ボカロは、音が単調だから早くなる

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?
※ざっくり一面的にだけしか語らず穴が多いのでツッコみ厳禁でひとつ(なにせ穴を塞ぎに広げると冗長になってですね)
浮世絵感の無い日本のポップミュージック - ロックンロールと野球とラーメン

最近のJ-POP/ロックなどの曲のBPMは加速しているそうです。んで、ボーカロイドやアイドルの曲もBPMが200超えの曲なんてのもざらにある。まあ、当然全てのアーティストがそういう曲ばかりやっているわけではないんだけれど、これは傾向としてそんなに間違ってはいないと思う。

個人的にここ最近、日本のロックやボーカロイドとかに対してイマイチしっくりこないなーというか、座りが悪いなあ、と感じるのはここらへんが原因かも、と思う。いや、BPMが速い曲も大好きなんですよ。メタルもパンクもグラインドコアも聴くし。なんというか、柴氏が言うような「浮世絵的な進化を遂げた」楽曲というんでしょうか。BPMが速くて、且つ情報量も多い、という感じの曲。そういうのが苦手というか何というか。単純に歳くっただけかもしれないけれど。まあ、そういう浮世絵感のある曲にも好きなのはあったりするんですけどね。パスピエとかもそんな感じかなあ。

まず昔の曲が遅くて今の曲がどんどん速くなってる、というのは当たり前なんですよね。
なにしろ昔は技術が無かった。
うんぱっぱ、うんぱっぱ、うんぱっぱ。
ちょちょんがちょん、ちょちょんがちょん、ちょちょんがちょん。

音頭だの童謡だのなんだの全部今からすればずいぶん遅い。
浄瑠璃だって歌舞伎だって今からすればまったりしてる。
よいよいよいやさっ、っていうテンポが昔の「アガる」踊りのテンポだったわけで。

オルタナティブ

海外ではジャズ→ロックになり、それがハードロック、メタルがメインストリームになる。
どんどん音楽の情報量がふえていく。
パンク、ハードコアからの流れを受けたメタルが早弾きの隆盛。
80年代ごろに高速なBPMの音(200BPMとか?)がメインストリームとして持て囃されていた中に、ニルヴァーナ辺りのオルタナティブ勢が注目をされる。

メインストリームのメタルに見られる華美な装飾と広大な世界観、そして早弾き。
対して、オルタナは着飾らず、内省的な歌詞と低速な音。
ここでロックの音は、一気に低速化するわけです。

Dinosaur Jr - Feel The Pain - YouTube
Jのギターはメタルのリフを取り込んでいても、それでも曲としては遅い。

テクノロジーとBPMの高速化

一方、ヒップホップのブレイクビーツに対してジャングルとドラムンベースが出てくる。
ドラムンベースが160BPM?程度とそれまでよりやはり早い。

Aphex Twin - Come to Daddy (480p) - YouTube

『Outsides』のリリース時には、「以前バンドで演奏していたときは、俺が頭の中で理解できる最も細かい音符は16分音符だった。今はコンピュータープログラムを画面で見れば、16分音符の中にさらに四つの分割点があることがわかる。そして、その中にさらに156の分割点があることもわかった」と語り、『ENCLOSURE』に関しても、「間」の重要性を説いている。

ジョン:グルーヴというのはつまり音符と音符の間の「間」のことなんだ。ドラムプログラミングをやるようになってから、すべての音楽は「間」の作り方に基づいていることが分かった。60年代と70年代のBLACK SABBATHは「間」の作り方が得意だった。彼らは巨大な空間を音で作り出したし、彼らほど広々としたグルーヴを演奏しているバンドはいなかった。一方で、ジャングルというジャンルはドラムが高速なんだけど、メロディーがスロウで、広々としている。なので、何年も前からBLACK SABBATHみたいなメタルを、エレクトロニックなドラムと組み合わせたらかっこいいと思っていたけど、それを形にする技術がまだ身に付いていなかった。でも今は自分でプログラミングができるようになって、今回のアルバムでそれがやっと実現したんだ。

http://www.cinra.net/interview/201404-johnfrusciante?page=2

ジョン・フルシャンテがインタビューで答えているようにこの「音の間」をデジタルで刻むことが可能になってからBPMは加速した。
従来的な人間の技術では成しえない速度にまで高めることが可能になった。
BPMの加速は技術の進歩とともに革新され、いわゆる打ち込み系で花が開く。
ラップトップミュージックが高速化の一因。

情報量の増大

速度ではなく音の密度というアプローチで情報を増やしたのがマイブラ

My Bloody Valentine - Only Shallow - YouTube
音とは空間における波の連なり。しかし波と波の間には凪がある。
その凪をノイズで埋めつくす。
高速でなくても一つ曲の情報量は異常に多い。

ダンスサウンドと歌謡曲回帰

現在は、たとえばアイドルに多い高速BPMのデジタルダンスサウンドが主流。
早くてチャカポコした打ち込みとそれにあわせて踊る若い娘グループ。

そういう中、高速メタルをベースに打ち込みのダンスミュージックを混ぜたBABYMETALが注目されるのは必定。

BABYMETAL - ギミチョコ!!- Gimme chocolate!! - Live Music ...

ところがそういう中だからこそ、AKBやももクロは高速化するだけではなく「恋するフォーチュンクッキー」「泣いてもいいんだよ」などの歌謡曲回帰の動きを見せることで他との差別化を図る。
こちらの音は明らかに遅い一昔前の速度。
だからこそ高速化についていけないひとらにも受け入れられる(AKBファンに当初ウケが悪かったけれども)。

泣いてもいいんだよ/ももいろクローバーZ(NAITEMO IINDAYO) - YouTube


エンターテイメントってのは、全体が早くなったらその中で誰が速さで突出し、誰が低速化するか、という出し抜きあい。
みんな早いし今は早いのが流行りだから俺も早くしよう、では差別化できない。
これには世代論もあって、若い層が支えるカルチャーであればあるほどシーンは早く、支える層が加齢に伴い年齢が上がれば連れて遅くなる、という面もある。
「あのミュージシャンもすっかり落ち着いたね」なんて言われたりもするけど、実際高速サウンドばかりというのはとても疲れる。
アークティックモンキーズがデビューしたての頃は、どの曲も高速ばっかりで、ライヴを見ていてとても疲れたのを覚えてる(@サマソニ)。

Nine Inch Nails "Head Like A Hole" live @ Webster ...
NINだって全部が全部HEAD LIKE A HOLEだったら、ライヴ終わりで死ぬ。

アグネス・チャンと湘南の風

以前になんかの番組を見てたらアグネス・チャンが湘南の風を歌うって企画をやってたんですがね。
アグネス・チャンは歌で出てきた人だし歌えるんだけど、リズムが全然取れない。
湘南の風ってウチら世代からすれば早くもないんだけどアグネス世代からすれば高速に感じるんだろう。
完全に遅れてしまう。

ロックを聴いてると「こんな早い音楽、何を言ってるのかわからない」とお年寄りが言うんだけれども、お年寄りは情報処理が遅い分BPMが早く情報量の多い音楽は処理しきれない。だからそういうリズムが取れない。
このボカロを支える世代が70とか80歳になったときに果たして200BPMを楽々超えるようなその時代の若い世代の曲を(ただ理解できなくても聴きなれた曲なら音の間は脳が補完するんだけども)聴きとれるのかどうか、興味があるところなんですが。

ボカロと低速化

ところがこの低速化、というのはボカロ文化に向いてない。
低速になる、ということは変化のない音を聴かせ続けなきゃあならないわけです。

【4K画質】初音ミク 「千本桜」 PV 歌詞付 - YouTube
(もともと声楽とボカロを比較するからおかしなこと、なのだけど)クラシックとボカロを比較すればその音の「鳴り」の有無はとても大きく、バイオリンなど楽器の「歪み」という鳴りが低速BPM曲の聴かせる部分になるのだけれど、ボカロ曲でそれを行うのは可能ではあるけれどしんどい。というか高速化して情報を詰め込むほうが楽なわけですよ、単純に。
ひとは基本的に単調で変わり映えのない音を聴き続けているのではなくてその音が歪みあるいは変化する、その「変化点」を楽しむのが「音楽」。
ひとの声は吸い込んだ息を吐き、喉によって音の波に変化させる。
その際にクリーントーンだけではなく声の調子やあるいは意図的な歪み(こぶし、ビブラート、しゃくり)などを入れて変化をつけることでその一音を聴かせるし、そこに魅力を感じるんだけれど、本来それは音の中の「雑味」なわけです。
ボカロや打ち込みと言うのはそういう雑味や訛りがない音を鳴らせる。

だからこそ一音が、面白みに欠ける。
なので必然情報量が増える。


一音に対して雑味や訛りを入れてボカロの「声」を人のそれに近づける、というのはPの「ボカロとは人の声のシンセ」という発想と合致しない。なので高速化は必然。
そして、ダンスやボカロなどの高速のテンポに慣れたそういう耳のリスナーらが支えるユースカルチャーシーンのロックが高速化するのもまた必然なわけですかね。
知りませんけど。

まとめ

時代は繰り返して、テンポは一方に流れるのではなく常にシーンは流動して高速のシーンに低速の異端児が現れ新たな低速シーンが出来て、そのシーンに高速の異端児が現れまた新しいシーンが産まれる。
高速の次は低速、デジタルが流行れば次にアナログが流行り、ロックが流行って次にアイドルが流行ってる。
今のロックがアイドルやダンスサウンドに引きづられて高速化してるのは理解できるとして、じゃあ次のシーンを作るのは新しい切り口で低速なロックサウンドなのかもしれないけど、さてどうなることか。


……書き終って気づいたけど前にも同じテーマで書いてたわ。
イヤ―、老化ってイヤー(でも、せっかく書いたので公開する)。
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