タワーレコードの栄枯盛衰を描くドキュメンタリー 映画「オール・シングス・マスト・パス」

"1960年に創業したタワーレコードは、かつて5大陸30カ国に200店舗を有する大手レコード店チェーンであった。 アメリカの小さな町のドラッグストアから始まり、LPレコード人気の煽りを受け、99年には10億ドルを売上げるほどに成長した。ついには音楽業界に大きな影響力をもたらす、世界的大企業へと発展した。



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栄枯盛衰

それじゃ昔話をしよう。1941年、まだ子供だったが、レコードを売り始めた。第二次世界大戦が始まる直前で、レコードは主に楽器店、たまに百貨店でも取り扱われていた。それ以外にレコードを買える場所はなかったんだ。傲慢といっても言い過ぎでない商売がまかり通っていた。楽器店は敷居が高いというか、正直、かなりつまらなかった。40年代、50年代、60年代と、クラッシックに特化した店はいくつかあったが、ポップスは全く相手にされていなかった。もう少し幅広いジャンルを取り扱う店もあったが、全ジャンルの作品を網羅する店はなかった。
タワーレコード創業者ラス・ソロモンが語る音楽シーンの過去・現在・未来 | VICE JAPAN

ジュークボックスで使わなくなったレコードを3ドルで仕入れ10ドルで売る。
父親が始めた中古レコード販売の仕事を継いだラス・ソロモンはその規模を徐々に拡大させていく。
服装も緩く、バイトが主体で店を運営する、家族的経営で規則に縛られない、ヒッピーの時代の機運に合った経営方針でタワーレコードは波にのる。

時代はラジオの時代。
国土の広いアメリカでスーパーマーケットのように品揃え豊富な大型店舗方式のレコード店がヒットしたのは当然かも知れない。

西海岸を中心に店舗を増やしていたタワーレコードに日本から二人の男がやってくる。
二人は日本でタワーレコードを出す計画をラス・ソロモンに持ちかける。

日本への出店も成功。
アメリカ本土だけではなく世界中に店舗展開を進める中、時代は変わりつつあった。

90年代後半から00年代前半、インターネットが一般に普及を始める。
音楽はタワーレコードではなくアマゾンやウォルマートで買う時代に。
そしてNapsterによる音楽共有、iTunesなど音楽のオンラインサービス、Youtube。

Youth Culture

今でも好きなエピソードがある。ある日、ベット・ミドラーが店に来て、彼女のレコードを「ヴォーカル」セクションから「ロック」のセク ションに移動させた。当時、私たちは気にもしてなかったけれど、それを見て、アーティストが、自らの作品がどう扱われるべきかという当事者意識を持っているんだ、と気づかされた。
 
(中略)
 
忘れられない話がある。マイケル・ジャクソンが買い物できるよう、早めに店を開けたんだ。彼はレコード・ショッピングが大好きで、ショップの動向を知りたがっていた。それから、マイケルが来店者の様子をこっそり覗くために、スタッフが、彼をバックルームに隠れさせたりもしていた。タワレコでは、おかしな出来事が山ほどあった。
タワーレコード創業者ラス・ソロモンが語る音楽シーンの過去・現在・未来 | VICE JAPAN

毎週タワーレコードで何十枚もレコードを買っていたエルトン・ジョンやブルース・スプリングスティーン、バイトをしていたデイヴ・グロール、タワーレコードで何十年も働いていた従業員らが次々と出演し、タワレコの思い出を語るドキュメンタリー。
皆、過去のことを語るときは一様に明るく楽しい思い出が続く。
ミュージシャンが自身の作品を見つけ喜び、若者はたむろし、タワレコで新しい情報を知る。
MTVで観たビデオの音源はタワーレコードに買いに行く。
タワーレコードが、ユースカルチャーを牽引した時代。

しかしタワーレコードは時代の波に乗り遅れる。
売り上げは伸び悩み、経営不振に陥り資金繰りに失敗。
アメリカの店舗は全て閉鎖。
今や世界各地のフランチャイズだけが残っている。

今はまだ音楽に対価を払う世代が多いからLineMusicやAppleMusicのようなサブスクリプション制(月額定額制)の音楽サービスが普及しつつあるけれど、これからYoutubeで聞いて育つ音楽に対価を払わない世代が成長した時、誰が音楽界を支えるんだろう、などと考えてしまった。

日本

以前は、新宿や池袋、渋谷のタワレコ試聴機を次々回って、何時間も過ごした。
新しいバンドのCDを見つけて毎月何枚もCDを買い込んだりもしてた。
自分が知らないバンド、新しい音、これまで聞いてこなかったジャンル。
そういうものもタワレコで見つけることができた。

タワーレコードの栄枯盛衰。
レコードに始まり、カセットテープやCDを経てオンラインに至る音楽媒体とその販売の道程。
身近な店舗だけに、とても面白かった。

映画の最後、創業者ラスが現代日本のタワーレコードを訪れる。
日本のタワレコは、ドコモとセブン&アイホールディングスが筆頭株主。
黄色と赤の看板は同じでも、中身は変わってしまってる。

いち早くタワーレコードが進出した日本で、アメリカでは消えたその看板が残ってる。
日本でだけは、海外展開も上手く行ったと言うんだから。
実に縁は異なもの。

私は何も後悔していない。ぼちぼちやっている。ただ、これだけは真実だ。音楽は無くならない。誰もが楽しめる娯楽だ。私たちの人生と文化にとって重要な要素であることに間違いはない。音楽に触れる方法は、これからも変わっていくだろうが、そこに音楽は響き続ける。もっと深く掘るべきだ。テイラー・スウィフトだけが全てではない。決してこれは意地悪ではないんだ。世の中には、もっと多くの音楽があって、誰も名前を知らないようなバンドが、聴いたこともないような音を出している可能性もある。それを流通させるのは困難だから、耳にする機会はほとんどないだろう。でもそこでは鳴り響いている。だから私は音楽を信じている。
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