読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

3つの時代の3つの関係と3つのジョブズ 映画「スティーブ・ジョブズ」

映画

スティーブ・ジョブズの映画は幾つかあるけれど、こちらはダニー・ボイル版。
とても面白かった。
ただ「誰にでも勧められるか?」というと話は変わる。

画面の作り込みはとても端正。
シーンの一つ一つにこだわりが見られる。
たとえばこの映画ではジョブズの3つの時代を描いているんだけれども、それぞれでフィルムを変えている。

脚本家、アーロン・ソーキンは映画『スティーブ・ジョブズ』を書き下ろすにあたって、このテックパイオニアの生涯を3つに分けた。1984年のApple Macintoshのローンチ、88年のNeXTcubeローンチ、そして98年のiMacローンチだ。

それぞれの時代の空気や肌触りを残すべく、監督であるダニー・ボイルは、3つの異なるフォーマットを使うことにした。16mm、35mm、そしてデジタルフォーマットだ。
映画「ジョブス」でダニー・ボイルが用いた「話法」|WIRED.jp

さらに3つに別けられたパートの冒頭に年代が表示されるが、そのフォントもそれぞれ変えられてる。
細かいところだが、文字の形でまで時代と変化を感じさせるし、そういうあたりまで気にして観ても面白いかもしれない。



【スポンサーリンク】



会話劇

この映画で非常に面白いのは、舞台を全てプレゼンの裏側に限定したところだろうか。

会社の運命を握るプレゼンが迫り、準備に慌ただしい中、ジョブズに会うために様々な人がやってくる。
そこで行われる会話とその関係性がこの映画のメイン。
まるで舞台の二人芝居。

ジョブズはコードも書けないが、プレゼンにかけてはピカ一。
舞台の上で自信に満ち、虚飾に彩られたカリスマジョブズ。

プレゼンの直前、まだ観客のいない舞台裏で人間性を問われる姿を描くのが、ジョブズを描く場所としてふさわしいのかも知れない。

表ではジョブズをカリスマと仰ぐマカーら*1が待ち構え、その裏ではジョブズを人間的には尊敬できないと思っている人々が話をする。
この舞台上の虚と舞台裏の実の対比。

最初、娘リサを認めないジョブズが徐々に父親としての自覚を持ち始める。
ジョブズの人間としての(父親としての)成長が、社会的な成功にも繋がっていくのも、ある程度現実に即しているとはいえ面白い。

3つの時代と3つの関係

84年、スカリーと同じ舞台に出るべく舞台袖で会話を交わす2人。

そして88年でスカリーは警備の目をかいくぐり、誰もいない部屋で待ち伏せている。
無数の椅子は全て積み上げられ、白い壁がむき出しの殺風景な空間で対峙する2人。
既にジョブズはアップルを解雇され、二人の関係はかつてのものではない。

最後、98年。
iMac発表の直前にスカリーは楽屋を訪れる。
93年にアップルのCEOを退いていたスカリーは、スーツ姿と違い格好はカジュアルに。
ブルゾンに柄のシャツにニット。

スカリーは、ジョブズの社会的側面を現すための会話を行う。
さらにジョブズの息子としての出自がわかる。
そしてウォズは当然、友情や人間関係を。
リサは父親としての側面を。

スカリー:社会、子として親に対して
ウォズ:友人、人間関係
リサ:親としての子に対して

3つの姿、そして3つの時代。
ジョブズという人間を構成する3つの側面が時代と境遇で大きく変化する。

マイケル・ファスベンダー

マイケル・ファスベンダーのスティーブ・ジョブズ役に違和感がないのが日本人だからかどうか定かではないけれども、そっくりに似せるために特殊メイクを使ったりする必要はなく、ジョブズ風であり、劇中でジョブズを演じていれば違和感を感じずに観れるというのもよく分かる。

特に若い頃から時代を追いジョブズの姿が変化していくので観客の方もお馴染みのハイネックにデニム、ニューバランスの格好になると「あぁ、おなじみの格好だなー、ヨガやってんなー」などとわかるように出来てるのも面白い。
もちろん実物が居るんだから、姿を似せるアプローチの映画が無駄とは言わない(映画「アルゴ」では実際の事件関係者に忠実に似せたりしているんだけれども、誰一人有名じゃない)。

この映画は既に前提としてジョブズに対してのある程度の知識を持っている人が対象であり、さらに言うならアップルとジョブズの歴史や流れも把握していれば「あの時代のあれか」と見当がつくが、そうでなければ特に説明もなく次々登場する人物に「そもそも誰だよこいつ」となってしまう不親切さは否めない。
とまれ、今や伝説のカリスマとして祭り上げられたジョブズの人間的にはどーしようもない、いわゆる意識が高く社会的云々を叫ぶことに執着してしまうと身近な人間関係がおろそかになり、コミュニケーションの取り方が下手になるということがよく分かる。

もうジョブズの映画化なんて、2002年に「シリコンバレーを駆け抜けろ」でノア・ワイリーが演じて以来、何度も行われてきた。
だからこそアーロン・ソーキンは「皆さんご存知ジョブズ」として人生の一部分だけを描き、そこに脚色をくわえて密度を高めたんだろう。
意識が高いアーティストとしてのジョブズは素晴らしいかもしれないが、人間としては褒められたものじゃない。
とはいえ成長しつつある人間としての姿。

あくまで人間としてのジョブズの影を描こうとした映画であって、iMacなどマシンやOSの開発舞台裏を描いているわけじゃないので、そういうものを求める人は観ないほうがいい。

さすがダニー・ボイル。
さすがアーロン・ソーキン。
とても面白かったが、観る前に伝記を読んだほうがいいかもしれない。

スティーブ・ジョブズ (字幕版)
(2016-05-23)
売り上げランキング: 170

*1:アップルのファン、ジョブズの熱狂的崇拝者