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超高速取引業者 VS 公正な市場 マイケル・ルイス「フラッシュ・ボーイズ」

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

二〇〇七年のある日、ウォールストリートの二軍カナダロイヤル銀行のブラッド・カツヤマは、さっきまで画面にあった売り注文が、買いのボタンを押すと、蜃気楼のように消えてしまうことに気がついた。その謎をとこうとパズルのピースをあわせて見えてきたのは、コンピュータ化された市場で常態化した巨大な八百長、ミリ秒、マイクロ秒、そしてナノ秒のしのぎを削って私たちを先回りするフラッシュ・ボーイズの姿だった。唖然、呆然、これでは一般投資家は絶対に勝てない。



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クリストファー・スタイナー「アルゴリズムが世界を支配する」の冒頭、ウォール街に電子取引を持ちこんだ物理学者のエピソードと超高速取引を行うときに重要なケーブル線長の話が出てくる。
何人もの男らが手を上げ叫ぶ、いわゆる魚河岸のような立会場の光景はもう昔。
今や取引は電子化され、人間では追いつけない速度での取引が主流になった。
アルゴリズムが世界を支配する (角川EPUB選書)
※こちらも面白い。オススメ

超高速取引業者vsブラッド・カツヤマ


たとえばとある大きな注文があったとする。

「A社の株を1000株買いたい」と言うミスターB。
そのときA社の株は10ドルで出ていたとする。
超高速取引業者はその注文をいち早く知り他の市場へとその株を見に行く、あるいは買い付ける。
そして何も知らないミスターBに売りつける。
それをマイクロ秒単位で行う。もちろん人間には出来ない。
※ざっくりとこんな感じ。詳細は本書参照のこと

高速で走り回りひとの先を制し、小さな利ざやを何度も稼ぎ膨大な富にする。
そのために必要な少しでも早く、少しでも人より前に出るための速度。


ケーブルがサーバーから延々伸び、迂回していたのでその分遅れる。
だからケーブルは出来るだけ真っすぐ、できるだけ直線で。
そんなマイクロ秒を争う超高速取引業者のやり口に疑問を持ったブラッド・カツヤマ。
彼が「フラッシュボーイズ」の主人公。

超高速取引業者が利益を上げるために出来上がる市場に対して「公正に取引が行える市場を」と考え新しく新興市場IEXを立ち上げる。
作品内では超高速取引業者が市場を歪め、それに対するブラッド・カツヤマらが正義のように描かれる。
超高速取引業者が利用するマイクロ秒の歪みを封じた公正な市場取引を行うためにどうすればいいのか?、と。

ゴールドマンサックスvsセルゲイ・アレイニコフ


もう一つの物語はゴールドマンサックスの取引システム担当していたプログラマー セルゲイ・アレイニコフ。
彼は引き抜きを受けた際に自分のPCにプログラムのコードをメールに添付して送ったとのことで告訴、逮捕された。

送ったコードは、オープンコードのソース。
それをゴールドマンサックスのシステムとして使い、退職する際にそれを自分に送った。

本書を読んでいるとゴールドマンサックスの過剰反応のように読めるが、実際それほど厳しい世界だと言うことだろう。
それに訴訟大国ですし。

本書内でマイケル・ルイスなどを含め専門家によるミニ裁判(実際の法廷は市場やプログラム知識が全くない人間で行われたため)を行いセルゲイ・アレイニコフの行為を検証している。

ウォール街の勧善懲悪


超高速取引は最適化の果て、市場の「歪み」から利益を取ろうとした存在だった。
しかしそんな超高速取引業者が主流になったとき、歪みは全体に及び、単に投資家がカモで市場はいかにして投資家から利益を得るのか?と言う仕組みに代わってしまった。
そういう中、ブラッド・カツヤマは正義として描かれ、そんな市場の「歪み」を正そうと戦う姿が描かれ、読者も当然ブラッド・カツヤマらに感情移入するように出来ている。

この物語は現在進行形であり、ブラッド・カツヤマらの新興市場は戦いを始めている。
違法でない超高速取引業者だから市場は制度の中の「歪み」とは言え受け入れたのだろうけど、公平性と言う意味ではブラッド・カツヤマらに肩入れしたくなる。
個人投資家はそれほどでも無いけど機関投資家が狙われるのなら、超高速取引業者がカモにしてる金はどこから出てるんだか……。


当事者らのインタビューを元に構築されたウォール街のテクノロジーとファンタジー。
なかなか面白かった。

とはいえ日本も他人事ではない。
日本でもブラッド・カツヤマのような人物が登場するか、否か。

「フラッシュ・ボーイズ」は日本にも上陸している。東京証券取引所は2010年1月、立会場を廃止して超高速の現物株式売買システム「アローヘッド」を導入した。同時に「売買システムや相場報道システムを設置してあるデータセンターを擁するプライマリーサイトにおいて、コロケーションサービスを提供する」と謳っている。東証と合併した大阪証券取引所も、2013年11月から先物売買でコロケーションサービスを始めた。


コロケーション。証取が取引所のデータセンターのすぐ傍に、超高速業者などのサーバーを有償で設置させるサービスのことである。日本のある大手証券会社によれば、「すでに約定(成約)の4割、発注の6割がコロケーション経由で占められている。そのすべてが超高速取引業者ではないにしても、実感ではマイクロ秒を争う業者のシェアは約定ベースでおよそ3割、欧米の水準に近づいている」という。


明らかに取引所と超高速取引業者はグルなのだ。東証と大証が合併した日本取引所グループ(JPX)の2014年3月期決算でコロケーション利用料として営業収益に計上されたのは25億6600万円だが、前年度比38%増と急成長している。ところが、その利用状況も契約者数も内訳も、データセンターの所在地についても「一切明かせません」(JPX広報・IR)とひた隠しなのだ。
「フラッシュ・ボーイズ」は日本にもいる! | Books Review | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト


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