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乾くるみ「イニシエーション・ラブ」感想

ミステリ 読書

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

「イニシエーションラブ」を今さら読了。

「お前、自分でミステリ読みとか言うくせにこんな定番すら読んでなかったの?」
と言われると、確かにその通りなんですが、作者 乾くるみのデビュー作「Jの神話」を当時読んで(メフィスト賞ほぼ読んでたので)なにせちん○ですからもう読み終わって「Jってち○こミステリかよ」と。
もう乾くるみは読まない、と思ってたわけでして。

しかし今度の映画を観る気になったんでじゃあ読んでみるか、と。
とはいえ原作が前か後か。

映画を観る前なら「どんなトリックが映画で使われてるか事前に知るため」
映画を観た後なら「映画のトリックは小説でどんな風に表現されてるのか」

前者にして、今週観に行くつもりだったんですが間に合わなかったので来週あたり行ければいいな、と。

読み終わってみると、確かにこの仕掛けをどう映像化してるのは興味ありますね。
なんの予備知識もないなら一度読んで見るのがいいかもしれない。
「人が死ぬ話が苦手」な人でも大丈夫な作品。

※以下、ネタバレあり。




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B/A

で、ネタバレあり感想。

まずメイントリック。
Aパートであだ名をつけるとき「たっくん」というあだ名のつけ方が少々強引なのと、AパートBパートの語り手の雰囲気がずいぶん違うのでこれは何か別人の語りを繋げてるのかなー、と予想しながら読んでしまったんですよね。
主人公なのに名字が「鈴木」なのも気になったり。
対して女性の方は、特徴的な成岡繭子という名前でこれが別人というのはあり得ない、ならば繭子を中心としてパートが......と考えてしまうと全体像が見える。
要はAパートとBパートの関係性が直列なのか、並列なのかを考え並列でQED。
一人の男を中心とした二人の女との物語に見せかけた、一人の女を中心とする二人の男の物語。

Aパートでの便秘で〜ってのも違和感がある話ですよね。
「体調が悪かった」で済ませればいいのにお腹周りで何か...と考えればち○こミステリな乾くるみだし、やけに絡み描写が多い。
しかもBパートに入って妊娠に堕胎。
これは...という推測が成り立つ。

A、Bというのも、暗喩的にカセットテープが挟まれたりして、つまりA面、B面なのかな?と。
時事ネタをやけに入れるのも時制を使ったトリックでは?という推測の補強。
あえて90年代を舞台にしている意味は間違いなくあるわけですから。

これ、現代を舞台にしてCDだと成立しないんですよね。
現代だと時間の流れを意識させるみんなが知るヒット曲(恋愛の)が少ないから使えない。
ヒットしてるテレビドラマとかね。
時事ネタをあえて入れているのは、読者に時制を意識させるため。

ミステリ読み的にはこんな歪んだ読み方をしました。

レッドヘリング

ただもっとえぐい、ローズマリーの赤ちゃんみたいなオチも考えてたんですよ。
作者から深読みする読者へのレッドヘリング(赤ニシン、偽の手がかり)だと思うんですが。

たとえば梵ちゃんの梵、蓬莱、イニシエーションとかなり宗教的な匂い。
もしかすると劇団が?!とか。

あるいは語り手が財布を無くしたり、預けたり。
カードやいろいろな情報も手にできますし、海に行って貴重品を渡す辺りも合鍵くらいつくれるよね、と。
手品で鍵を隠すのも何かあるのでは?とか。

アインシュタインもA、Bで符合してる。
突発性難聴になるのも何か飲まされてる?とか思ってたんで、これはローズマリーの赤ちゃん的に何か大きな団体による虚構の中に取り込まれてる!?と考えたんですがさすがに杞憂で。
そーいうのじゃあなかったですね。
なんとかそういう読み方ができないものか?(実は二重底で別の物語も隠れてる)とも思ったけれどさすがに無理っぽい。

”ネタバレ”の境界

「あなたは騙されている!?」なんて惹句をつけられてしまうとミステリ読み的には
「じゃあ大概、叙述トリックだよな」
と推測してしまう。
これで、もうネタバレなんですよ。
描写や表現をいちいち気にして読んでしまう。

たまに見かける
「ドンデン返しがある映画10選」
なんてリストは、リストにタイトルがある時点でネタバレ。
それでもまだ騙される人らには参考になるんでしょうが。

こういう作品で一番面白いのは地の文に疑いなく読んでいるのに、最後にひっくり返されることなんですよね。でも「読んでいるあなたは既に騙されている」といった煽りが付いてしまうとそれで地の文も素直に読まない/読めない。

仕掛けの趣向は、とても面白いのに。


男の勝手さを見せるのかと思いきや、実は女の怖さを・狡猾さ見せる辺りもいい感じ。
両方を「たっくん」と呼びA、B両面をうまくやりくりしてる繭子に対して、名前で失敗してバレるBパートのたっくんのアホさ。

時制は、並列/同時進行なんだけれども表題の「イニシエーション(通過儀礼)」としてはBパートの恋こそ通過儀礼。
だからBパートの最後は唐突に終わる。
Bパートの「たっくん」は捨てたつもりだけど、繭子からすればちょうどよかったんでしょう。

この本を繭子の物語として考えればAパートの最後が本当のハッピーエンド。


伏線張りまくり、作品全体がこの一つの大きな仕掛けを成立させるための前振りになってる意欲的な作品。
某アレとか某アレの叙述トリックと比べて、前評判を知りすぎていたのでちょっと低く見てしまった。
相対的な評価しかできませんが。

次は、映画の感想で。


「イニシエーション・ラブ」予告 - YouTube