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新井英樹の描く終末世界の日常「なぎさにて」

なぎさにて 1 (ビッグコミックス)

新井英樹氏最新作。終末に挑む家族の物語!

人類は滅亡するために生まれてきたのか――――!?

主人公・杉浦渚はどこにでもいる普通の女子高校生。
杉浦一家もどこにでもいる普通の家族。

ただし、取り巻く世界は確実におかしくなっていた。
2011年に人類発祥の地・ケープタウンに不思議な木が生えたときから…

突如として世界各地に生え始める不思議な木…
強制的に「世界の終わり」を意識させられる人類…
刹那的な享楽にふける人…全てを諦め投げやりな生き方を選ぶ人…

全てが急速に変わり始めた世界の中で、
変わらないことを選び絶望に挑む、
家族の物語がここに開幕!!



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絶望や終末、終焉。
日常から遠い非日常が、常に隣にある日常。
 
浅野いにおは「デッドデッド~」で宇宙からやってきた侵略者として人類の終焉を描き、新井英樹はこの「なぎさにて」で巨大な豆の木として描く。

突如として生え始めた軌道エレベーターのように天に昇る豆の木は、突然破裂し液を撒き散らし何十万という人間を殺し土地を汚す。豆の木は破裂するかもしれないし、しないかもしれない。
いつ破裂するか、どれだけ破裂するか、どれだけ死ぬのか。
それはわからない。
ただ木が破裂すれば、周辺の人間が大量に死ぬのだけは間違いない。

もちろんこれは原発のメタファーかもしれない。
あるいは関東で間違いなく起きると言われている巨大地震のことかもしれない。

要はいつ破裂するかわからない爆弾が日常のそこここにあったとしたら、目に見える形で危険があるとしたら、果たして日常を日常として維持したままでいられるのかという話。


思い返せば震災があった翌日も変わらず仕事に向かい、しかし電車は動いていないから徒歩で向かった。
翌日も、翌日も。土日以外毎日変わらず。
テレビの向こうでは変わり果てた東北の光景が映し出され、昨日まで確固としてあった昨日と同じ明日があのときなくなった。
 
 
「なぎさにて」というタイトルはネヴィルシュートの書いたSF小説「渚にて」からか。
第三次大戦で使われた核兵器によって汚染された未来を舞台に、なす術なく破滅する人類を描いたSF作品。

渚にて 人類最後の日 (創元SF文庫)
東京創元社 (2012-10-25)
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押井守は、パトレイバー2で戒厳令下の東京を描いた。
警察と自衛隊がにらみ合い、戦車が道路脇に待機し、自衛隊員が銃を持ち立ち並んでも、普段通り会社員は出社し、山手線は動き、学生は学校に行く。
どれだけの非常時であれ日常を送ろうとする。

同じく、たとえいつか間違いなく破裂し、周囲の人間を皆殺しにする豆の木が生えてきたとしてもその横で日常を行う。
 
新井英樹の描く終末の隣で行われる、とある家族の日常。
昨日までとは違う世界で、昨日までと同じ家族と同じ日常を送ろうとする矛盾。

これまでのハードモードとは違う新井英樹にちょっと注目してる。