“女優”前田敦子の才能が素晴らしい 映画「もらとりあむタマ子」


逆ギレ、ぐうたら、口だけ番長。坂井タマ子、23才、大卒、無職。ただ今、実家に帰省(寄生)中。
そんなタマ子の世話をやく父。春夏秋冬、季節はめぐり、タマ子は新たな第一歩を踏み出せるのか?

気になっていたんだが、機会がなく後回しにしていた今作。
huluにあったのでなんとなく観てみた。

AKB好きでもないんで前田敦子に関して特になんとも思ってなかったんだが、こんなものを見せつけられると「女優としての前田敦子」に興味を持たざるをえない。



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干物女

冒頭から、ひたすら前田敦子演じるタマ子がダラダラし続ける。

ようやく起きたと思ったらレンジでチンしたロールキャベツにかぶりつき。
視線はテレビから外さない。
ロールキャベツの半分まで一気に口の中へ。
口に白米をねじ込んで、さらにロールキャベツ。
山下敦弘の演出なんだか前田敦子の演技なんだか知らないけれど、食事の仕方ひとつでこれだけ性格を露骨に匂わせる上手さ。

一方、お父さんは手首に数珠、スラックスのベルトは当然アウト、
料理は妙に上手くて、昆布をあげて鰹節を投入してソバだしを作る。

それでいて食べるときはクチャクチャ。
しゃべりつつ食べるからソバも歯で噛み切りブツブツ。
こういう“おっさんっぽいおっさん”のディテールも実に上手い。


大学を卒業したはいいけれど、特にやりたいことがあるわけでもないタマ子。
実家に帰り、毎日何もしないでひたすらダラダラと過ごすだけのモラトリアムな日常。

演じるすっぴんの前田敦子は、いわゆる干物女。
だらだらグダグダ、それが愛らしく見えるんだから怖ろしい。

これが男だったらまったくもって愛らしいなんて感情にはならないけれど(だから女性が観ると違うのかもしれない)。

食卓

男親と娘、二人だけの食卓は「囲む」というよりも間に何かを挟まないと対峙できない関係性にも見える。
親子の対話は、いつも食卓。
重要なことは、いつも食卓で。

ニュースを見て「……ダメだな日本は」とつぶやくタマ子に「ダメなのは日本じゃなくてお前だ!」と父が説教するのも食卓を挟んで。
しびれを切らせた父親から「いつになったら就職活動するんだ?!」と詰められ、しかし“いつか本気出す!”と後回しにしているタマ子が葛藤と反発から「少なくとも今ではない」と応えるシーンは出色の出来。
笑える。


昔の友だちに声をかけられて、自転車で逃げようとするが捕まるタマ子は目を合わせようともしない。
ひたすら逃げるチャンスを伺い視線はあちこちを泳ぐ。


父親の恋人(富田靖子)を調べに行き、アクセサリ教室に潜入するはめになったタマ子。
父親の恋人とはテーブルの同じ側に横並び。
間には作りかけのアクセサリを挟む。

家に帰り、父親と対峙するタマ子は風呂上がり。
父親の恋人に対しての複雑な葛藤を内に秘め、普段のダラダラモードとは少し違う。
そしていつものように父娘で食卓を囲み、恋人について話そうとしたとき、普段と変わらない様子の父親はモラトリアムの終了を宣言する。
いつものようでありながら、いつもとは違う食卓の風景。
 
 
そして中学生で唯一の友だち?とは、ベンチにダラリとアイスを食べながら横並びに座るタマ子。
気が置けない相手とは、食べ物を挟む。

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こんな風にタマ子と登場人物の関係性や心理的間隔を物理的配置で表現するのは、山下敦弘の得意な演出法。
旧作「リンダリンダリンダ」でも人物の距離で心理的距離を表現してたが。

セットや服装やしぐさや、隅々のディテールまでこだわりがある。
昭和を感じさせるそばがらの枕、石油ストーブ、建て付けの悪い扉。

ディテールが不自然だと日常や生活感を感じられない。 
雑然とした空間と自然体の登場人物。
ひたすら日常を描いても見せる強度がある。
事件のない平坦な「日常」を描き切り取るのは結構難しい。

 

自然体

今の自分は、私ではありません。
生きている以上、誰もが何かを演じている。
私は誰かになっているときが、一番自然に思うのです。
そんな私に新しい名前をつけてください。

AKBの前田敦子は全然興味なかったけれど、女優の前田敦子はかなりいい。

とびっきり可愛いわけではなく、そこそこの感じで、隙があり人間らしく、普通っぽく見せられるところが素晴らしい。
若手女優やアイドルの演技は、演技っぽい演技だからしんどい。

噂としては聞いていたけど、これを観ると確かに才能があるとわかる。
アイドルが卒業し「女優になります」ってレベルを想定してると不意打ちを食らう。
複雑な役どころじゃないからこそ出来たのかも知れないけれど、これで経験値積んだらどうなるんだか……いやはや。
ホント、最初から最後まで安心して観ていられる。

同じ山下敦弘監督「超能力研究部の3人」に出演している乃木坂3人(生田、秋元、橋本)と比較しても、前田敦子の演技は格段。
映画撮影という不自然な環境下でカメラに対し観客に伝わる“自然体”を演じるのは、難しいんですよね……(超能力~はそういう映画だとはいえ)。


何も起こらない日々、言語外の空気を楽しむべき作品。
女優 前田敦子をもっと観たいなーと思わせる。
とてもよかった。

もっと早く観ておくべきだったな、これは。


今度からドロドロしたドラマの主演だそうで、これは観なければ。

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