダビング」によって繁殖する電気的な存在。

ネットによる電気的呪いの拡散、をやったのが黒沢清のホラー「回路」か。

回路 予告編 - YouTube

お話しできる機械

ところで、人間に外観を似せているAI……それらとは違い外観は機械でAIを搭載しているものも数多い。

ひとから離れた外観を持つAIと言えば「2001年宇宙の旅」に出てきたHAL9000が有名。

hal 9000.mpg - YouTube
自分の意志を持ち考えることのできるコンピューター。見た目は壁についた紅いカメラだが、実態は宇宙船ディスカバリー号を管理するメインコンピューターでありディスカバリー号そのものであるといってもいい。

神林長平敵は海賊」シリーズに出てくるラジェンドラも宇宙船。
敵は海賊・海賊の敵 (ハヤカワ文庫JA)
憎たらしい黒猫宇宙人ととケンカできるAI。こちらもHAL9000と同じ。

他にもナイトライダーに出てくる車型のK.I.T.T.やドラえもんのバギーちゃん。

ドラえもんもAIによって動いている。
ドラえもんを解体してもそのどこにも肉も魂もない。
あるのは電気信号とプログラム、それを走らせる集積回路

バギーちゃんは自己犠牲で敵に突っ込み、しずかちゃんは涙するが、アクション映画で車が突っ込んでも「車が突っ込み壊れる」のは同じだが、誰も泣かない。
バギーちゃんが「自分で判断し」「自己犠牲として」「死ぬ(機能停止する)」という部分に人間とひとしい価値観を見ている。
機械に「ちゃん」を付けてる時点で、感情移入がある。

どこぞに艦これやってたら艦娘が沈没して、そののち同じ艦娘が来るんだが
「(沈んだ)あの娘とは違う」
「見た目は同じだがあの(艦)娘はもう帰ってこないんだ」

とかいう記事を挙げてるひとがいましたっけ……お薬の時間ですかね。
鏡を覗き込んで何をやってるんだか。
そこには深淵しかないってのに。
あれが娘じゃなく無骨な軍艦でも同じことを思うのかね?


神林長平戦闘妖精・雪風」もAIを搭載している。
戦闘妖精・雪風(改)
この作品にジャムという敵が登場するが、このジャムが戦闘機に搭乗する人間ではなく、雪風などの高度なAIを知性体と認識し行動する、というのがとても面白い。

確かに知性という意味でいえば高度な演算処理能力を持ち判断を行うAIの方が人間よりも数段優秀な知性体であるといえる。
環境変化に弱い有機体で構成され、部品の交換も効かずバックアップも取れない。
オンラインに直接アクセスもできず演算能力にも欠ける。
宇宙人が、人間とAIのどちらを高度な知性体と判断するか。

AIの反乱

AIは敵にもなる。
地球環境を守る、宇宙的な視点、AIが独自に考えた結果、人間を滅ぼす方がいいという判断を行う。
キュゥべえ的神の視点・宇宙規模の判断結果)
ターミネーターの「スカイネット」が広く知られてる。

Terminator 3 Skynet Takes Over - YouTube
特撮「大鉄人17」(ワンセブン、オーオオオー♪)や映画「マトリックス」の人工知能

アニメ「装甲騎兵ボトムズ」には神を名乗る異能者が登場する。
意識をコンピューターに移し替え存在し続ける……こちらは「ラギッドガール」の似姿に近いかもしれない。


いろいろと例を挙げてきたが、SFでのAIは
「オンラインかオフライン(スタンドアロン)か」
という部分が大きく変わった。
士郎正宗押井守)「攻殻機動隊」に出てくるハッカー人形使い」もネットワークの上で生まれた電気的な自我で

小川一水「天冥の標」に登場する非展開体らも類似の存在だろう*1

コンピューターの処理能力が日進月歩で発達し、一昔前ならありえない高速処理が可能になり、コンピュータアーキテクチャも進化し続けている。
アルゴリズムは人間の処理を簡潔に模倣し、ひとより洗練する。
クォンタム・コンピュータなんていうそこらじゅうに鉛の箱に入った猫が散乱しそうなコンピュータが出てくれば、技術革新はさらに加速度を増すんだろうし、しかしその頃には人口も減少して、人間という種や環境を考えるのであれば虚構空間に電気信号としての自我をコピーし他の星へそれを……なんてすればもはやSFの領域。


SFはいいね。リリンの生み出した文化の極みだよ。そう感じないか?
アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風

*1:生物などの集団にも物理的でなく存在できるということは、非展開体は有機体生物の中を走る電磁パルスに寄生できるということなんだろう。なのでストリームとして集合しそこで自我を持つ