素材は面白そうなのにどうしてこうなった 映画「その怪物」

その怪物 [DVD]
その怪物 [DVD]
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TCエンタテインメント (2015-06-03)
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冷酷な殺人鬼と妹を殺された少女の果てしなき戦いを描くアクションスリラー。露店商売をしながらたったひとりの妹と生きてきたポクスンは、ある日殺人鬼・テスに妹を殺害される。復讐を誓った彼女は、刃物を手にテスを付け狙い始めるが…。

↑まさにこれ(QED)
……では記事にならないので。




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兄弟・姉妹

イ・ミンギ演じるサイコパスの男を見てたらスマグラーに出てきた殺し屋「背骨」を思い出した。
韓国でリメイクやらんかなぁ、あれ。
イケメン細マッチョ格闘最強で女子供も容赦なく殺す。


『スマグラー おまえの未来を運べ』予告編 - YouTube


主演をやってるキム・ゴウンはルックスは特段いい訳ではないのだけれど演技がかなり上手い。
少し精神に障害のある役を見事に演じてる。
逃げてくる少女役にアン・ソヒョン。
こちらも芦田愛菜みたいな名子役。

この二人がサイコパスのイ・ミンギからひたすら逃げる。

少女と幼女では当然敵にならない。
そこでイ・ミンギの敵として兄の存在が登場する。

兄はイ・ミンギを利用して己の欲望を叶えようとする。
だがコントロールできなくなり排除しようと考える。

やくざ者の手を借りるがことごとくイ・ミンギは殺し生き残ってしまう。
しかしイ・ミンギは兄を殺さない。
家族が唯一の社会との交わりだからなのだけれど。

生活のレイヤー

パラダイム(常識、感覚、世界)を層として考える。

主人公キム・ゴウンにとっての世界は現代社会とは異なる。
精神的に障害があり社会的な常識(レイヤー)とは交われない。

そこで妹の存在がある。
妹は学校でも優秀な成績の少女。進学も控えている(しかも姉より明らかに可愛い)。
妹が存在することでキム・ゴウンは社会と折り合いをつけることができている。

そして逃走するアン・ソヒョン。
こちらは目の前で姉を殺され天涯孤独の身になる。
幼女の割に賢いが、社会的にはまだ保護者を必要とする。
こちらも社会というレイヤーには存在できない。

そして二人を追うサイコパス イ・ミンギ。
躊躇なく人を殺し、死体を焼き残った粉を陶器に練り込むのを趣味とするくらい狂ってる。
社会に関われるわけもない。


そこへ叔父が登場する。

叔父はアン・ソヒョンの姉と揉め、スマフォを金と交換してくるようイ・ミンギの兄に依頼する。
金目当てにイ・ミンギを使い金を横領しようと考える兄。
叔父と兄は金、社会的地位など社会のレイヤーに存在しながらその外にあるダーティな力を利用しようと考える。

結果、姉を殺され社会と交われなくなったアン・ソヒョンをキム・ゴウンが救い、キム・ゴウンは妹を殺されこちらも社会にアプローチする手段をなくす。
そして兄に利用され、兄に殺されるそうになるイ・ミンギ。
姉と妹、兄と弟。

血は繋がらない、社会的に繋がれない生き残った二人の姉妹と、兄に殺されそうになりながらも家族の絆を欲する弟。

この話で警察などの存在が薄いのは(全く理解してくれないし話が通じない)のはレイヤーが違うからだと思うんですよね。

残念な仕上がり

さて、いろいろ面白そうなのに「なんでこうなった」感があるのはなぜか?と。

この話ってブラックなコメディ色と過剰なくらいのバイオレンスが入り交じってる。
バイオレンスに関しては言うことないくらいお腹いっぱいとしても、コメディに関しては食い足りない。
それはツッコミの不在にある。

本来、キム・ゴウンがぼけて妹がつっこむ、あるいはアン・ソヒョンが突っ込まなきゃあならないんだけども妹は早々退場するし、アン・ソヒョンは突っ込むには幼すぎる。

ツッコミは、ボケと言う非常識に対する常識的な訂正。
ツッコミ(常識的価値観)の不在がコメディ部分の弱くさせる。
笑うこともできず、めんどくさいキム・ゴウンと幼女がイケメンサイコパスから逃げ回るフラストレーションのたまる話にしてる。

最後の解決もモヤモヤが残ったまま。
「大空の誓いエイセス」でサニー千葉が己を犠牲にして死んだのに最後はみんな忘れてバーベキューパーティーしてたのを思い出させる妹の扱い。
墓参りのシーンを一つ入れるだけで随分違ったろうに。


演技派の新人女優、イケメンなどなど役者陣は素晴らしいし画作りもいい感じ。
なのに、ほんと、どうしてこうなった。


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