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「第三世界の長井」とメタ表現

ながいけん「第三世界の長井」三巻がKINDLEにDLされてきた。

第三世界の長井(3) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

「第三世界の長井」をざっくり説明すると、変なヒーローが宇宙人と戦い平和を守るがそれによって世界が崩壊していくという話。
作中世界の分析に関しては、非常にしっかりした読者の考察記事もあるので詳細はググってそちらを見てもいい。

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※第1話「第1話」

この右上のコマの変なのが「長井」。
明らかに背景世界と違和感がある。

……ということでここからはネタバレありで。
一応、ネタバレ読んでもそんなに影響(面白くなくなる)あるマンガでもないかと思いますが……。

読む気のある未読の方、こんなマンガ生涯読まない、興味がない方はここまで。
変わった作品なので是非一読していただきたいところですが。

では、ついて来れる方だけ以下。
「長井」のメタ面に絞った話を。




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METAPHYSICS

作中世界に関してはひとまずおいといて。

まずこのコマでメタを考える。
「長井」を支援(?)する博士と作中の神IOが2人。

博士のセリフに注目すると面白い。
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※第1話「第1話」

つまり君こそが/最後の希望であり/説明ゼリフとか/もううんざりする

この部分でわかるんだけど。
前半の

つまり君こそが/最後の希望であり

は作中の説明ゼリフ。
後半の

/説明ゼリフとか/もううんざりする

はメタ(作外)作者の言葉。
そして

こんなトゲ/好きでつけるかよ/でも無いとたぶん/タツノコ方面から/大変な事が/おきる/まあ俺の知った/こっちゃないけど

ここも引き続き作者のセリフだがここでの人称が「俺」。
博士の人称は「わい」
ここでもセリフの後半からメタに作者が覗いているのがわかる。

「タツノコ方面から/大変な事が/おきる」
という部分に関しても世界を救うために宇宙人と戦う長井と博士にタツノ○プロは関係がない。
博士のルックスがデジャヴューありありでもゴッドバード飛ばしそうでも関係ない。
このセリフでメタ的に作外の作者が透けている。
そしてこのセリフはコマを突き抜け外枠に達してる。だからメタ。

では、作中における神的存在のIOとはなにか?

!(I - O)

ミステリーズ《完全版》 (講談社文庫)

作中に登場するIOと呼ばれる全能の存在は神のようだが神ではない。
神なら「長井」がいくら世界を歪めようがなんとかできる。

物語の世界にいるキャラクターは、通常は世界の外が見えない。
世界の外……つまりコマの外の枠は見えない。

たとえば長井の作画がおかしいことをIOは認識できるが作中のキャラクターらは認識できない。
IOらは作画の差を見分けられる……IOらの視点というのは簡単にいえば読者と同じ視点、と言える。
読者と同じだから「長井」が物語世界の中で文法がずれていることも認識できる。

IOの音那にできることは物語世界の整合を取ること。
アンカー(おかしな設定)を上書きすることで物語内の整合(作中人物らの認識)を保たせる。
「長井」からアンカーが流れ込むのを止められない、なら作中世界でなんとかするしかない。

山口雅也「不在のお茶会」のなかで、登場人物らは自分たちの存在が「読者が活字を追うときに脳内に再生される疑似的な存在である」と認識した上で議論を交わす。
マンガにおいても同じくキャラクターは作中の存在であり外部世界を認識できない。
外部に関する知識はない。
だから上の博士のセリフでもIOはタツノコがなんであるのかということには触れない、というか認識できない。
作中の存在でしかないIOに外世界の権利関係は関係ない。

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第5話 ヒーローの創り方(前編)

左上のコマ。

まずいです(編集部)

本当にまずいなら書かなきゃあいいわけで、あえてまずいと書いて描くのは、ここのコマにメタな位置がある。IOはやはり認識できない。
IOは通常のキャラと違い読者並みの視点を持っている。
だがそれ以上の視点は持っていない。
あくまで作中における神キャラでしかない。


「第三世界の長井」において「長井」は世界の歪み。
ではそもそも長井に象徴されるその「歪み」とは何か?

超越的存在

度胸星  1 (小学館文庫 やB 24)
個人的な一つの捉え方だが「長井」というのは、作中と作外を繋ぐ「穴」なんだろう。

本来、物語世界は閉じている。
その中で設定は、整合が取れている。
しかしアンカーという作外からやってくる読者らの考えた適当な設定が「長井」という窓を通じて物語世界に流れ込む。
IOらはあくまでも作中の神(キャラクター)であり作外の神(作者)ではない。
だからアンカーにより世界が歪み続けていても、何もできず見ているしかない。

マンガ「度胸星」にテセラックという超越的な存在が登場する。
テセラックは高次元の存在であり、距離に関わらず火星に到着した一団を壊滅させる。
距離が関係ない、三次元を超える、それをマンガ的に表現するのに挑戦した。

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第5話 ヒーローの創り方(前編)

突然登場する長井の父は実写の写真。
しかもこのあと色々まずくなり目線が入る。
そもそもマンガ世界のおいて実写が突然登場し、しかも肖像権関係で目線が入る。
これも随分とメタな存在。

「第三世界の長井」での「長井」は、物語世界の歪みをマンガ文法のズレを使い表現した。
シリアスマンガ世界において劇画タッチかつ平坦な「長井」の造形やタツ○コから怒られそうな博士や写真を使うことでマンガ物語における超越的存在、歪みを表現してるってことだろう。


ちなみに第4話のタイトルは
「現実対虚構 空中大決戦(嘘)」

普通に読めば「物語という現実」と「長井という虚構」
しかしアンカーが読者リクエスト(現実、メタ)なので現実は「長井」で虚構は「物語世界」。
空中大決戦は(嘘)だけど。

長井が世界を救うと言いながら世界を破滅に導いてるアンビバレンツな存在というのも面白いところ。
1話目始まっていきなり「この物語はフィクションであ」って書いてあるのも色々暗喩的。
第一世界を現実、第二世界を物語として、第三世界ってのは現実と虚構の合間くらいなのかもしれない。
4巻はいつになるやら……。

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