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20人の愛人と1人の男 KERAMAP#6 舞台「グッドバイ」

テレビ

KERA・MAP#006『グッドバイ』 [DVD]

昭和23年、小説「グッド・バイ」は、太宰治が新聞連載を予定し13回分まで書いた時点で入水自殺を遂げ、絶筆となった。
田舎に妻子を残し単身東京に暮らす男・田島周二は、雑誌編集者という体裁の裏で闇商売でしこたま儲け、 はたまた何人もの愛人を抱えているという不埒な男。 しかし一転、妻子を呼び寄せ闇商売から足を洗い、真面目に生きようと愛人たちと別れる決心をする。
田島が愛人と別れるため手を組む美女・キヌ子、彼の多くの愛人たち、そして彼らを取り巻く人々をKERAが新たな視点で描き出す。

BSでKERAの舞台を放送していたので観てみた。



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ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出、KERAMAP#6は太宰治の「グッドバイ」の舞台化。
原作は、未完の作品。

雑誌「オベリスク」編集長の田島周二は愛人を二十人も囲っている*1
岡田斗司夫ではない。

あるとき田島は戦争で疎開している細君を呼び戻すにあたり、愛人と別れる決心をする。
しかしどうやって別れたものか……。
悩んでいると、葬儀で一緒になった旧知の文士がこう言った。

うむ、名案。すごい美人を、どこからか見つけて来てね、そのひとに事情を話し、お前の女房という形になってもらって、それを連れて、お前のその女たち一人々々を歴訪する。効果てきめん。女たちは、皆だまって引下る。どうだ、やってみないか。
太宰治 グッド・バイ

そこで田島は、闇屋の女、口を開かねば絶世の美人である永井キヌ子に妻役を依頼。
妻としてキヌ子を連れ、愛人をひとりひとり練り歩く……。


三時間を超える二部構成の舞台。

太宰の原作自体はかなり前半まで。
田島役には仲村トオル、永井キヌ子役は小池栄子。
第23回 読売演劇大賞 最優秀作品賞受賞。
小池栄子が、最優秀主演女優賞を受賞してる。

愛人の元を回る田島は優しすぎる優柔不断な男。
優しすぎるがゆえに傷つけ、愛人と別れるために行脚しながらも別れるかどうか迷う。

そんな最中、妻からの電報が届き別れを告げられてしまう。
妻のために愛人を捨てようとしていたのにその目的を失い、しかし愛人を再度求めても愛人に拒否され絶望に沈む田島。

小池栄子の演じる永井キヌ子は見た目と違い喋ればだみ声で下品、食べるときはクチャクチャ口を鳴らす。しかしそんなキヌ子も田島と一緒に回るうち、徐々に気持ちが惹かれて……。
 
 
※ここからはネタバレで(観るつもりのない方はどうぞ)
 
 
田島がキヌ子の気持ちに気づき結ばれるか?と思った途端、暴漢に襲われ田島は記憶喪失に。
記憶を失った田島は米兵を暴行し強制労働。
愛人らは田島が死んだものと思い葬儀をあげる。

そして時は経ち、記憶を失った田島が愛人らの元に現れる。
田島が死んだと誤解され過ぎ去った時間が愛人と田島との距離を開く。
生き残った愛人らは新たな関係を作り上げそこで救われる。

最終的に田島はキヌ子と結ばれる。
死んでいたと思われていた数年の時間があったからこそ愛人らはそれぞれの境遇の中、田島と「グッドバイ」と別れを告げることができ、キヌ子と田島が結ばれることに対して祝福の拍手ができる。

ケラといえば以前の「黒い十人の女」「すべての犬は天国へ行く」のように複数の女性による群像コメディが得意技。
今作は「黒い十人の女」の意趣返しにも見える。
愛人らは風松吉を閉じ込め、自分たちを弄んだ男に復讐するが、今作では同じように「優柔不断で誰にでも優しいがゆえに愛人を多く囲う」主人公にも関わらず「黒い十人の女」と違いブラックな悲劇に終わらない。

今作ではもつれた愛の果て、女癖の悪い田島はようやく愛を見つける。
愛人による復讐がない代わりに田島は暴漢に襲われ、記憶を失い、強制労働に就く。
これが田島の罪に対する罰として機能してるからこそ田島は許され、キヌ子との愛で終わることができる。
もし記憶を失うことがなければ愛人らは救われないまま、田島には何の罰もないままに救われてしまう。

※ちなみに未完の原作は青空文庫で読める→太宰治 グッド・バイ


太宰治の、このまま書かれれば悲嘆で終わりそうな悲喜劇を痛快なコメディとして描いたKERAの脚本が素晴らしい。
三時間もあるのに長さを感じさせず、満足感がある。

女優陣の演技も見事。
主演女優賞を受賞した小池栄子は当然ながら格段にうまいコメディエンヌぶりを見せる。
レギュラー(細君)である緒川たまきは勝手知ったるKERAの舞台。
夏帆も田島に捨てられる愛人のひとりを演じる。
いい女優さんになったなぁ。

かつてのKERAが多く描いた狂気は薄れ、愛人と勝手な男を描くのに悪意ない端正なコメディに仕上がってる。
大変面白かった。

グッドバイ
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*1:原作では、十人ちかく