記号化された「ヒトラー」

私が目覚めたとき、大きな通りの真ん中に立っていた。
道行く東洋人と思しき人々は私に目をとめ、私にはわからない言語で話しかけ、写真を撮ろうとしてきた。
私は茫然としながら周囲の状況を観察し、ここがどうやら我がドイツと日独伊三国軍事同盟を結び協力し合う日本国だと確信した。
戦時下にあると言うのにこの巨大なビルに華美な照明、そしてそれを点灯させる電力の無駄遣い。
道をゆく人々は派手な衣装に身を包み、そこここに立つメイド風の服を着た娘が通行人になにかを配っている。配給物資か何かかだろうか。
日本国と同盟を結び、戦況は厳しいと報告を受けていたが、まさか国力を隠していたということだろうか。

しかし、なぜ私がここに……日本人に囲まれ戸惑う中、声を掛けてくれたのが我が同胞、同じドイツよりこの異邦の地に留学をしているというカールだった。
「いいですね!ヒトラーのコスプレは秋葉でもたまに見かけますけど、こんなに見事なのはなかなかないですよ!やっぱりヘルシングとか好きなんですか?少佐の演説いいっすよねー」
「へるs……ヒトラー?私のことを知っているのかね?」
「えぇ、もちろんですよ、その恰好を見て気付かないひとなんていないですよ!」
異邦の地においても我が臣民は私のことを知っていて当然とは思うが、それにしてもここは一体。
「ここはどこなんだ?」
「え?秋葉ですよ。日本の秋葉原。もしかして道に迷ったんですか?」
あきば?あきh……名前はいい。それよりもやはりここは日本なのか。


昨日、アマゾンを覗いてたらKindle版の「帰ってきたヒトラー」がセール価格だったので上下巻買って、読んでる途中の「兵器と戦術の世界史」や「クラウドからAIへ」をすっ飛ばしてさっそく読み始めた。

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ティムール・ヴェルメシュ,森内薫

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現代のドイツにヒトラーがよみがえったら、という視点で今のドイツ社会の欠点なんかをヒトラーがなげき、誇り高きドイツを復活させるべくアジテーションする(周囲はコメディアンだと思ってる)という風な話で、それにしても「軍服」「ちょびヒゲ」「七三別け」などこれほど記号化された戦争をイメージさせる人物って日本だとあまり見ない気がする。

せいぜい日本の軍服を着てるミスターオクレが「お帰りなさい小野田さん」とか故・水野晴朗がシベ超で「山下奉文」をやってるくらい(アメリカンポリスの方がイメージ強いが)で、東條英機のモノマネをするコメディアンなんてまずいない。

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「金髪」「白いドレス」「ほくろとつけまつげ」マリリン・モンロー
袖にふさふさの付いた衣装はプレスリーかジュディ・オングにしきのあきらに見える。

実在の人物をキャラクターとして捉えて、さらにそれをカリカチュアライズ(戯画化)して記号にする。
(顔を似せるとかじゃなく)記号だけでその人物に見える~~そのくらいの単純な記号になっている人物は少ない。
特に政治家においては。

日本だとモノマネをするにしても戦争とか政治を連想させるものはタブーで、それは触れてはならないモノというか、そもそも笑いに繋がりにくい。
ザ・ニュースペーパーなんてコントグループもいたけれど、お笑いに社会風刺とかブラックなものが繋がりにくいのが日本人気質なんだろう。

そういうことを笑いにすると「不謹慎」だとか「ふまじめ」だとか、あとは街宣車でやってきたり。


「帰って来たヒトラー」をドイツ人が読むのと日本人が読むのでは全く感触が違うんだろう。
日本人からすればヒトラーは、海の向こうの「歴史上の人物」であって、存在が現代の現実に地続きになっていない感じを受ける。

記号化されたキャラクター ヒトラー
彼が巻き起こすシニカルでブラックなスラップスティック・コメディ。
読み終わったらなんか書きます。
劇画ヒットラー (ちくま文庫)