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19,329人に増殖した吉田大輔の運命 第7回創元SF短編賞受賞作 石川宗生「吉田同名」

吉田同名 -Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作

吉田大輔氏は、一瞬にして19329人となった。
第7回創元SF短編賞受賞、稀代のスラップスティック思弁SF。

既刊「アステロイド・ツリーの彼方へ (年刊日本SF傑作選)」に収録された第7回創元SF短編賞受賞の短編を100円で切り売り。
こういう売り方も電子書籍ならでは。
毎回、この創元SFの短編を楽しみに読んでる。



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栗まんじゅう

ドラえもんが出すひみつ道具の中にバイバインがある。

瓶に入ったバイバインを一滴垂らすとモノが5分で2倍に増える。
いつものごとく欲望のまま、のび太は栗まんじゅうにバイバインをふりかけた。
当然のごとくバイバインにより栗まんじゅうは増殖。
想定外の使い方により増殖が止まらず、増え続ける栗まんじゅうをドラえもんは宇宙へと放逐。

かくてドラえもんでは宇宙が映るとそこに漂う無数の栗まんじゅうが映るのが定番になった……というのは有名な話。

吉田大輔

さて、この栗まんじゅうのごとく人間が二人や三人に増える話というのはそれほど珍しくはない。
近年だけでも映画「複製された男」や「嗤う分身」など思いつく。

しかしこの「吉田同名」では、ある日グレゴール・ザムザが巨大な虫になっていることに気づいたかのように……会社からの帰り道、ふと気づけば自分の周囲を、自分が埋め尽くしていることに気づく。

振り返れば全員振り返り、見上げれば全員が見上げる。
自分と同じ行動をとる自分。
その数、19,329……ほぼ2万人。

ちなみに日本武道館は収容員数14,471人、横浜アリーナで17,000人。

当然、街の一角は機能不全を起こす。
その全員が退去して一気に自宅へ帰ろうとするのだから混乱は必至。
部屋という部屋は吉田大輔で溢れかえり、当然ながら自宅に全員入りきれるわけもなく、一部では将棋倒しを起こし、あらゆる周辺の道路は吉田大輔で埋め尽くされる。
警察が出動し吉田らは、数百人単位で収容施設へと送られることになる。

これがもし宇宙人であれば銃を持った自衛隊が追いたて、戦いにでもなりかねないが、なにせ一般人。
ただの30代一般男性。
ただし2万人。
殺すわけにも行かず、しかし見ないふりで放置するわけにも行かない。
原因はわからず、元に戻す方法も分からず。ただある日突然日本の人口が2万人増え、しかしその2万人は隔離せざるをえない。

この「もし1人が突然2万人に増えたら」という不条理な一発アイデアに対し、ある程度のリアリティを持たせ、想像の翼を広げるのがSFの妙。
ファンタジーであれば一斉に武装蜂起でもして吉田国でも作りそうなものだが。
数時間で読み終えられる程度の短編の分量に詰め込まれた不条理と奇想。
SFというか安部公房のような不条理小説の読後感がある。

グレゴール・ザムザはりんごをぶつけられそのまま虫として死んでしまうが、2万人に増えた吉田が果たしてどんな運命を迎えるのか。
客観的な視点でレポート風に語られる語り口も面白く、どうなるか先が読めない。


なんとなく「これが火浦功ならオチは落語っぽかったろう」と変なことを想像してしまった。

吉田同名 -Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作
東京創元社 (2016-06-30)
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