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危険なプロパガンダを読み解く

※一部マニア向け記事
※リテラシーの高い方には今さら


ISISは戦闘資金を調達するために年次活動報告書を発表している
こーいう記事がありまして。
ISISが手の込んだ年次活動報告書を出してる、と。
でも、これを見て「近代っぽい」とか「スタイリッシュ」「洗練されてる」とかよりも個人的にはナチスのゲッペルス辺りを連想する。
本質は暴力であれパッケージを整えれば美しくも見える。

ナチスの制服をデザインしたのは、現存するファッションブランド ヒューゴ・ボス*1
そりゃあ見た目も洗練されてる。
ヒトラーの演説で民族主義をアジテーションして正論として浸透。
ドイツはナチスに引きずられまくった。
メディアとプロパガンダ
プロパガンダは、どのような方法であれ、民衆に暴力を正当なモノと喧伝するために存在する。

現場レベルで、暴力に綺麗も汚いもない。
痛いのは当たり前、死ねば肉塊なのは万国共通。
でも理念や崇高さや美化はそれを感じさせない。

で、そんなプロパガンダに感化されてしまうと、どんな風になるのか、と言う実例を見てウイルスのように広まるプロパガンダの危険性を考える記事が以下。

たまにはテレビやお笑い以外のことも。



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1.主語のすり替え

今、イスラム国という存在が日本の若者に語りかけるメッセージは、とてつもなく重い。(魚拓)
炎上商法には魚拓。
元記事が読みたい人は下に貼ったツイッターのリンクとか、ググって勝手にどうぞ。
最近あんまりがっつりと否定・批判はしないんですが、これはさすがに引っ掛かった。
書かれているのはイスラム教及びイスラム国(旧:ISIS)マンセー。

でも流入の手助けは炎上商法を喜ばせるだけ。
ネットでは、無名の正義より有名な悪名こそが正しい。

だから難しいところ。

日本人の若者がイスラム国に参加しようとしたということで謙虚されたニュースが話題になっていた。

まぁ、遅かれ早かれあるだろうなーと思っていたら、やっぱりこういう事例が出てきた。
(中略)
とにもかくにも、過激派組織のイスラム国に日本の大学生が参加しようというニュースは日本にかなりのインパクトを与えて、一層イスラム国という組織の恐ろしさを引き立てることになり、カルトに向かう若者たち、イスラム国憎しの論調が高まっているが、あえてそのような環境下とリスクを承知で言うが、僕は世界や日本からイスラム国へ行く若者はこれからもドンドン増えて行くと思っていて、さらに言うと日本はイスラム国を救うべきだと思っている。

もうニュースでもさんざ流れたんですが、例の北大生はメンがヘラってたわけですよね。
過激派「イスラム国」参加志願者が杉並区阿佐ヶ谷に潜伏?!アジトの様子を見てきました - DEEP案内編集部
少なくとも北大生は、今の日本の若者像としてマイノリティというかイレギュラー。
なのに記事では、彼を挙げつつも主語が「日本の若者」になってる。

日本人の若者がイスラム国に参加しようとした
イスラム国に日本の大学生が参加しよう

「日本の大学生」ではなく「日本の”メンがヘラった”大学生」ならイメージが全く異なるし、実際そうなのに。

この手法どっかで見たなと思ったら、過去に某幼女誘拐連続殺人事件が起きた際
「宮崎某をみろ!おたくは犯罪者予備軍だ!」
「ホラー映画やマンガの影響で精神が歪んだんだ!規制しろ!!」

と叫ばれたのを連想した。

宮崎という振り切ったイレギュラーが、なぜかおたくの代表例になり、歪んだ偏見が結び付き、抑圧・バッシングの正当化、公明正大な口実になった(しかも当時、マスコミによるイメージ操作すらあった)。
この記事でも、”メンがヘラった”北大生は今の若者の代表、あるいは先兵のようなイメージにすり替えられている。

2.理想論と裏付けする事実名と

国とは何か。四方を海岸線という国境に囲まれ、歴史的にも単一民族単一言語、そして同じ価値観を持つ人種で構成された、日本には理解できない感覚だが、世界の多くは国と言っても地続きで大地が広がっているだけでただそこには目には見えることのない、勝手に人間が決めた線があるだけだ。

同じ言葉を話し、同じ宗教を信じ、同じ場所に住み、同じ文化を持つ、だが、外からやってきた誰かが国境という勝手な線を引いた事で終わる事のない争いや貧富の差が生まれ続ける。

世界が進歩しているとするなららば、果たして自分たちを区分し争わせるこの線とはいったい何なのか? なぜ貧富の差はなくならないのか?

この言う「国」が果たしてstateなのかnationなのかcountryなのか解らないが、勝手に国境を引いただけでなく山岳などの自然条件などにより分断されたりして独自の文化が形成され国が出来る。そして同じ宗教を信じるとも限らず、地面が繋がっていようが文化的に異なる隣国は存在する。
争いや貧富の差は国と国同士で起きるとは限らない。
国境が全ての原因だと言いたげだが、貧富の差は過去どのような社会制度であれ存在しているし、他国の干渉を必ずしも必要とはしない。
なぜそこに原因を求めるのか。
多分、プラネテスでも見て感動したのか、イマジンでも歌いたいのかもしれない。

時を同じくしてその矛盾は世界各地で火を噴いた。

ウクライナ問題、スコットランド独立、カタルーニャ独立、香港民主デモ… 

そして時を同じくして資本主義が生んだ格差は狭まることを知らず、世界の格差が1820年代まで逆戻りしたとの報もあった

世界は、今、大きく揺れている。

果たして今、国とは、社会とは一体何なのかをイスラム国は世界に投げかけてきた。

ここまで読めばわかると思いますが、ウクライナ情勢は民族や歴史など様々条件があり、スコットランド独立は北海油田の利権も絡んでる。
他と絡めて「国境などがあるからだ!」「貧富の差が無くならないからだ!」など一元的な原因で語れるほど単純なものではない。

それっぽいものを並べているだけ、というのがよくわかる。
こうやって実際にあった事件名を中身は違えども並べておけば、まるで前段を裏付ける後段に見える。

民族も、規模も、環境も、歴史も、思想も、経済・政治状況も、目指すものも全て異なる。
例え国境がなくなってジョン・レノンのモラトリアムになったところで人種の差は変わらず、モノが有限である限り貧富の差は必ず発生する。
世界は、物理的に均一な環境にあるわけではない。
文化や認識・環境の差、価値観の違い、どんな要素であれひとの争いの種は尽きない。
ウィ―アー・ザ・ワールド歌ってりゃあ平和なんて理想郷は、とっくに追い出された。

3.美しいところだけを並べる

こうもイスラム国が世界的な注目を浴びるのも、ソーシャルサイトや動画サイトにアップロードされた動画に代表されるその残虐的とされる所業によるところが大きい。かつてメディアが決しておさめることができなかった戦争の現場の最前線を、まさに兵である最前線の自分たちがスマートフォンで撮影し自らが公開する、未だかつて人類が経験したことのない時代となったのである。

こういう政治的運動をネットを介して~というのはイスラム国に限ったわけではなく、チュニジアのジャスミン革命辺りがまずあって、そしてエジプトのエジプト革命があった。
現場の最前線をネットを経由して情報共有し、そして政権を打破した。
「未だかつて人類が経験したことのない」どころか、数年前から起きているその動きを見て学習したからこそイスラム国は、ネットによる情報の共有及びプロパガンダの重要性を考えたんでは?


ちょっとイスラム国(ISIS)のプロパガンダを調べていたら面白い記事が。
ISIS、Twitterのアラビア語人気アプリを使って一大プロパガンダ : DON

アトランティック誌の報道によると、この「夜明け」というアプリにサインアップするには、ユーザーは驚くほどの個人データをアプリ側に与える事に合意する必要があります。これが当人の知る知らないにかかわらず、ISISが送信し、力の源泉となっているのだそうです。なお、「夜明け」は今年4月に世に出ましたが、利用者が激増したのは、ここ数週間の話だそうです。当然、フォロワーも激増中。先に挙げた日曜の写真では、処刑の模様を映し出しており、数百人のユーザーがTwitter上で大量にこれを投稿。「我々はバグダッドに向かいつつある」(“We are coming, Baghdad.”)と言う暗示をする格好となっていたのだとの事です。

こう言うところは確かに「新しい」。
やり口としてはクラッカーとか、スパイアプリみたい。
でも「新しい→素晴らしい」ではない。

閑話休題。

4.都合の悪いものは見ない・考えない

残虐に見える彼らの殺害ビデオを彼らがわざわざ自分たちで公開しているのは、決して猟奇的趣味でもなんでもなく、そうして恐怖心を煽ることで、抵抗勢力の余計な抵抗を無くし戦闘を有利にすすめるためである

逆に言えばテロ集団であることは一目瞭然ということでもある。
更に言うなら己の残酷性を宣伝するのは戦略としては下

「天下共立義帝,北面事之.今項羽放殺義帝於江南,大逆無道.寡人親為發喪,諸侯皆縞素.悉發關内兵,收三河士,南浮江漢以下,願從諸侯王擊楚之殺義帝者.」

項籍 - Wikipedia

紀元前206年に起きた楚漢戦争。
項羽が率いる軍勢はとても強かったが敵の降伏を許さなかったために抵抗する兵が死兵と化したせいで徐々に項羽軍が疲弊し四面楚歌になる、と。
恐怖は敵の気持ちを削ぐとともに敵愾心を育てもする。
こんなことを嬉々として書く神経が理解できない。
「残虐に見える彼らの殺害ビデオ」では実際に人の命が失われているのに、流れた血を見ずにその効率性だけを謳う。


人殺しを「賢い」と言うらしい。

実際に行われているイスラム国による残酷な行為や、流れた血や犠牲者はさておきプロパガンダの優秀さなどを「革新的だ!」と謳う。
しかし実際は革新的でもなく前例もあり、ましてや暴力はどれだけリボンをつけようと変わらず暴力。


この後は彼が自分の言葉に酔いしれた文章が続く。

5.そして既存のものを流用する

この後は、パトレイバー2での荒川茂樹(cv.竹中直人)の演説で言われてたことを言ってるだけ。
映画のセリフの方が洗練されてるので、ここではそちらを引用する。

前の戦争から半世紀。俺もあんたも生まれてこの方、戦争なんてものは経験せずに生きてきた
平和
俺達が守るべき平和
だがこの国のこの街の平和とは一体何だ?
かつての総力戦とその敗北、米軍の占領政策、ついこの間まで続いていた核抑止による冷戦とその代理戦争。そして今も世界の大半で繰り返されている内戦、民族衝突、武力紛争。そういった無数の戦争によって合成され支えられてきた、血塗れの経済的繁栄。それが俺達の平和の中身だ。戦争への恐怖に基づくなりふり構わぬ平和。正当な代価を余所の国の戦争で支払い、その事から目を逸らし続ける不正義の平和
そんなきな臭い平和でも、それを守るのが俺達の仕事さ。不正義の平和だろうと、正義の戦争より余程ましだ
あんたが正義の戦争を嫌うのはよく分かるよ。かつてそれを口にした連中にろくな奴はいなかったし、その口車に乗って酷い目にあった人間のリストで歴史の図書館は一杯だからな
だがあんたは知ってる筈だ。正義の戦争と不正義の平和の差はそう明瞭なものじゃない。平和という言葉が嘘吐き達の正義になってから、俺達は俺達の平和を信じることができずにいるんだ
戦争が平和を生むように、平和もまた戦争を生む。単に戦争でないというだけの消極的で空疎な平和は、いずれ実体としての戦争によって埋め合わされる。そう思ったことはないか
その成果だけはしっかりと受け取っておきながらモニターの向こうに戦争を押し込め、ここが戦線の単なる後方に過ぎないことを忘れる。いや、忘れた振りをし続ける。そんな欺瞞を続けていれば、いずれは大きな罰が下されると
罰? 誰が下すんだ。神様か
この街では誰もが神様みたいなもんさ。いながらにしてその目で見、その手で触れることのできぬあらゆる現実を知る。何一つしない神様だ。神がやらなきゃ人がやる。

http://homepage1.nifty.com/~yu/p/p2.html

「戦争」「平和」「神」「モニター」
似たようなワードが並ぶ。
公安に化けたテロリスト荒川のセリフ。

6.語りかけの強さ

イスラームの言葉の語源を知っているか?

こたえは「平和」だ。

ムハンマドが目指したイスラームは、老若、男女、貧富、国籍、皮膚の色等の一切の差別がなく、信徒のすべては兄弟姉妹として、信頼と相助の精神によって結ばれる人間性に徹した宗教だ。だから我々はアメリカ人だろうがイギリス人だろうが何人だろうが志願するものは誰も拒まない。そしてイスラームに強制はないしそこには差別も、制限も何もかもない。その礎となる模範国家を自分たちは今つくろうとしている。君たちの社会には君を必要とする理由はないけれど、こちらには君を必要とする大義がある。

さて、元記事を読んで気付いただろうか。

------を挟んで前段は「日本の若者」という主語。
後半は「君」に代わっている。

つまり最初は客観的な視点で読ませ、途中から訴えかけに変化している。
「俺は関係ないけどイスラム国って悪くなくね?」とまず客観的に。
中盤以降人称が代わる。

記事前段ではイスラム国を語り、最後にイスラム教の理想をくっつける。
まるで同じもののように。

君たちの社会には君を必要とする理由はないけれど、こちらには君を必要とする大義がある

この「君たちの社会」は現代日本の社会だが、では「こちら」とはどちらだろう?
イスラム教か?
それともイスラム国か?

九月半ばにイスラム教に興味を持った管理人が一か月程度の付け焼き刃で語る「こちら」とは一体?
イスラムに行ったわけでもない。
信仰を始めたわけでもない。
目の前で撃ち殺されるひとを見たわけでもない。
撃ったわけでもない。
でもイスラム国は素晴らしいと語ってしまう。

しかも彼の中で、イスラム教とイスラム国が同じ基準で語られてる。
この怖さ。

これを語っている「こちら」とはどこなんだろう?
平和な日本でモニター越しにイスラム教の素晴らしさを知り、イスラム国に魅力を感じ、ひと月程度読み齧って、ブログで血にまみれたことのない手でキーを打ち、アジテーションを書くのに喜びを見出す書き手は果たしてどこにいるんだろう?
日本の上野にいるニートの管理人は「君たちの社会」と語りかけるのだから、彼は日本の社会から既に逸脱しているのかもしれない。
本気で自分が書いたことを信じているなら、来月はイスラム国からの現場レポ記事だろう。
はてな初のイスラム国移住者。
拝聴先生の次回作に乞うご期待!

イスラム教は一度始めればやめられない宗教。
改宗、棄教は原則認められない。
改宗したければどうぞ。


さて、戦争を否定せず平和を否定し暴力を容認しイスラム教の素晴らしさを謳いその流れが次の

日本の貧困層を救ってくれるのはイスラームしかないって確信した。(魚拓)
こちらの記事へと繋がった。
こちらは広く読まれ、中身の浅さに燃えたようですが。

もう、そろそろ覚えようね。
炎上商法の常連は。

7.国境なきネットプロパガンダ

イスラム教の理想。
実際のイスラム国は理想とはかけ離れている。
だがプロパガンダは成功し、感化される人間が現れる。

まるでコンピューターウィルスのように世界中に、さまざまな形で脳に入り込む。
感染した脳は更にウイルスをまき散らす。

だからこそ一歩引いてなきゃあならない。
だからこそまき散らしてはいけない。

実際の伴わない理想論者の現実を見ない綺麗な演説ほど胡散臭いものは無い。
現実の欠落した理想論者のプロパガンダ。

しっかし共感、とか言っちゃうひとって何を読んでるんだか。
そりゃあ旅ラボがあんななるわなぁ……。




【参考】
「イスラム国」に引き寄せられる欧米の若者 :日本経済新聞

一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教 (集英社新書)

*1:諸説ありますが生産はヒューゴ・ボスが関わってた