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福井建策「「ネットの自由」VS.著作権~TPPは、終わりの始まりなのか~ 」

読書 WEB

「ネットの自由」VS.著作権~TPPは、終わりの始まりなのか~ (光文社新書)

日本国内の議論を二分するTPP。現在、先行する参加国間で深刻な対立を招いている分野の代表格が、著作権・特許などの知的財産だということはあまり知られていない。流出した米国政府のTPP知財文書には何が書かれているのか? その「真の狙い」とは? 「新たな立法者=国際プラットフォーム」などの動向も踏まえながら、情報社会における最適なルールメイクのあり方を第一人者が考える。〈TPP知財リーク文書抄訳を公開〉



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非親告罪化

http://www.flickr.com/photos/10393601@N08/2525886032
photo by Rennett Stowe

先日、こういうニュースがあった。

環太平洋連携協定(TPP)の交渉で、映画や音楽などの作品について著作権侵害があった場合に、権利者の告訴がなくても政府が起訴・処罰できる「非親告罪」とする方向で調整が進んでいることが2月11日、報じられた。

NHKの報道によると、TPP交渉では、アメリカなどが「非親告罪化」に賛成。一方、日本はこれまで慎重な姿勢だった。ところが、1月26日から2月1日にかけて開かれた会合で、各国が適用範囲について判断できる余地を残す案が示されたことで、日本は「非親告罪化」を受け入れる方針になったという。

日本の文化・ビジネスが害される? 著作権侵害の「非親告罪化」がもたらすもの

TPPというと「米ガー」「関税ガー」と言う話になりやすいが、知財に関しての条項も盛り込まれている。
今書ではTPP知財リーク文書を元にTPPに日本が参加した場合、知財に対する扱い(著作権など)がどう変わるのか、現状はどのようか、などを福井健策弁護士が語っている一冊。


まず「非親告罪化」とはなにか?と。

現状、著作権侵害に関しては親告罪になっている。
つまり権利を持っている当人(権利者)だけが侵害している相手を訴えることが出来る。
しかしこれが非親告罪化すると権利者でなくても侵害している相手を訴えることが出来るようになる。

「日本のオタク文化最大の祭典である『コミックマーケット』(コミケ)では、販売される膨大な同人誌のうち約75%が、既存のマンガやアニメをアレンジしたパロディものだとされます(2012年日本マンガ学会での報告)。
(中略)
「ただ多くの場合、原作側もあえて問題視せず、いわば『黙認』『放置』されることで、文化として花開いて来たわけです。

こうした『厳密には著作権侵害だが問題視されていない』グレー領域は、各種のネットビジネス、電子図書館のようなデジタルアーカイブ、企業内の研究利用や教育現場など、さまざまな場面で存在しており、実は社会を円滑に動かす重要な潤滑油となっています。

それを支えた制度のひとつが、著作権侵害が親告罪だったことでした。権利者は正面から『許す』『許可する』と言えない分野でも、悪質と見なければあえて告訴まではしません。そのことで、うまくバランスが取られてきたとも言えます。しかし、非親告罪となれば、主導権は警察・検察に移ります」

つまり、まったく関係のない第三者の通報によって、警察や検察が捜査に乗り出して、取り締まる可能性が出てくるということだ。

日本の文化・ビジネスが害される? 著作権侵害の「非親告罪化」がもたらすもの

現状、よほど悪質でもない限りは著作権を侵害していても、引用要件を成立させずに無断転載していても訴えられることはない。
アニメアイコンも見逃されてるし、キュレーションと言う名目で他人の記事を勝手にコピーして儲けるプロブロガーさまも大手を振ってる。
とまれ、現在でもやり過ぎればアットトリップみたいに記事全削除となりかねませんが……。

しかし非親告罪化すれば


そういう可能性ももちろんある。

フェアユース

http://www.flickr.com/photos/61056899@N06/5751301741
photo by winnifredxoxo

アメリカでは既に非親告罪として扱っているんだけども、同時にフェアユースが定められてる。
フェアユースは著作権者の権利侵害があったとしても定められた要件を満たしていれば罪に問われない(公正な使用)としたもの。
この著作権をきつく縛る非親告罪と緩めるフェアユースがあってようやくバランスが取れてる。
しかし日本でTPPと同時に非親告罪だけが広まれば果たしてどうなるか。
※フランス、スペインなどでは「パロディの例外規定」というものがある

ミッキーマウスと著作権

http://www.flickr.com/photos/75424716@N00/2769381170
photo by publicenergy

他にも著作権保護期間の大幅延長(出版から50年経つとほとんどの出版物は市場から消えるのに著作権だけが伸び続ける。アメリカではディズニーのロビー活動に応じて保護期間が延びるように見えるため「ミッキーマウス保護法・延命法」とも揶揄される)や法廷賠償金(賠償金相場が全く異なる)、アクセスガードを含むDRM回避の単純回避規定(コピーガードを外すだけで違法に)、商標権の拡張(医師の診断や治療法、音や匂いにも商標権を?)などなどひとつひとつ重要な、知財に関しての現在グレーで進んでいる部分を黒か白かハッキリさせようと言う動きがある。

非親告罪化にしろもちろん海賊版や悪意のある(利益目的の)侵害に対しては有効に働くだろうが、たとえば「アイツが気にいらないから通報してやろう」と軽微な侵害に対しても通報があったりする「悪意のある第三者通報」の可能性もあり(著作権侵害マンセーの高地トマト皇子なんてどうなるんだか)影響は大きい。
アニメアイコンが一掃され、アニメのスクショを上げていれば罪に問われる、と言う可能性も否めない。

まとめ

この本自体は2012年に出版されたんだけれども、中でダウンロード刑罰化に関した章で

仮に海賊版が減らなければ、少なくとも政府やコンテンツ業界が強くそう感じれば、次に来るのはおそらく「非親告罪化」だからです。
ダウンロード刑罰化と非親告罪化と第三者通報、この組み合わせこそ、(ダウンロード刑罰化)反対派が危惧する最悪のシナリオかもしれません。

※()内は引用者補足

この三つのうちダウンロード刑罰化は2010/1/1に既に違法化されてる。
次にTPPと共に非親告罪化が上陸しつつあり、上陸すれば次は第三者通報の流れ。

著作権に関してはさまざまな議論がされており、今や大きな一つの法律で縛ること自体が難しくだからこそ柔軟な運用が必要なのだろうけど、果たしてTPPと共に知財・著作権がどう変わっていくのか。
全てをアメリカ的に、アメリカのコンテンツ産業が有利になるための施策。

甘利経済再生担当大臣は、アメリカの野党・共和党に所属し下院・歳入委員会の委員長を務めるライアン議員と会談し、TPP=環太平洋パートナーシップ協定を巡る交渉の春ごろまでの妥結を目指して協力していくことで一致しました。
(中略)
そして、両氏は、TPP交渉のことし春ごろまでの妥結を目指して、協力していくことで一致しました。
会談の後、甘利大臣は記者団に対し、「交渉のスケジュール感は、アメリカ側も、大体、私がイメージしているような感じだ。だから、それに折り合うように取り組んでいきたい」と述べました。

来年の今ごろどうなっているんだろう。
ネットにも拘わる大きな話題の割には、非実在青少年のときより話をあまり聞かない気がする。
あまり話題にせずにひっそり広めてしまおう、と言うことなのかもしれないけれども。

ひと事ではない身近な話題だけにとても興味深い。
今だからこそ読んでおくべき一冊。


ちなみに福井建策氏の著作は、こちらの↓本も面白い(記事にしてませんが)。
日本のデジタルアーカイヴが全然進んでない実情がわかる。
誰が「知」を独占するのか ――デジタルアーカイブ戦争 (集英社新書)