経済破綻は世界の金融システムに組みこまれている ジェイコブ・ソール「帳簿の世界史」

帳簿の世界史 (文春e-book)

未来の資産価値を現在に置きかえる帳簿が生まれたとき、世界が変わった。アダム・スミス、カール・マルクス、マックス・ウェーバー…。彼らが口を揃えて主張していた「彫簿」の力とは、一体何なのか。これまでの歴史家たちが見逃してきた「帳簿の世界史」を、会計と歴史のプロフェッショナルが、初めて紐解く。

これは、多少分厚いが一読の価値がある。
オススメの一冊。

帳簿、会計、複式簿記、経理から世界史を見ていくという趣向になってる。
以下、本書の一部から抜粋など紹介を少し。



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神と会計

会計の歴史を辿ると、神とぶつかる。

かつて「金を稼ぐのは悪である」という考えがあった。
だからキリスト教信者の商人は、儲かれば儲かるほど罪の意識に苛まれたのだそうだ。

今日では想像しがたいことだが、中世の銀行家や商人には罪の意識がまとわりついていた。聖アンブロジウス(三三七〜九七年)は、高利はおろか利子をとって金を貸すこと自体を避難し、もらった以上に取ることは罪だとした。一一七九年に開かれた第三ラテラノ公会議は、高利貸しをキリスト教徒の墓地に埋葬することを禁じた。
高利は強欲の大罪と結びつけられ、強盗、嘘、暴力などと同罪とされた。

金貸しが強盗と同列なんですからなかなかのもの。
キリスト教の信者であればあるほど金儲けに対して罪の意識を持つんだから幸せになれないとは皮肉な話。

一般的な多くの商人は複式簿記なんて使うわけもなく、せいぜい単式簿記や簡単な帳簿書きで済ませていたらしい。
当時コストだのなんだのの発想があるわけもない。
よくそれで商売ができたもんだ、と思いますがおおらかな時代だったんでしょう。

フランス革命と経理

お次はフランスのお話。

1774年 ルイ16世が即位するがフランスは莫大な債務を抱えていた。
徴税システムもひどいもので

徴税請負人のつける帳簿はじつにお粗末で原始的であり、しばしば不正が入り込む。人手不足のため監査は三年に一度だから、ごまかしをする時間はたっぷりあった。
ある請負人は、帳簿を十九年も遅れて提出した。徴収した税金をすぐに財務省に渡さず、あろうことか高利で王家に貸す輩もいた。

横領不正は日常茶飯事、税収は増えない、借金もできない。
そこで1777年 銀行家のジャック・ネッケルを財務長官に任命する。

しかしネッケルの改革は腐敗の裏で甘い汁を吸っていた人間の不興を買う。
ネッケルに対する批判が膨らむ。
曰く「自分の懐に税金を横流ししている」などなどあることないこと書き立てた怪文書が飛び交う。

ネッケルは批判に対し1781年、「国王への会計報告」と題し、王家の財政を詳しく書いた報告書を作り上げる。
詳細な数字を具体的に見せることで自身の仕事の正当性を示そうとした。
そしてそれが一般に公表される。

面白いことに、ここまでの歴史で「税金がどの程度の額徴収され、どの程度の予算に対し使われたか」などというものを一般市民が知ることはなかった。
何せ王様だってまともに把握していないのだから知るわけがない。
この会計報告によって漠然とした王家の豪華な暮らしが数字となって一般市民も知ることになった。

しかしネッケルは、抵抗虚しくフランスを追われることになる。
「国王への会計報告」は様々な手管を使い収支が黒字である、ということにしてあったのだが、実際そんなわけはなくネッケルは罷免され、スイスへ行くことになる。

さて、当時の平均的な労働者の賃金は1日15〜20スー(1リーヴル=20スー)パンが7〜15スー。
このころ王家を巻き込む詐欺事件「首飾り事件」が発生する。
この渦中の首飾りの値段が200万リーヴル(三十億円)ですから、パンがなければお菓子をどころじゃあない。
え?王家ってそんなの買おうと(詐欺なので実際には買ってません)したの?と市民は王家や貴族の金銭感覚を知る。
ずさんな会計、湯水のように金を使う王家の信用は日に日に落ちていく。

1788年、スイスからネッケルが戻り財務長官へと復帰する。
王家の内情を暴露したネッケルは民衆の代表へと祭り上げられていた。

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王妃がネッケルの再度の罷免を要求したところ憤慨した市民がヴェルサイユに繰り出し、門の前で騒動が勃発。
1789年7月11日 王はネッケルを罷免、そして14日群衆が旧体制の象徴バスティーユを襲撃。

いわゆるフランス革命に突入する。


フランス革命もこういう経理の側面から見ると風景が違って見える。
昔、歴史の授業で習ったときはこんな風には教えてもらってなかったですが。
財務状況すら知らないから黙っていた市民に、ネッケルがそれをばらしフランス革命につながり、そしてアメリカ建国にも影響を与えた。

帳簿の歴史

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では現代はどうか?
といえば、そこまできちんとした経理や予算ができるなら国立競技場の屋根で揉めたりしない。
東芝↓もこんなことやってる。headlines.yahoo.co.jp
あらら。

粉飾決算、脱税だって毎年毎年話題になる。
エンロン、リーマンショックだってきちんとしか会計監査が入ってればどうだったろう。
そして先日の中国の株価急落に対する慌てっぷり。

中国は、世界経済の先頭を走り、中国の資本が世界経済の重要な部分を担ってる。

中国経済は世界の製造と金融のかなりのパーセンテージを占めている。つまり、世界の製造と金融のかなりの部分が、基本的に閉ざされた社会で行われているということだ。エコノミスト誌は、中国政府が発表する経済統計は「常軌を逸した数字」で信用できないとして掲載しない。
中国は会計責任を果たさない超大国なのである。
(中略)
経済の破綻は、単なる景気循環ではなく、世界の金融システムそのものに組み込まれているのではあるまいか。
金融システムが不透明なのは、けっして偶然ではなく、そもそもそうなるようにできているのではないだろうか。

バブルに踊り、無数の鬼城(投資目的で作られたが住むもののいない廃墟マンション)を生み出している中国がまともなわけもない。
その辺は橘玲氏の「橘玲の中国私論」に詳しいが、やはり会計をお粗末にする国や人間はいずれどこかで崩れてしまう。

かつての権力者は己の愚策が見えるからこそ帳簿を嫌った。
民衆は具体的な数字を知ることで王家を打倒しようと決意した。
複式簿記で成功したメディチ家は跡継ぎが複式簿記を知らず没落した、なんてのはとても象徴的。

帳簿から見る歴史は、いわば理性と数字で人間の暴走する怠惰や欲望と戦った歴史のようにも思える。
とても興味深い一冊。
会計を制するモノはいろいろ得する。

橘玲の中国私論