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地味な日本のスパイ日記 芝村 裕吏「猟犬の國」

読書

猟犬の國 (角川書店単行本)

日本の誇る情報機関、その組織には名前すらない。ただ、便宜上「イトウ家」と呼ばれる。平和にまどろむ日本が一日も長く続くように戦う無名の戦士、いや猟犬たち。今日も情報と軽武装を頼りに、国内外の“邪魔者”を騙し、操り、脅し、殺す。日本人でもないのに、猟犬に不本意ながらなった男がいた。―良心をすり減らして生きてきた男の今日の仕事は?『マージナル・オペレーション』で軍事小説の新境地を拓いた著者が贈る、スパイ小説!

 



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スパイものというと今度上映する007「スペクター」や「キングスマン」のようなエンターテイメントなイメージもある職種だが、この作品で描かれるスパイは目立たず身を潜め、有事があると動き出す現場労働の工作員。

「日本の敵」を観察し抹殺するために、大阪 西成に外国人労働者として潜む主人公。
淡々と西成の労働者に紛れ込むために目立たず日々を過ごす。
任務の日まで。

「逮捕するんでしょ?」
「殺そうかと思ってたんだが」
幸恵は睨んだ。
「だから、なんだって直ぐにそうなるんですか」
「人生は短く、悪党は多い。俺は手短にやる方が好きだ」
第5話 狩猟

前半、地元に溶け込むための西成日記が続き、急に任務が始まるとあっさりと完了し撤収する。
主観が工作員なのだから日常を描くにしろ仰々しくないのは当然だろうが。

激しい銃撃戦などはなく(銃撃されることはあっても)殺すのも一瞬の描写。
そういった描写を”リアル”と感じる人も多そうなんだけれども、スパイという職種自体がリアルさからは遠くかけ離れているのだから、どちらかといえば派手さのないコツコツ堅実スパイ日記とでも評する方が正しそうな気がする。
芝村氏というと「マージナルオペレーション」では後方支援指揮者を描き「富士学校まめたん研究分室」ではAI搭載の多足歩行ロボット戦車の開発者を主人公に据えてみたり、「宇宙人相場」では非モテの主人公が女性に出会いスイングトレードなどの株式投資で生活費を稼ぐ姿を描いて見せたり、ストレートに題材を描かない切り口が多く、この作品でも当然スパイをありがちなエンタメ的に描くわけもないのは得心のいくところ。

togetter.com

作者の芝村氏は、発言でやらかしたりはするが作品自体は面白い。
これも徹底的にエンタメ的展開を回避し、地味を貫いた結果、最後の最後のオチまで地味に徹するのもそれはそれで面白い一作だと思う。

とはいえ、他の芝村作品を読まずにいきなりこれを読むってのはちょっとお勧めしないが。
せめて「マージナルオペレーション」くらいは読んでからの方がいいとは思う。



azanaerunawano5to4.hatenablog.com

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