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多重解決ミステリの大伽藍 深水黎一郎「ミステリー・アリーナ」

読書 ミステリ

ミステリー・アリーナ (ミステリー・リーグ)

『最後のトリック』の著者による、多重解決の極北!
ある屋敷で起こった不可解な殺人事件、これに挑むのは
いずれも腕に覚えのある〝ミステリ読みのプロ〟たち。
勝てば一攫千金のバトルロワイヤル、結末は〝真実〟か!

以下、ネタバレなしで。



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テーブルを囲む数人の男女。
先日起きた殺人事件の話題になり、一人の男が自分の推理を披露する。
しかしその隣に座っていた女性が違う見解で別の推理を披露する。
そして向かいに座った男性が今度はまた別の推理を披露し……。

一つの事件に対し、いくつもの推理が披露される多重解決ミステリ。

古典であればバークリー「毒入りチョコレート事件」
ノックス「陸橋殺人事件」
芥川龍之介「藪の中」
近年であれば米沢穂信「愚者のエンドロール」でも、ひとつの未完映画に対しいくつもの推理が提示される多重解決の構造を持っている。

そしてこの「ミステリーアリーナ」で多重解決形式は、メタボリズムを極めることになる。

愚者のエンドロール<「古典部」シリーズ> (角川文庫)
KADOKAWA / 角川書店 (2012-10-01)
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今作は「2016年版 このミステリーがすごい!」で6位。
そして「2016本格ミステリベスト10」では堂々1位を獲得。

2つのランキングの嗜好の違いが見事に順位として出た。
この作品が“ミステリ読みに支持されるミステリ”だということがよくわかる。

「さあさあさあ、今年もやってきました!年に一度のお楽しみ、大晦日の夜恒例の、国民的娯楽番組≪推理闘技場(ミステリーアリーナ)≫!貧富の差が拡大し、富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなった二十一世紀中葉のこの日本、人々が人生の一発大逆転を狙ってチャレンジするこの超人気番組も、今回で記念すべき第十回目を迎えます!総合司会の樺山桃太郎です!」
ミステリー・アリーナ P30

近未来の日本。
紅白歌合戦に代わり大みそかに行われる国民的娯楽番組「ミステリーアリーナ」
殺人事件の起きる問題VTRを観ながらスタジオの解答者が次々解答。
早押し、解答権は一人一回、先に解答したものが優先される。
キャリーオーバーされた賞金は20億円。

一つのVTRに対して何人もの解答者が次々解答をすることで多重解決ミステリ構造を成す。
ところがこの事件VTRは、当然ながら時系列でヒントや手掛かりが次々登場する。
先に解答する解答者は先を読み推理を披露することになり不完全な推理はどこかで破たんをきたす。
しかしあとに解答しては他の解答者に賞金を奪われるかもしれない。同じ解答なら先に答えた者に権利がある。だからこそ一足先に解答しようと次々解答するが……。


久々にハードカバーで読んだのだけれども、電子書籍の方が向いている気がする。
電子書籍の場合、残りがどのくらいあるのかわかりづらく、この作品の場合そういう特徴は有利に働くのではないかな、と思ったり。

文章の隅々まで小ネタを仕込みまくり、叙述トリックの深読み深読み、さらに深読み。
トリックマシマシ叙述マシマシ推理オオメ。
推理もトリックもおなかいっぱい。

どこまでもミステリのためのミステリ。
新本格というミステリコードの実験場で産まれた徒花。
自称“ミステリ読み”のためのミステリといった印象。
物語に叙情や哀愁、などの情感を求める方は読まなくていい。

次々積みあがる推理であふれかえる大伽藍がいかに崩れ去るか?
それを楽しめる人なら面白く読める。

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