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ライトなラノベ「アリスの物語」を読んで感じる「ラノベってこんなもんだっけ?」感

読書

アリスの物語 (impress QuickBooks)

「ライトなラノベコンテスト」最優秀賞受賞作品!
ぽよよんろっく先生描き下ろしイラスト!
受賞後の改稿にあたり、作家の藤井太洋先生が丁寧に監修!

●アリスの物語

<あらすじ>
株のディーラーである私は、きわめて優秀なAI「アリス」をパートナーとしている。いつものようにITを駆使して情報の裏を読み、ある銘柄に目を付けた。
すべては読み通り、順調に進むかのように思えたが……

――部屋を出る直前、ふと「視線」を感じて振り返ると、いつもならすぐに消えてしまうアリスのホログラフィが、私のことをジッと見つめ続けていた――


<審査時の講評より>
説明のために字数を費やしてしまいがちなサイバーパンク風のSFを、短いフォーマットの中でしっかりと読ませてくれる作品でした。序盤で登場する物がただの小道具に収まることなく、最後に物語を閉じている構成も素晴らしい。


なにやらライトなラノベコンテスト(#ララノコン)の最優秀賞、しかも著者はEVERNOTE界隈~ライフハック界隈の有名人 倉下忠憲で、しかも監修が「ジーンマッパー」藤井太洋の監修と言う(そこそこ)タレントの揃った鳴り物入りの今作。
名前が並んでる方の著作は、過去にどれも読んだことがある。

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ネットでは監修の様子が公開されていたり、特集記事があったりと何やら盛り上げようという機運が見受けられる。
「ライトなラノベコンテスト」最優秀賞の倉下忠憲さんにインタビューしてみた - INTERNET Watch
検索すりゃあいろいろ絶賛記事が出てきます。
そりゃあImpressですからね。
ラノベは、最近読んでなくてSFが多いのですが、どんな感じかとさっそく読んでみました。

ちなみにライフハック界隈とは、特に仲もよくないし空気も読まないので正直に。
あくまで一般的な素人読者の意見です。


自分は素人ですが、ただこれを読む大半も素人です。


★☆★☆★


投稿作品と言う制限があるなかで物語を展開させる、と言うのは理解できるのですが、まずアリスという「AI」が掴めない。

一応ネタバレは避けますが、このアリスと言う「AI」はどうやら対話型の支援型アプリケーションで人型の似姿を表示させる、らしい。
だけれどこのアリスが果たしてカスタムメイドなのかそれとも一般的なのか、ビジネス用途なのか生活支援なのか、が今一つ見えない。
そこって大事な部分ででなければ後半の「え?」が少ない。

アリスと同じ対話型生活支援AIソフトが一般にも普及している世界と言うのであれば、アリスは果たしてその基準から上なのか下なのか。
前半にToDoリストの処理描写入れる必要よりも世界観を入れ込むほうが読者的には手探り感が無くなる。それが解らないままアリスと主人公のやりとりが続きそれによって読者に「アリスと言うAI」を理解しろ、という構造になってる。
でもこれってそういう「対話型生活支援AI」を理解し想定出来てなんぼですよね。

ちなみにやりとりの中でアリスが「主人の好みを行動データなどから判断し自己判断でカスタムする」という伏線貼りをしたいのは理解できますけどね。
で、後半になって「アリスは!」みたいなお手盛りが次々現れる。

そして勝手に危機に陥り、勝手に救われる。
危機って言っても命が失われるだとか、明日から新宿中央公園で段ボールハウスだ、ってんなら危機感もありますけどね。
資産が1億あって自宅に住んでる人と資産が100万しかなくて月6万のアパートに住んでる人じゃあ100万円の価値や危機感に差がある。
昔、デヴィッド・フィンチャーの「ゲーム」って映画がありましたけど、あれにしろセレブのお遊び、しょせんはゲーム。

『ゲーム』 日本予告篇 - YouTube
どんだけ危機でもお金持ちのお遊び。

すっからかんで破産して社会的にも破滅させられ、土地も財産もなく妻にも捨てられ……それが危機。

無実なのに指名手配され、テレビに手配写真が流れ、友だちの家に逃げ込んでも通報され、行く場所もない誰も信用できない……これが危機。

昇進も出来ない、派遣社員と浮気をしているが妊娠したらしく、息子はネットでいじめにあい、娘はニコ生主で毎日男友だちを連れ込んでる、妻は浮気、家のローンはかさみ金はカツカツ、定期健診でガンが発見……これが危機。


あとテロが無い、と言う一文があるのだけれどなぜ書いたんだろう。

テロが無いの一文だけで
「では犯罪もテロもなく貧困の差や宗教のトラブルや思想の問題もないユートピアが舞台で人々は安寧に飽いているのか?」
と感じてしまう。
今から遥か遠い未来なのかそれとも数十年先なのか。
テロが無いと言うのだからものすごい未来ですよね、多分。
その世界がわからないのに「テロが無い世界」とだけ書いてしまうことで、ではこの世界の社会システムの中でこの主人公はどの程度の社会的地位にいるのか、経済システムは何か、時代はいつなのか、など考えてしまうのに、急に今と変わらない株の話になる。
テロはないのに資本主義は続いてるんだ。
(だったら貧富の差も犯罪もあるだろそれは……)

主人公はトレーダーなのだけれどToDoリストでは「今日はクリエイティブなことを行う」といった描写もあり、つまりトレーダーもやっているが他の業務も、と言うことらしくて……いやそれって必要なのかしら。
だったらトレーダーだけでいいやん。
トレーダーでは困る事情があるのか。
それとも「この世界のトレーダーは取引以外の仕事もいろいろと手をつけている」のか。
でもだったら株で損しても他の仕事で救われてしまう。
それこそ軸がブレる。
「トレーダーであってそれ以外には生活の軸は何もなく、唯一社会的地位を支える手段」
これが重要じゃね?

軸がアリスとトレードであれば、仮に
・主人公はトレーダー
・アリスはトレード機能をカスタムした生活支援型対話式AI
・生活支援対話型AIは普及していて富裕層でなくても持っている
・主人公は平均よりも社会的地位が高く、経済的に安定している
・世界はいまだに不安定だが資本主義のこの国にテロは起こらず、貧困もない
・平和と安定に人々は飽いていてネットは国の抑制措置にも関わらず旧時代から変わらず不安定

……こういうセカイの「場」があった上にキャラが踊るなら、読めるのだけれど(随分なユートピアですが、こうなると資本主義がミスマッチだなー)、場がなくひたすらキャラだけが動きその行動から世界を勝手に読みとれ、と作り込みの浅い世界の断片を見なきゃあならない。これはつらい。
確かに説明的セリフは不格好だが、現代の現実の物理世界でないのならある程度の輪郭は必要。

ラノベってセカイを作らずキャラだけを躍らせる、そういうものだったとは。

サイバーパンク風?……オレの見立てとは違うなぁ。
↓こーいうのをサイバーパンクって言うのだと思うけども。

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★☆★☆★


ジョセフ・キャンベルの言うのmonomythが入ってる、ですか。
……へぇ。monomythは否定されてもいるのですがね。
えらくホコリまみれの古いモノを権威づけに引っ張り出しますね……。


★☆★☆★


とまぁ、いろいろ書きましたがそんなに悪くもないです。
「面白いか?」と聞かれれば「普通」と答えます。
電子書籍で148円のQuickBooksなら順当。
一時間かからず読み終われる。

ただラノベって最近読んでいないんだけれど、こんなものでしたっけね。
最近のラノベがどんなモノだか解らないので何ともですが。

少なくともSFの愉しみって「奇想」にあると思うのですよ。
SFという物理制限がなく一定の科学的裏付けさえあれば構築できる想像力の地平。
だから小川一水神林長平はべらぼうに面白いわけです。

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とはいえ今作が最優秀賞なのは事実なので、もしラノベ読みに絶賛されるだとしたら、ラノベ界隈は以降手を出さなくていいのかもなーと思うのですよ。

何ごとにも相性と言うのはありますから。
多分、ウチの趣味とは違うんでしょう。

ラノベ読みの人が読んだ感想を知りたいものです。
一般的ないちSF(ミステリ)読者の平均的な感想は以上になります。
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