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多世界解釈+密室殺人 芦辺拓「異次元の館の殺人」

異次元の館の殺人

反骨の検事・名城政人が殺人容疑で逮捕された。検察内部の不正を告発しようとしていた彼の罪状には、冤罪の疑いが色濃い。後輩の菊園検事は、弁護士の森江春策に協力を仰ぎ、事件の再捜査に乗り出す。しかし、放射光鑑定をするはずの研究機関で暴走事故が起こり、〈悠聖館〉では新たな殺人事件が発生する。それは、菊園検事を謎と推理の迷宮へといざなう招待状だった──。パラレルワールド本格ミステリを融合した驚異の傑作!

※以下、多少のネタバレを含む








SF meets ミステリ、と言うのは幾つかあって、鏡明「不確定世界の探偵物語」はタイムマシンを操る犯人が登場し、法月綸太郎「ノックスマシン」でも時間を遡行が登場する。
西澤保彦はSF設定や超能力(「瞬間移動死体」「神麻嗣子の超能力事件簿シリーズ」)をテーマにしたモノも多い。
中でもこの「異次元の館の殺人」を読んでいて連想したのは、そんな西澤保彦の「七回死んだ男」

七回死んだ男 (講談社文庫)七回死んだ男 (講談社文庫)
西澤保彦

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「七回死んだ男」はケングリムウッド「リプレイ」や映画化された桜坂洋オール・ユー・ニード・イズ・キル」のようにタイムループをテーマにしたミステリ。
あるとき時間のループにハマった主人公が、そのループの間に事件を解決しようと悪戦苦闘する話なのだけれど、この「異次元の館の殺人」もそういった平行次元に捕まった主人公が密室殺人事件の謎を暴こうとするミステリになってる(これも面白いのでお勧め)。


作中に、かの有名なシュレディンガーの猫の逸話が登場。
ネコの視点に主人公は置かれ、猫であると同時に観測者として機能し、世界はパラレルに別れていく。


平行次元と時間遡行という、小川一水の「時砂の王」を思わせもするかなりの設定を仕掛けつつキッチリとトリックメインのミステリをやって見せるのはなかなか上手い。
密室殺人事件はメインでありながら、このパラレルワールドにハマった、と言うところがキモで、そこでも面白い趣向が凝らされている。
「似ているけれどどこかの何かが少しづつ違っている、ありえたかもしれない世界」がパラレルワールドですから、新しい次元にステージが変化するたびに要素が変化していくのも面白い。

ごく普通のミステリ(死体がよみがえったり、超能力者が登場したり、神の声が聞こえる探偵だとか、幽霊が蓋然性の殺人を仕掛けたりしないような)に飽きたと言う方にお勧めの一風変わった新本格ミステリ作品。
面白いのでサクサク読める(二日で読み終わった)。



※以下、ネタバレでひとこと

ネタバレ無視で書くと、読んでいる当初は「七回死んだ男」でやってるような「何度も同じ状況を繰り返し失敗するたびに戻される」の亜流といった印象で、あえてパラレルワールドでもなぁ、と思ってたらそのパラレルワールドでの変化自体にトリックが仕掛けられていて、これはさすがになるほどとうなりつつ、それぞれの次元での披露される失敗した推理が断片的に徐々に真相を明かしていき、最後に収束して真相に辿りつくと言う物語構造はパズラーとして非常に端正な印象。
とはいえ世界(ネコ?)が「正しい回答」を欲して間違った回答が出るたびに補正し、最終的に「最も真理に正しい」世界へと収束させるとして、収束させるべき真理を知る観測者の視点はどこにあったんだろうな?などとも思ったし、それを「正しい真相へと収束させるべきである」と考えたのは誰なのかな、と。
それは、笑いだけを残して消えたネコ、あるいは作外にいる作者(「ウロボロスの基礎論」)ということなのかな。