すぐ隣りの異世界 堀尾省太「刻刻」

刻刻(1)

佑河樹里は失業中の28歳。家では父・貴文と兄・翼、じいさん三代のダメ男がヒマを持て余している。ある日、甥・真が翼とともに誘拐される。身の代金を渡す期限に間に合わなくなった時、じいさんは佑河家に代々伝わるという「止界術」を使い、世界を“止めた”。 だがあり得ないことに、救出に向かった先で樹里たちは自分たちの以外の“動く”人間に襲撃される。そしてパニックの中、異形の存在「管理人」が現れ、襲撃者の一人の頭を捻り潰した。

「刻刻」の話。
完結していたのに触れていなかったので今さらながら。



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セカイの描き方

刻刻は時間が止まった世界を舞台に、止界術と呼ばれる時間を止める能力と発動に必要な石を巡っての争奪戦。
時間が止まった世界の描写はさまざまあるだろうが、刻刻では慣性の法則などが機能しない、火がつかない、モノが落ちないなどさまざまに描いていて、もちろんマンガ的な演出があるので完全に考証が科学的に正しいか否か(その世界(止界)ではそうなのだ、と言われればそれまで)は定かではないけれども、細かい部分まで気を遣って丁寧に描かれているのがわかるし、だからこその技巧が色々組み込まれている。
作品世界のルール(パラダイム)と言うのは作者のお手盛り。
だからこそ好き放題やれるし、だからこそやり過ぎれば説得力が無くなる。
「もしも時間が止まったら空気抵抗などはどうなるのか?」
そういう部分をあえてセリフとして作品内で自己言及したりする辺りも面白い。

すぐ隣りの異世界

刻刻は時間が止まった世界が舞台となる。
異世界ではあるが異世界ではない。
物語が行われるそこは、日常見なれた住宅街。
突然時間が止まり、自転車でスーパーへ買い物に向かう人や、歩くカップル、営業のサラリーマンの横で主人公らは「敵」と戦う。

一見普通の日常、しかし異世界。
これって花沢「アイアムアヒーロー」でもそうなんだが、見なれた日常空間が異世界と化すことで一層の違和感を与える。
地面むき出しの廃墟での銃撃や格闘アクションより、畳敷きの部屋で箪笥にぶつかりつつ戦うアクションの方が生々しい日常の延長に感じる。

主人公らに敵対する新興宗教 真純実愛会。
こういう宗教団体もまた異世界の住人。
日常に生きる人らと違う価値観で世界を捉え考え行動する。
同じ世界に生きながら違う世界にいる人々。

家族

この作品には、家族が多く登場する。
主人公ら佑河家、真純実愛会を作り上げた佐河家、家族を止界に奪われた間島家。
そして宗教団体と言う疑似家族、真純実愛会。
止界を中心に複数の家族が織りなす物語。
日常的な価値観が崩壊する中、信用できるものが果たして何か?と言う時「家族の絆」はとても強い。

カヌリニ

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時間が止まった世界では当然、ひとも止まっている。
だったら好きにやれるし悪党は殺し放題、かと思いきやカヌリニと言う存在が登場する。
止界の「管理人」
制止の外にある人間に殺意を向けた途端登場し、殺意を向けた止界を動ける人間に制裁を加える存在。
このクリーチャーの存在だけならバイオハザードのタイラントみたいなものでどうやって戦うか?発動条件は?などに使われて終わるだけだが、刻刻ではこのカヌリニの存在がひとつの中心となって動く。
止界術と石、そしてカヌリニという止界の住人。

グッドエンド?バッドエンド?

終わらせ方についてだが、もうあの状況になった以上アレをする以外には無くって、だからあそこで終わらせその先は全て妄想、と捉えても読めるし、もちろん描かれたとおりにも読める。
少々無理矢理感、突然感はあるが、あまり言及されないのはそこからの巧さだし、そこまでの巧さがあるからでしょう。


時間停止世界を舞台にしたSFサスペンスアクションという珍しい設定で、話のクオリティが高い。
話の運びや膨らませ方もとても上手い。
全8巻の割に展開が早く、重さを感じず一気に読めてしまう。
岩明均チックな絵柄も世界観に合ってる。


ただ好みが別れそうではあるので、一読をしてからの方がよさそうではある。
最近話題の近藤よう子「五色の舟」とかもそうだが。

もし未読ならKindle版一巻が無料で……と思ったらもう終わってた。
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一応、試し読みってのもありますが。

刻刻(8)