テッド・チャン「あなたの人生の物語」

あなたの人生の物語

地球を訪れたエイリアンとのコンタクトを担当した言語学者ルイーズは、まったく異なる言語を理解するにつれ、驚くべき運命にまきこまれていく…ネビュラ賞を受賞した感動の表題作はじめ、天使の降臨とともにもたらされる災厄と奇跡を描くヒューゴー賞受賞作「地獄とは神の不在なり」、天まで届く塔を建設する驚天動地の物語―ネビュラ賞を受賞したデビュー作「バビロンの塔」ほか、本邦初訳を含む八篇を収録する傑作集。

これは好い。




【スポンサーリンク】




「あなたの人生の物語」に関しては、良質なSF短編集として既に各所で評価されているので今さら語るまでもない。
数学の新たな発見により起きるパラダイムシフト「ゼロで割る」、人間の知が無際限に向上した結果に行きつく先「理解」などなど。
どれも非常にクオリティが高い。
中でも「地獄とは神の不在なり」は面白かった。

西洋的な神への「信仰」はとても不思議でどのような行いもすべて「神のみ心」とされる。
善かれ悪しかれ。
(その辺を石川雅之「純潔のマリア」では人間的な倫理観に基づくマリアの行いとして描いていたり)

作中世界では天使の降臨が時折起こる天災のように描かれており、人間は翻弄され、足を奪われ、光を奪われ、命を絶たれる。
天使降臨の光を見れば目が潰れ「目が、目がぁ〜!!!」どころか目のあった場所ごと無くなる。
日本の小説・マンガだとその辺は理不尽に感じて天使と戦うとか物騒な方に話が進みそうだが(萩原一至「BASTARD!! -暗黒の破壊神-」とか)、作中ではそういう理不尽さも受け入れたままに変わらず神への信仰が続く。
主人公は最愛の妻を神によって奪われる。
妻は天国におり、自分も天国に行くためには妻を奪った神を信仰しなければならない。

信仰とは盲目的、神を疑うことなかれ、とはほんとニヒリズムな言葉。
しかも実際の現実を伴ってるんだから何とも。
現実でも何かあれば「神よー」だし、嬉しいことも「神よー」哀しいことも「神よー」

どれだけ理不尽でも全ては愛に溢れる神のみ心のままに。
信仰とは不思議なものだ。


表題作「あなたの人生の物語」は、言語学者が体験する宇宙人とのファーストコンタクトをベースにしたトリッキーな物語。
語るとネタバレになるので避けますが、文字を必要としない言語文化や言葉の認識の根本が世界の認識の根本と通じるというのも養老 孟司氏の「世界は脳の投影である*1」を思い出させる。
言葉体系が宇宙人の存在による世界の認識に比例し、そのものを現わしてもいる、と言う。


とても面白かった。
宇宙を舞台にしたスぺオペ的なSFではなく、骨太でディストピアなお話が好きなひとには是非オススメ。


え?映画化??
なんか安い感じになりそうな……。

*1:唯脳論