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上質なボーナストラック「殊能将之 未発表短篇集」

殊能将之 未発表短篇集

デビュー後、編集部の要請で送られていた習作短篇3篇とデビュー当時の様子を友人に書き送った「ハサミ男の秘密の日記」を収録。独特の笑いとセンス、ペーソスを湛えた殊能将之初期作品集。



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未発表短編

2013年に亡くなった殊能将之氏の未発表短編などが納められた短編集。

短編は三つ。
犬ぎらいの半崎の隣家に引っ越してきた光島家。
光島家の前には放し飼いにされた巨大な白い犬が道路に寝そべっていて、半崎は犬を避け遠回りして帰るしかない。
半崎は、犬に紐をつけろと言うため光島家を訪れるが……(犬ぎらい)

土木作業員の北沢、ヤクザの黒川、サラリーマンの安原。
三人は銃や刀を準備し、高木が隠れるアパートを襲う(鬼ごっこ)

妻がなくなり失意にある親友の広永の家に招かれた宮崎。
広永は怪しげな魔法書を持ち出し「妻を生き返らせる術を手伝って欲しい」と言うのだった(精霊もどし)

ハサミ男 (講談社文庫)
講談社 (2013-07-12)
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そして殊能将之氏のデビュー作「ハサミ男」発表までの日々を記録した「ハサミ男の秘密の日記」
最後の日記だけはメフィスト誌で発表済、それ以外の短編は初出し。

装丁のすばらしさ

化粧箱に入ったソフトカバー。
使われているのはピンクとベージュ、文字には黒。
本を開くと見返しもスピン*1もピンクを使っているこだわり。
このベージュ、少しピンクがかっているからかピンクとの相性がいい。

細かいところまでこだわった装丁は装丁も含めて一つの本として完成されていて、電子書籍が簡易な読書用データでしかないことが露呈してしまう。
とまれ世に出てる本の大半は簡易な読書データで何ら差しさわりないものがほとんどですが。
こういう隅々までこだわった本こそ、紙で買うべきものでしょう。

多分、個人的にピンクを使った装丁が好きだというのもあるかも知れないけれど(ハードカバー版の舞城王太郎「好き好き大好き超愛してる」とか)。

ボーナストラック

早逝した殊能氏の発表した作品は絶対的に少なく、習作であれ希少感が高い。
どの短編も一ひねり加えた展開があり、習作とはいえクオリティは高い。
非ミステリの作品だったからか、発表されずにいたらしいが。

お馴染み座談会から始まる「ハサミ男の秘密の日記」も当時の雰囲気を知ることができる。
日記にも出てくるが、

Fさんには悪いけれど、なんだかなぁ、と思った。
コミケ+インターネット状態で、業界騒然ですか。へえ、すごいですねぇ。
こういう光景は一度見たことがある。サイバーパンク全盛期のSF界である。いまちょうど、ミステリ界はあの時期にさしかかっているんだな。大森望さんがなんなく順応できるのも、当然だ。
ということは、あと二、三年でミステリ・ブームも終わりか。

などと冷静に分析しているあたりも面白い。

ミステリ界は新本格ムーブメントと共に隆盛し、新本格第二世代が登場して、ブームは収まった。
その後、勢いを盛り返したラノベと混濁しながらミステリ界は時折盛り上がりを見せつつも細々と延命をしている。

世間的には、SFブームが来つつあるのかもしれない。
“伊藤計劃以降”で種まきをした結果なのかは知りませんが。

「ハサミ男」の帯をだれに書いてもらうか?に巽孝之や大森望の名前が出ている中、解説と帯を大森望が書いてるなんてのもなかなか。


殊能将之作品を一冊も読まず手に取る本ではないし、そんな人もいないだろうが。

殊能将之という作家の遺したボーナストラック。
末尾を飾るのにふさわしい、天才と呼ばれた才能を再確認させる一冊。
もう一度「ハサミ男」を読み返したくなった。

azanaerunawano5to4.hatenablog.com

殊能将之 未発表短篇集
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*1:挟み込まれた紐の栞