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桜の木の闇の奥

※昼休みに五分くらいで考えたのでこんなもんです


「宴もたけなわではございますが」
と言う言葉は、盛り上がっているからこそ意味がある。

花見をしようと男三人で公園へ繰り出しレジャーシートを張って花見を始めたはいいが、日が沈み徐々に暗くなる中、照明として持ってきた一昔前のコールマンのランタンはひとつしかなく薄暗く、もはや桜は闇の向こう。
照らされるのは男三人の顔ばかり。
もともとこの辺りは住む人間が次々自殺すると言う噂の幽霊屋敷の近くのせいか、あまり誰もやってこない穴場。
そこでオレたちは、逆張りすべくやってきたわけでして。

昼とは打って変わって強い北風が吹きすさび、花見どころか鳥肌が立つ始末で、なぜか三人とも意地で帰ろうとせず花見を完結させるべく小刻みに震えつつ耐えている。
このクソ寒いのにキンキンに冷えたビールを流し込む自主的な拷問。
薄明かりの中、冷たい花見弁当をつまみに、冷たいビールを男三人で震えながら飲む会を花見と呼べるのか。


そう思っていたらクボタが、
「オレが小さいころなんだが、桜の巨木があってだな」
と脈絡もなく話し始めた。
「あまりに見事なんだが、見事すぎるせいか根元に人が埋まってるって噂が流れたんだ」
梶井基次郎だったか。
クボタの地元はここじゃなかったっけ。
「で、実際掘った奴がいてよ。そしたらほんとうに死体が出てきてな」
へぇ。
「近所のオッサンが散歩中に犬がやけに鳴くもんだからってんで掘ってみたら死体が出てきて大騒ぎだよ。警察もやってきて、花見の季節に差し掛かるころだったんだが花見どころじゃなく、調べてみたら遺体は近所の公園で寝泊まりしていたホームレスだったそうだ」
「ホームレス殺人?」
と聞いたのは黙々とピスタチオを割っていたサトウ。
お重に入った花見弁当は、サトウの奥さんの手作り。

「いや、死体に怪しい点はない。埋めてからさほど経ってなかったらしくて腐敗もしてなかったらしい。持ってた小銭も服も一緒に埋められていて、どうも自然死に間違いない。そこで知り合いのホームレスが埋めたんだろう、とかたがついた」
実際の事件にはオチがないとはわかってるが。
にしてもあっけない話だ。
「へぇ、で?」
「で?じゃねぇよ。終わりだよ」
するとサトウが、
「ほぉ。じゃあ犯人の思惑通りか」
と言った。

「犯人?ホームレスを埋めた?」
「あぁ、自然死した遺体を埋めた理由は……これだよ」
と、サトウはお重を指した。
お重に蓋をして「まず桜の木の下を掘ると」と言いながらお重のフタを開ける。
「ホームレスの遺体が出てくる」
言いつつお重の出し巻き卵をつまむ。
口に放り込み、むしゃむしゃ噛む。
「……遺体が埋まってれば、さらにその下を掘ろうとは思わない。ましてや根っこが邪魔だ」
と言いつつお重をどかす。
お重の二段目。
カマボコにハシを突き刺し
「この、死体の下に何が埋まってたのか?」
と口に放り込む。
「二段底??」
「あぁ、自然死したホームレスの死体をわざわざ埋めた理由ってのはそれだろ?幾らホームレス仲間でも死んだ人間に小銭や服はいらない。なのに埋めた理由は何だ?
ホームレスの家族なら遺体を連れ帰る、仲間なら小銭は奪う。見ず知らずなら警察を呼ぶ。しかもオッサンが散歩がてら何気なく掘り返すだけで死体が出るなんて余程埋めてた場所が浅かったんだろうよ。雨で出てきたかもしれない」
「……」
「誰かさんは死体の隠し場所に困った。たまたま公園でホームレスの遺体を見つけ、死体を埋める蓋にした。まさか死体が続けて二つ埋まってるとは思わない。ひとつは浅く、もう一つは深く深くだろうな……と、まぁ、こんなのは推理でも何でもないな」
「ま、まぁ早々死体がゴロゴロしてても困るよなぁ」
とオレが場の空気を誤魔化すべく言う。

「で、その桜ってのはどこだよ?」
「もとは公園だったが今は、その側に家が建ってな……」
とクボタが指差す先。


一家が次々と自殺した幽霊屋敷。
暗がりの中、薄らと屋敷の輪郭が見える。
何か窓の辺りに白い影が笑

「あの家、女の霊が出るって噂……」

「……」
「……そろそろ帰るか」
「そうだな」
「寒いからな」

俺たちは慌ててレジャーシートをかたした。
誰一人、屋敷の方を見ないのは言うまでもない。

これは信じていいことなんだよ。何故つて、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことぢやないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だつた。しかしいま、やつとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる。これは信じていいことだ

桜の樹の下には/梶井基次郎

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