小さな居酒屋の話

xkxaxkx.hatenablog.com
カクタニさんところの記事とは関係ないが、読んでいて思い出した。


今にも潰れそうな、(多分)年金で食ってる、小さなおばあさんのやってる小さな居酒屋がある。
カウンターのみ、席は4つ程度。
小さなおばあさんは、いつも、入口の丸椅子に座って、前を通りかかると「こんにちわ~」と声をかけてくる。
近所に住んでいるわけではないが、遠出してポータルをハックし、スーパーに寄るときその前を通る。

いつも、客はいない。
どこもかしこも古びていて、台風や地震にギリギリ耐えた趣の建物に、洗濯してなさそうな汚れたのれんが風に揺れ。
赤ちょうちんは赤と言うより赤かったと言うべきで、ところどころ破れ、中のランプが見えている。
いい色に染まった木の枠と濁りガラスの扉は開いていてもそこを潜ろうとは思わない。

憐憫を誘う風情だが、入口脇に鎮座したホコリを被って半分灰色になった陶器の置物も無言で「入るな」と言っている気がする。
これまで店に入ろうと思ったことは無いし、これからもまず入らない。


多分、いつか解らないが、ある日突然店は閉まる。
そのとき、通るたび「こんにちわ~」と声をかけてくる小さなおばあさんの姿は無い。

おばあさんが亡くなったのか、入院したのか。
老人ホームか、世界一周旅行に行ったかはわからない。
実は年金で食っておらず、店を維持するのに貯金を切り崩していたのかもしれない。
新興宗教に目覚め足裏を見てもらうために出家したかもしれない。


ただ店が閉まる。
ただおばあさんの姿が消える。

いつしか店のあった場所には別の建物が建ち、そんな店があったことも忘れる。



別にその店が大繁盛すればいいとも思わない。
儲かるためにはリノベーションを……なんて誰も望んでない。

多分、あの店は、あのままめったに客も来ず、極々たまに昔からの常連がやってきて酒を飲み帰っていく。
繁盛するためではなく、どこかの誰かのために。
綺麗な外観はいらない。
もう終わることが決まっている。


自分は、何をするわけでもない。
ポータルをハックし、スーパーで割引になった弁当を買って、その店の前を通り「こんにちわ~」と声を掛けられ、少し躊躇しつつ挨拶を返す。
それだけ。

なんだかんだ新しくきれいな店で、清潔と思える飯を食う。


懐かしみを感じるか感じないかの境目はおばあさんの「こんにちわ~」と言う声。
もしおばあさんが声をかけなければ店のことなんて意識もしない。

それだけの話。

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