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火星の医療サスペンスSF 宮内 悠介「エクソダス症候群」

ミステリ SF 読書

エクソダス症候群 (創元日本SF叢書)

驚異の新鋭が放つ、初の書下し長編
舞台は火星開拓地、テーマは精神医療史。

すべての精神疾患が管理下に置かれた近未来、それでも人々は死を求めた――10棟からなるその病院は、火星の丘の斜面に、カバラの“生命の樹”を模した配置で建てられていた。ゾネンシュタイン病院――亡くなった父親がかつて勤務した、火星で唯一の精神病院。地球の大学病院を追われ、生まれ故郷へ帰ってきた青年医師カズキは、この過酷な開拓地の、薬もベッドもスタッフも不足した病院へ着任する。そして彼の帰郷と同時に、隠されていた不穏な歯車が動きはじめた。25年前に、この場所で何があったのか――。舞台は火星開拓地、テーマは精神医療史。第1作『盤上の夜』、第二作『ヨハネスブルグの天使たち』がともに直木賞候補となり、それぞれ日本SF大賞、同特別賞を受賞した新鋭が新たな地平を拓く、初の書下し長編。

先週末には書店に並んでたんですが、昨日電子書籍が出るまで待ってたので。
面白くて二日で読んでしまった。



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前作「ヨハネスブルグの天使たち」では未来のテロや内戦を描き、例の“伊藤計劃以後”で喧々諤々になった宮内氏ですが、今作では入植した未来の火星にある精神病院が舞台。

主人公 カズキ・クロネンバーグは精神医。
とある事情で地球から火星にやってくる。
テラフォーミングされた火星はバブル状の泡で空気を保ち、そこに街を造ってる。

火星では当然火星ならではの環境があり火星ならではの精神病がある。
そのひとつが「エクソダス症候群」

【295.6.3】エクソダス症候群(ExodusSyndrome)
A.特徴的症状

(1)脱出衝動を伴う妄想
(2)脱出衝動を伴う幻覚
(3)奇妙な夢
(4)感覚の平板化、思考の貧困、または意欲の欠如
このうち二つ以上が、一ヶ月以上継続して見られること
B.社会的または職業的機能の低下
仕事、対人関係、事故管理などの面が病前より著しく低下している。小児期・青年期の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準に達しない

患者は
「地球へ帰るんだー!うおーー!!」
と突然、火星の大地を突っ走りバブルの外へ飛び出そうとする。
止めると暴れる。
投薬による症状の抑制は可能。

この謎の病気を巡り、火星のゾネンシュタイン精神病院で起きる事件と謎を描いている。
主人公は医者なので前作のようなアクションはない。

今作は確かにSFではあるんだけど描いているのは「精神病と社会」という普遍的な問題。
こればかりは過去だろうが未来だろうが変わらない。
呪術的処置、拘束、幽閉、隔離、水治療法、ロボトミー、電気療法、投薬処置。
過去の精神病とその対処を取り上げ、その辺りに現代というか社会的な側面を感じる。
いつの時代から見ても過去の対処は野蛮に映る。
だとすれば現在行われる大量の抗精神薬投薬も、未来から見れば杜撰で野蛮な対処なのではないか、と。

「こうした療法を安易だと言うことはできるが、当時には当時の論理があった。このころ、人々はただ推論することしかできなかったのだ。それによって、ありもしない因果関係が見出され、無根拠で野蛮な治療が生まれた」

ひとつの精神病とそれを巡る謎と真相。
闇に消えた逸話と秘密と企み。
SF医療サスペンスとでもいいますか。

がっつり読ませる中身ですけど、実際の精神医の感想なども伺いたいところ。
「ヨハネスブルグ~」よりこちらの方が好み。


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