前向性健忘症の主人公vs記憶捏造殺人鬼の顛末 小林泰三「記憶破断者」

記憶破断者 (幻冬舎単行本)

頼りになるのは、ノートだけ。記憶がもたない男は、記憶を書き換える殺人鬼に勝てるのか?見覚えのない部屋で目覚めた二吉。目の前には一冊のノート。そこに記されていたのは、自分が前向性健忘症であることと「今、自分は殺人鬼と戦っている」ということだった。殺人鬼は、人に触れることで記憶を改竄する能力を持っていた。周囲は誰も気がつかない中、その能力に気がついた二吉に、殺人鬼の脅威が迫り来る。絶対絶命の中、記憶がもたない二吉は、いったいどういう方法で、殺人鬼を追いつめるのか?二人の勝負の行方は?



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前向性健忘症。
ある時期以降の記憶を一定時間しか保てない。

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クリストファー・ノーランの映画「メメント」では主人公は10分しか記憶が持たず、西尾維新の小説“掟上今日子”シリーズでは一度寝ると記憶をなくしてしまう探偵を描いた。
自身の脳が記憶を保てない代わりにメメントでは身体に刺青を施し、掟上今日子は身体に油性ペンで書き込み記憶の代わりにする。

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小林泰三「記憶破断者」の主人公 田村二吉は暴行されている友人を助けに入り、脳にダメージを受け記憶障害に陥ってしまう。

気づくと見知らぬ部屋。
手元にはノート、そこに書かれている内容で二吉は自身が前向性健忘症であることを把握する。
しかしノートにはおかしなことが書かれていた。

・今、自分は殺人鬼と戦っている。


雲英光男は、触れた相手に偽の記憶を植え付けることができる特殊な能力を持っている。
これにより金を盗み、暴力を振るい、犯し、殺しても周囲の記憶を改ざんして生きてきた。
何人殺してもその記憶を変えてしまえばなかったことになる。
別の人間に殺した記憶を植え付ければ、自分の身代わりにもなる。


“スタンド使いとスタンド使いは引かれ合う*1”ではないけれど、前向性健忘症で「記憶を保てない」主人公と
「偽の記憶を作り出す」殺人鬼は出会ってしまう。

ミステリ読み的には、いろいろと余計な読み方(あらゆる部分を疑いつつ)をしてしまうのが常ですが、最終的にはあぁなるほど、と。
ノートが外部記憶であるという辺りは当然用いて、とまれどちらかと言うと本格ミステリ的使い方というよりサスペンス寄りの使い方をしている印象(余り書くとネタバレになるのでふわりと)。
主人公が頼りない(メメントのガイ・ピアースとは違う)ので殺人鬼と出会って戦うといっても心もとない。

記憶が保てないということは記憶を操る殺人鬼との相性はいい。
いいというかよすぎる。
なにせ過去の記憶を捏造しようとしても、その記憶は捏造されたものであることがわかってしまう。
わかってしまうから巻き込まれていくわけですが……。

いろいろ試行錯誤して殺人鬼を認識しようと悪戦苦闘。
なにせ目の前に殺人鬼がいてもわからない可能性も高い。

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2007年の短編集「忌憶」に収められた「奇憶」で暴行されるのがこの作品の主人公。
同書「キ憶(キは土に危)」では、今作と同じ田村ニ吉が主人公。

作品世界が繋がっているのでグロが好きな人は、短編集から読むのもあり(冷蔵庫の肉なんかはこっちのほうが)。
グロが少ないので今作を読むというのもいい。
トリッキーなミステリが好きな人なら楽しめそうな一作。

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*1:viaジョジョの奇妙な冒険