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映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」を観るとき注目すべき4人

 
 
バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) [Blu-ray]

『バベル』のアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督がかつて一世を風靡した俳優の再生を描いた人間ドラマ。長いスランプの中にいるスーパーヒーロー映画の大スター・リーガンは、再起を決意し…。主演はマイケル・キートン。

とても面白かった。

記事を書いてから、過去の評を確認してみたら超映画批評では55点で、菊地成孔氏の評では大絶賛だった。
よかった。
これで安心して絶賛できる。

では、この映画を見るときに注目すべき数人について以下。




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マイケル・キートン

まず主演、マイケル・キートン。
映画「バードマン」というヒット作があるが今や忘れられ、再起をかけ舞台に挑む役者リーガン・トムソンの役。

マイケル・キートンは89年に「バットマン」92年に「バットマン・リターンズ」でクソ重いバットスーツを着て*1アメコミヒーロー映画化の黎明期を担ったのにその後ヒット作に恵まれず、最近になって映画界はアメコミブームなのにマイケル・キートンはそんな流れに乗ることもない。
この「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で再評価を受ける、って劇中の役まんま。

こういうメタなフィクションとしてはJCヴァンダムが落ちぶれたヴァンダム役で登場する自虐的セルフパロディ「その男ヴァンダム」なんかもありましたが、この作品では一応“過去にアメコミヒーロー役でヒット作のある”リーガン・トムソンという役になってる。

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そして共演するのは「アヴェンジャーズ」に入れなかった「インクレディブル・ハルク」のエドワード・ノートン。
娘役エマ・ストーンは「アメイジング・スパイダーマン」
売れない女優の役ばっかりやってる印象のナオミ・ワッツは「タンクガール」に出てたっけ。

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過去にヒーロー映画経験者をごっそり揃えてるのも当然意図的。
今やアメコミヒーローものばかり流行ってるハリウッドに対する当てこすりなキャスティングは言うまでもない。
しかし結果的に実力派揃いになってしまうという、ね。
 
 

エマニュエル・ルベツキ

全編ワンカットの特殊な撮影法。
いや、まるでワンカットで撮っているかのように見せる編集の上手さ。

Tribute to Emmanuel Lubezki from Jorge Luengo Ruiz on Vimeo.

撮ったのは撮影監督エマニュエル・ルベツキ。
テレンス・マリック作品でキャリアを積み、「ゼロ・グラビティ」とこの「バードマン」でアカデミー賞を受賞。

全編ワンカットというのは、映画的ではない。
最近なら、舞台大好き三谷幸喜くらいのものか。

映画の発明は、カットを割り、繋ぎ合せることで遠い世界や時間の繋がりを表現すること。
しかしこの映画ではそんな映画的な文法をすっとばして、ワンカット撮影(風)に見せることで映画的ではない……演劇的に見せる。カットを割り演技のいい部分を繋ぎ合せるのではなく、ワンカット一発撮りで行うのは舞台劇に近い。
この撮影方法そのものが、映画を捨て舞台にかける主人公を現してる気がする。
 
 

アントニオ・サンチェス

さらにこの作品のポイントになるのは音楽。
担当したのは、ジャズドラマー アントニオ・サンチェス。

このドラムを聞くだけでも価値がある。
本当に素晴らしい。
※ちなみにAPPLEMUSIC上にアルバムありますので使ってる方は是非

昔、仏映画「死刑台のエレベーター」でマイルス・デイヴィスが映画に合わせてペットを吹いたことがあったけれど、今作でもそれを彷彿とさせる即興ドラムが使われてた。

「1回目は撮影中だったNYにあるスタジオで行なった。その時は撮影中とあって素材として何も観るものがなかったので、監督に自分のドラムキットの前に立ってもらって、ディテールを含めて1つ1つのシーンを口頭で説明してもらい、そこから想像しながら叩いていた。それで、例えばドアが開くとか角を曲がるといった動きがあった時には、監督に瞬間に手を挙げてくださいというふうにお願いして、すべてのシーンについて即興で50、60テイク録った。その後、監督がそのデモ音源を現場に持っていき、それを流しながら演技のリハーサルをして、実際の撮影もこのデモに合わせてタイミングを見るために撮るということをしたんだ」
http://column.madamefigaro.jp/culture/music-sketch/post-1550.html

この即興ドラムが、単なる映画音楽以上の効果を映画に付けたす。

これが普通のサントラなら多分この撮影スタイルは映画として今ひとつなモノになってたろう。
過剰過ぎないシンプルなドラムのリズムが、ワンカットの撮影に緩急をつける。
虚構で鳴り響くのは脳内の音、そして現実でドラマーが叩く音、幻覚のドラマーが叩く音。
映画内における幻覚と現実の境界をあいまいにする存在。

この映画におけるサンチェスのドラムは、単なる演出効果以上の存在、物語を描くもう一つの文脈として映画に君臨してる。

K ずっとBGMでドラムが鳴っているんですけど、映画の中で2か所だけドラマーが叩いているところが出てくるんですよ。要は、BGMと思って聞いていると、「あ、ホントに叩いてたのか」と驚かせる、という脱構築も入ってて非常に興味深いです。
AS アレハンドロが狙ったのはまさに、観客が、ドラムがBGMなのか、リガンの頭の中の音なのか、それともほんもののドラマーが叩いてる音なのか、常に混乱してほしい、ということだ。
アントニオ・サンチェス・インタビュー<前篇>: eL Pop

※引用注 K:菊地成孔 AS:アントニオ・サンチェス

 
 

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

そしてこんな変態チックな撮影を行ったのが監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。

演技派俳優らによる一発撮りの長回し。
それらを繋ぎ合せ、セッションのようにドラムを合わせる。
演技、撮影、音楽。
どれも普通じゃないものを合わせたらおかしな映画に仕上がった。

そしてリーガン・トムソンの超能力。
これらは映画中では本物であるかのように描かれるが(しかし途中で空を飛んでいる筈が、タクシー運転手が料金をもらいに行くところでこれらがリーガン・トムソンの観ている幻覚であることが示される)最終的に“(無知がもたらす予期せぬ奇跡)”として描かれる。
過去にヒーローを演じた深層心理がリーガンの超能力として表現されてる。


これに本谷有希子「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」を連想してしまったんだけれど、万能である空想の世界に遊ぶリーガン・トムソンの幻覚は社会的に認められることでその空想を外部と共有する→他者に己の幻覚・空想・想像を見せる→映画や演劇など役者が実体化させ観客に幻想を共有する、という暗喩でもあるように思えたり思えなかったり。
↓※ネタバレ反転
さらに言えば「空を飛ぶ→天使になる」と読んでバードマンは死に空へと飛んでいくのでした、とも読める。
「実は死んでる」パターン。
幻覚を幻覚として切り分けして描かない映画なので、シーンのどれかが幻覚や夢や虚構であってもなにもおかしくない。

↑※ネタバレ反転

これらの幻覚とも現実とも付かない区別ない映画表現を菊地氏は中南米のマジックリアリズム小説からであると評し、イニャリトゥ監督がアカデミー賞のスピーチで「移民の映画だ」と言ったのとも繋がる。

この不思議な物語が、さきほど名前を出した、ノーベル文学者受賞者であり、中南米マジックリアリズム文学の代表者、ガブリエル・ガルシア=マルケス氏が亡くなった年に製作開始しているのは、全く無縁であるとは思えません。ハリウッドのブロックバスター的娯楽大作主義と、インターネットという、人々から複雑な多弁性を剥奪し、知的にも感性的にも家畜化を促す、ファシズム準備的なドラッグによって、物語の解釈が強く一義的で、ネットで簡単に説明出来る事がミッションになりがちな現在に於いて、主人公の自己更新を阻もうとする、<過去の栄光>の象徴であるバードマンが、実在するのか、主人公の幻覚、幻聴なのか、主人公が持つ超能力が、妄想なのか実在の物なのか、総てはどちらにでも解釈出来るように物語は進みます(後注*本作に於けるバードマンの存在や超能力の存在を疑いなく一直線に「妄想」とする解説/批評が多いのですが、ハリウッド娯楽大作の見過ぎです。ここでのリアル/アンリアルは、ガルシア・マルケスの小説の様にーー文字通りーーー空中に浮いたままです)。
「バードマン準備稿+」 - naruyoshi kikuchi INTERNET TROISIEME

面白いかそうじゃないかっていうのは、この作品が持つ移民問題やハリウッド映画、レイモンド・カーヴァーの描いたコンテクストについて、日本では映画好きならニヤニヤしてしまうし、そうじゃないならよくわからないって部分にもあるような気がする。


個人的には、かなりのヒット作。
「セッション」よりずっといい。
猛烈にサントラが欲しくなる(APPLE MUSICお気に入りに入れた)。

これが駄作だとか55点だとかいうひととは、美味い酒を飲めない。

*1:あの当時のバットスーツはすさまじく重く不評だった