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名探偵が「俺の周りで人が死にすぎている…」と気づく、というようなメタな展開をする作品

小ネタ 創作


名探偵が「俺の周りで人が死にすぎている…」と気づく、というよ… - 人力検索はてな

またひとが死んだ。

わたし、名探偵 エルキュール・ポワロの血が流れる箆暮(へらくれ)十二郎の周りではいつもひとが死ぬ。
今回も友人である朝田兵一の誘いで訪れた雪山に建つ館で殺人事件が起きた。
謎の建築士が建てた奇妙な館は、真上から見れば巨大な凹の形をしている。
警察を呼ぼうにも携帯は繋がらず、電話も何者かによって切断されていた。

完全な孤立状態の館。
そこで起きた殺人事件。



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「雪山」「奇妙な館」
誘われたときから、このシチュエーションに嫌な予感がしたんだが、楽天家な兵一は
「大丈夫大丈夫、そんなにしょっちゅうひとが死ぬわけないだろーwww」
と草を生やして言った。
一体二人でこれまで何度事件に巻き込まれたか……健忘症の気があるらしい。
魔道館の連続殺人では”魔道卿”と名乗る殺人鬼を追いつめるまで二十人近くが死に、豪華客船ネメアー号では次々現れる密室の謎と戦い十五人が死に、それに……キリがない。
ったく清涼院流水か。
わたしが、じと目で平一を睨むが気づかぬふりでコーヒーを飲んでいる。全く……。


この館、略図を書くと二つの棟にそれぞれАからП、РからЯまでの文字がふられて
事件は、Яの部屋で発生した。

АБВГДЕЁЖЗИЙКЛМНОП
←リビング
РСТУФХЦЧШЩЪЫЬЭЮЯ

棟はリビングで繋がっている。
トリックを仕掛けるために作られたような館は、斜めに傾いた屋敷の見取り図を見たとたんに「え?だったらこれって斜めってるからナイフが~」など推測出来てしまうくらいに恣意的過ぎて、わざわざわかりにくいロシア語とか、ずらーっと並んだ部屋とか、これは長い館とかでさんざ使われたあのトリックしか……。

「あら、もうコーヒーなくなった?」

兵一が言う。
そろそろアレの時間らしい。
アレと言うのは探偵の助手に割り振られた「トリックの大きなヒントになる一言」を不意に口にする場面。
これが鬼面警部なら左時枝か間下このみが何か言い、鬼面は事件の核心に気づくわけだが……。

「なんだ、このマグカップ底上げなんだ」

底上げ、ハイ、出ました。
わたしはわざわざ何か気付いたような表情をして見せた。
もちろん、この表情は鏡で練習している。
目を大きめに開いて、誰が見ても「あ、何か気付いたな!」とわかる、それでいて押さえ目に。
底上げと言うことは、もうあれしかないしだとすれば文字をどうやったか、か……。

しかしアレがやけに早い。
何だ?
これは長編じゃなく短編なのか?
殺人事件と言うのは、まず事件の関係者が一人一人紹介され、それぞれのドロドロした人間関係を表すエピソードが挟み込まれ(どこかの部屋で密会しててそれをコッソリ誰かが見ているだの、誰かにやけどの跡があるとか、地元に伝わる謎の子守唄とか、謎の覆面を被った行方不明の男が登場するとか)そして事件が発生、通信が断たれていることを確認し、各人のアリバイを聞いて、調査開始、しかし犯人が解らず再び殺人が……これがミステリの王道パターンだろう。
今はまだ各人のアリバイを聞いたばかり。
ここでトリックが解ってしまった。
つまりこれひとつで終わると言うことだろう。
……弱い。
短編を支えるのにこんな今さらなトリックで大丈夫なんだろうか、と登場人物ながら思ってしまう。


そう、わたしには登場人物として自覚がある。

わたしや館や殺人やこの世界は、文字を読んだときに読み手の脳内に擬似再生される影。
だからわたしがこうやって思考していることも誰かが読んでいて、その脳内で再生されているからこそわたしは考えることが出来る。
いや、わたしと言う存在の思考を読み手の中の思考に擬似再生させるように仕向けてあると言うことは、この作品はきっと「メタ」と言うやつだろう。作品だけではなく作中の人物が自分の存在を虚構と認識し、いや認識しているかのように描いて見せる。


読み手は、舞台下の観客。
わたしは舞台の上で演技をしている。
現実世界の舞台で行われている役者は、役を演じつつも本来の自分を持っている。

しかしわたしを含め、活字の物語の登場人物は違う。
活字の物語の登場人物は物理的には存在しないし、本来の自分などと言うものを持たない。
どんな世界的名探偵であろうが自己の存在に疑問を持たない。
わたしは一体誰なんだろうか、これからどうして生きていくべき何だろう?
人生の目的とは?
そんな中二病な悩みには無縁な代わりに、自由意志を持てない。
過去も未来も無い。わたしには今しかない。

読み手が読んだ時、その存在が再生され、それがその人物の全てになる。
だからこそ行く先々で事件に巻き込まれ次々殺人が起きても
「自分が原因で殺人事件が起きるんじゃないか?」
「いなくなれば殺人も起きないのでは?」
などと後期クイーン問題を考えたりはしない。

また、「名探偵の存在そのものにより事件が引き起こされるケース(例えば、探偵を愚弄あるいは探偵に挑戦するために引き起こされる殺人のようなケース)」、あるいは、「探偵が捜査に参加することを前提として計画された事件が起きるケース」などとも絡んで議論される。

後期クイーン的問題 - Wikipedia

もし自覚があるなら名探偵コナンは自殺をするという選択もある。
そうなればあの世界は平和になるだろう。
ただし連載(世界)も終わるが。
主人公の死は世界の死とイコール。
名探偵コナン 84 (少年サンデーコミックス)
コナン、連載二十年だぞ。
小学生でも二十年経てば成人して結婚もしてるだろ。
いつまで子供のままなんだか。
あの二人の周りでいったい何人死んでると思っ


登場人物に自由意志など無い。
すべては作外の書き手の意のまま。
時間も空間も、登場人物の老化も思い通り。


こんな古びたトリックで物語を書くんだから、どうせろくな書き手じゃあない。
しかもメタをやろうとして……いや、メタがメインだからトリックが適当なのか。
……だとすれば、さらにろくでもない。
今さら素人が「不在のお茶会」以下のヘタクソなメタの真似事をやって見せたからって、誰が読むって言うんだろうか。


A「じゃあ、えーとGさんいきましょうか」
G「はい。ロシア語の記号が割り振られた無数の部屋がある館で連続殺人が起きる!」
D「何だかどこかで聞いたような(笑)」
G「えぇ、まさに典型的ですよねー」
D「何年前のミステリなんだって感じですね(苦笑)」
G「ところが作品に登場する探偵は自分が小説の登場人物で、自分が原因で殺人が起きてるって言うことに気付いてる」
D「うん、この辺は志は高いかもしれない」
G「ですね。とはいえ筆力が今ひとつでメタにするにしてももうひとひねり欲しいなぁ、と言うのが正直なところでして」
D「わたしもそう思いましたね、筆力が低いって言うのが致命的かなぁ」
F「メタにこだわり過ぎていて本来のミステリとしての魅力に欠ける、と言うのは痛いですねぇ」
G「ちょっと古い感じですし、もうちょっと頑張ってほしいかな、と。あまりピンとこなかったですね」


どうせこんな風に、メフィスト賞辺りに応募して、審査員に座談会でクソミソに叩かれて、メフィストを壁に叩きつけてからやけ酒のむのが相場と決まってる。
それにわたしの思考に固有名詞を出し過ぎで、こんなじゃあ

「た、大変です!え、遠藤さんが!!」

真っ蒼な顔でリビングに駆け込んできた執事 久保裕也が叫んだ。
どうやら次の殺人が起きたらしい。
と言うことは”これ”は中編なのか?

いったい何人死ぬんだ、まったく……。


わたしの宇宙(1) IKKI COMIX

キャラの存在理由 野田彩子「わたしの宇宙」 - あざなえるなわのごとし