系統を辿る「ミステリ家系図」と言う読み方

最近、「ヒップホップ家系図」だとか「文化系のためのヒップホップ入門」だとか読みつつ、まだまだ未開拓なヒップホップというジャンルを歴史をなぞったり順番に辿っているのだけれど、こうやって系統立てて曲を聴いて行くと時代の変化やその流れが見えて面白いと感じる。
時代の変化点やそのポイントとなった部分も見える。


ネットには「面白い映画10選」だとか「名作ミステリベスト」だとかいうリストが転がっていて、そういうものをブクマする人は、それを参考に見たり読んだりするのかもしれないけれど、お手軽な「面白いものだけのおいしいとこどり」のリストが無かった以前は、
「歴史を辿る」
「関連している、似ている作品を読む」
「好きなジャンルにあたったら、そのジャンルで名前が挙がる作家の作品を手当たり次第読む」
「その作家が影響を受けた作品、その作家が好きな作品を読む」

どんどん遡ると言う聴き方や見方、読み方が個人的には多かったように思う。

「作家」単位で読むので、当然アタリも踏むしハズレも踏む。
時間のムダ、壁投げ本。
そういうものも山ほど読んだし記憶に残っていないものも多い。
ミステリマガジン700 【海外篇】 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

この記事では、そういういまどきでない
「系統立て、関連した作品を辿り遡る」
という読み方を考えてみる。
(京極や米澤じゃなく乱歩を読め!横溝を読め!と言うのではない)
今っぽくなく総当たり、ベタ踏みで、非効率的な手管。


新本格 ~opening move~

今回は、ミステリ小説で考える。

スタートは現役の作家、話題の作家から始めるのがいいだろう。

たとえば綾辻行人の作品を読んで面白いと感じたとする。
アニメの「Another」を観た、Twitterでフォローしてみて興味を持った、でもいい。入口なんてなんだって構わない。
十角館の殺人〈新装改訂版〉 (講談社文庫)
次は「新本格」という繋がりで他作家を読んでみるのもいい。
我孫子武丸有栖川有栖法月綸太郎西澤保彦貫井徳郎
新本格を提唱した島田荘司を読むのもいい。
駄作も山ほどあるしメフィスト賞を辿ればバカミスの宝庫。
六枚のとんかつ (講談社文庫)
同じ「新本格」でも綾辻行人はホラーやサスペンス映画の影響も強いが、西澤保彦ならSFなどトリッキーな舞台設定が多いし、貫井徳郎なら必殺仕事人だったり、法月ならクイーンの諸作やロス・マクドナルドリュウ・アーチャーからの影響も見られる。

新本格→ハードボイルド

そこで次に法月が影響を受けたアーチャーの『ウィチャリー家の女』『縞模様の霊柩車』『さむけ』辺りを読んでハードボイルドを学んで、ハメットや村上春樹訳のレイモンド・チャンドラーを手に取るのも面白い。
さむけ (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-4)
個人的にはマイクル・Z・リューイン辺りが好みだが*1、もちろんミッキー・スピレインローレンス・ブロックに行くのもいい。
ブロックなら名作『八百万の死にざま』もある。
A型の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

新本格→本格黄金時代

あるいは時代を遡って新本格→黄金時代、という読み方もある。
今週末からSHERLOCKの第三シーズン開始ですし。
原典を読むのもまたをかし。

Sherlock: Series 3 Launch Trailer - BBC One - YouTube

有名なコナン・ドイルにクリスティーにクイーン、カ―、チェスタトン
クリスチアナ・ブランドの『緑は危険』『ジェゼベルの死』『はなれわざ』なんかもいいがやはりハイレベルな短編集『招かれざる客たちのビュッフェ』でこの当時にこれだけ趣向を凝らした作品を書く作家がいたのか、と感心するとさらに興味も深まる。
招かれざる客たちのビュッフェ (創元推理文庫)
東京創元推理が出していた「シャーロックホームズのライヴァルたち」でジャック・フットレルの『思考機械の事件簿』やドロシー・セイヤーズ『ピーター卿の事件溥』を読んでみたり。

ホームズとパスティーシュ

もしシャーロックホームズが面白かったなら、パスティーシュに手を伸ばすのもいい。
『シャーロックホームズの功績』『シュロック・ホームズの冒険』『シャーロック・ホームズの秘密ファイル』なんて王道(?)から『シャーロック・ホームズ宇宙戦争』『シャーロック・ホームズ対ドラキュラ』なんてものもある。
シュロック・ホームズの冒険 (ハヤカワ・ミステリ文庫 42-1)
クトゥルフ神話でお馴染みオーガスト・ダーレスも『ソーラー・ポンズの事件簿』を出してる。

安楽椅子探偵

黄金時代ならオルツィ『隅の老人の事件簿』で一風変わった安楽椅子探偵を読むのもアリ。
ABCショップの隅っこに座ってる名前も解らない謎の不審なヂヂイが、急に未解決事件の推理を始める、という不思議作品。
隅の老人【完全版】
*2
安楽椅子探偵と言えばケメルマン『9マイルは遠すぎる』というのもある。
隣の席で
「A nine-mile walk is no picnic, especially in the rain.」
(9マイル歩くなんて、遠すぎる。雨ならなおさらだよ)
という会話を聞いた主人公ら。
英語の教授であるニッキイ・ウェルトは「~is no picnic」という表現から話し手がうんざりしていると考え、「especially in the rain」という表現から雨降りを予想していなかったことが解る、など推理を巡らせていき、やがてそこに犯罪の影を……。

安楽椅子探偵と言えば日本にも都筑道夫『退職刑事』という名シリーズもありますね。
退職刑事 (1) (創元推理文庫)
表紙にもなっている短編「ジャケット背広スーツ」
現役刑事の息子が退職した刑事である父親に事件の話をする。
殺人事件が発生。容疑者が逮捕されるのだけれどその容疑者が「手に背広とジャケットを持ったスーツの男を見かけた」のだという。
その男が見つかれば容疑者のアリバイは成立するのだけど、父親はその「ジャケットと背広の上を抱えスーツを着た男」が気にかかり推理を始める。
……ってな具合。

アンチ・メタミス

物語が「読者が読んでいる間だけ脳の間に浮かぶ虚構である」ことを意識しているメタ。
ミステリで決まりごとのコードをあえて壊し否定するアンチ。
新本格麻耶雄嵩京極夏彦を読んでそんなメタやアンチ・ミステリの魅力に気付くかもしれない。
舞城王太郎煙か土か食い物』、山口雅也『ミステリーズ』
積木鏡介『歪んだ創世記』、清涼院流水のJDCシリーズ。

今や売れっ子東野圭吾の『名探偵の掟』も忘れられません。
定本 ゲーム殺人事件
もちろん竹本健治匣の中の失楽』の衒学横溢する世界にコペンハーゲン解釈を見るのもよいし、その流れで『ウロボロス偽書』や『ゲーム三部作』を堪能するのも贅沢な時間。
そこから夢野久作ドグラマグラ小栗虫太郎黒死館殺人事件中井英夫『虚無への供物』の黒い水脈を辿ってもいい。
ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎 (晶文社ミステリ)

ネットで検索してT.S. ストリブリング『カリブ諸島の手がかり 』を知り、噂の「ベナレスへの道」にガツンとやられるかもしれない。
カリブ諸島の手がかり 世界探偵小説全集 (15)
もし世界探偵小説全集を読むならマケイブ『編集室の床に落ちた顔』もメタミス好きなら読んでおくべきでしょう。

みんなで推理を

シェリンガムで思い出したがたとえば西澤保彦の『麦酒の家の冒険』を読んで、複数の推理が構築されては崩される作品が好きになる人がいるかもしれない。
我孫子武丸の『探偵映画』や米澤穂信愚者のエンドロール』でもいいけれど。
愚者のエンドロール (角川文庫)
海外作品で有名なのが、バークリーの『毒入りチョコレート事件』
未解決の毒殺事件を巡り6人がそれぞれの推理を披露しあう。
同じ趣向としてアイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』も有名。
黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)

倒叙ミステリ

古畑任三郎大倉崇裕『福家警部補』シリーズみたいな倒叙ミステリが好きならフランシス・アイルズ『殺意』、クロフツ『クロイドン発12時30分』、リチャード・ハル『伯母殺人事件』と有名作品を読みあさったり、ロイ・ヴィカーズ『迷宮課事件簿』を読むのもアリ。
隠れた名作ですが。
映画で『死刑台のエレベーター』もいいですね。

映画『死刑台のエレベーター』予告編 - YouTube
そこからマイルスにハマってジャズを聴き始めてみたりすると趣味の幅が広がる。
ルネ・クレマン太陽がいっぱい』なんかも有名。

SF・ファンタジー

笑う怪獣 (実業之日本社文庫)
米澤穂信『折れた竜骨』とか西澤保彦の諸作みたいにSF・ファンタジー設定を取り込んだミステリと言うのもありますよね。
【ラノベ】折れた竜骨とノックスの十戒【マジカル密室】 - あざなえるなわのごとし
殊能将之の『黒い仏』『キマイラの新しい城』
山口雅也『生ける屍の死』はゾンビが存在する世界の殺人事件。
この前文庫で都筑道夫『未来警察殺人課』が出たばかり。
法月『ノックスマシン』もSFとミステリを融合させてる。
2014このミス一位だからって「ノックス・マシン」は、誰もが読んで面白い訳じゃ無い - あざなえるなわのごとし


殺竜事件 (講談社ノベルス)
ブギーポップ上遠野浩平殺竜事件』なんてのもありましたっけね。
エドワード・D・ホック『コンピューター検察局』とかもいい。

ファンタジーとかSFとか「ある程度なんでもアリ」なセカイでいかにお手盛りでない舞台を敷いてそこで物語を展開させるのか、それがこのSF・ファンタジーを盛り込んだミステリの読みどころ。

日常系

米澤穂信が好きなら日常系ミステリの系譜を辿るのも面白い。
猫丸先輩の空論 (講談社文庫)
倉知淳の猫丸先輩、我孫子武丸の『人形は眠らない』、加納朋子若竹七海
そして北村薫『空飛ぶ馬』に始まる「円紫さんと私シリーズ」に北村薫と言う作家の卓越した技術を見るのもまたいい。
北村薫氏、今日の王様のブランチに出演してらっしゃいましたが。
盤上の敵
とはいえ北村薫といえば『盤上の敵』は絶対外せないわけですが*3
日常系好きが海外作品を読むならクリスティのミスマープルとかのコージーミステリへの移行がスムースではないかと。

映像化

名探偵ポワロ 全巻DVD-SET
本を読むのが面倒ならまず映像から、ってのもアリだと思うんですよね。
クリスティーは読みやすいですけどデヴィッド・スーシェポワロノートを造り込んで演じたエルキュール・ポワロ(声:熊倉一雄)は素晴らしいし*4、ホームズを演じたジェレミー・ブレッド(吹き替え:露口茂)はシャーロキアンも認める完成度。
ミスマープルもそうですがNHKで放送するやつは、いつも完成度高い。

Agatha Christie's Marple S06E03 - YouTube





こうやって名作・駄作を経てミステリ家系図は続き、蓄積されると自分の中に系統だったものが出来上がる。
美味しいとこどりのリストは、だから好きではないのですよ。
ミステリマガジン700 【国内篇】 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

*1:アルバート・サムスンシリーズは押さえよう

*2:最近、この画像の完全版出たんすよね。文庫には未収録の短編入り。かなり欲しいけど買っても積読確実

*3:善意の登場人物が多い北村薫作品において悪意の極北と言えばこの作品

*4:映画版のときにポワロ役をピーター・ユスチノフジャップ警部役をデヴィッド・スーシェが演じたのだけれど、撮影現場にクリスティの娘が来ていてデヴィッド・スーシェを見て「あのひとがポワロにいいんじゃない?」といいテレビドラマ版でポワロ役に抜擢された、と言う話を聞いたことがある