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ネタバレ厳禁の必読ミステリ「その女アレックス」

ミステリ 読書

その女アレックス (文春文庫)

「週刊文春2014年ミステリーベスト10」堂々1位! 「ミステリが読みたい!」「IN POCKET文庫翻訳ミステリー」でも1位。

早くも3冠を達成した一気読み必至の大逆転サスペンス。貴方の予想はすべて裏切られる――。

(中略)
「この作品を読み終えた人々は、プロットについて語る際に他の作品以上に慎重になる。それはネタバレを恐れてというよりも、自分が何かこれまでとは違う読書体験をしたと感じ、その体験の機会を他の読者から奪ってはならないと思うからのようだ」(「訳者あとがき」より)。

「慎重になる」というのがまさにそれ。

この作品はどんでん返し云々よりも価値観を揺さぶられる。
なのでここから先はネタバレでしか書けません。

もし「読んだほうがいい?」と聞かれれば「是非」と答えます。




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あらすじも、何の予備知識もなく読み始めたので冒頭の誘拐すら「ここからどう展開するのか?」と思って読んでいたら実はアレックスが連続殺人犯だったことがわかる。

ここで「かわいそうな被害者」という視点が「かわいそうに思えたが、実は残酷な連続殺人犯だし誘拐も自業自得」という視点に変わる。

ここからアレックスの犯行はエスカレート。
次々と男を殺害。
サイコパスのように無感情に殺していく冷酷な殺人犯として描かれ、ここで読者は彼女に感情移入できない。
無辜の市民を次々と惨殺する猟奇殺人犯。
ミステリ読み的にアレックスは何かあるんだろうなぁ、と思いつつも惨殺してる事実は変わらない。

トラリユーの父親を最初は、残酷な誘拐犯に思える。
しかしその行為が息子の復讐だとわかったとき、トラリユー父の誘拐行為は褒められたものではないが憎むべきものではないと感じる。そしてアレックスの残酷ぶりが続けば続くほどその誘拐が悪いものではなかったのではないか、と感じてしまう。
あれでアレックスが死んでいればこの凶行は続かないのに。


ところがアレックスが突然死を選ぶ。
それもなぜかよくわからない方法で。
半分夢みるような主観描写が続き頭を打ち付けて死んでしまう。
え?と思ってると終章、ここでさらにひっくり返され事件の全貌が見える。


アレックスは、被害者で殺人犯で復讐者。
通常、復習であればそれなりの描写(復讐相手のリストを見たり、復讐の原因を思い返したり)が挟まれ、それによって読者はアレックスの行為は復讐なんだろう、と思うのだけど、そういう描写が削られ、ひたすら淡々と、それでいて残酷に相手を殺す(しかも濃硫酸を飲ませることを「最後のお楽しみ」と)描写が続くために猟奇殺人犯として読者に感情移入をさせない。
最後まで読者はアレックスの心理を理解しないままで(死後のアレックスの行動の解説も周囲からの描写が主になるため)物語は終わる。
終章での読者は「アレックスかわいそう」よりも「この兄に罰を」が主。


フランスミステリーというと語り手が探偵であり、証人であり、被害者であり、犯人というジャブリゾ「シンデレラの罠」が有名でこの「その女アレックス」にも同じトリッキーさがある。
とはいえこの作品では謎というより読み手の(人間の)感情はいかにたやすく変わるのか、というと実感させられる。

今年は多くのミステリを読んだわけではないですが、間違いなくベストミステリに入る名作。
大変面白かった。
シンデレラの罠【新訳版】 (創元推理文庫)