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反米と復讐の物語 映画「グエムル 漢江の怪物」

ソウルの中心を南北に分けて流れる雄大な河、漢江(ハンガン)。休日を、河岸でくつろいで過ごす人々が集まっていたある日、突然正体不明の巨大怪物<グエムル>が現れた!河川敷の売店で店番をしていたカンドゥの目の前で、次々と人が襲われていく。気付いた時には遅かった!カンドゥの愛娘、中学生のヒョンソがグエムルにさらわれたのだ!さらに、カンドゥの父ヒボン、弟ナミル、妹ナムジュのパク一家4人は、グエムルが保有するウィルスに感染していると疑われ政府に隔離されてしまう。しかし、カンドゥは携帯電話にヒョンソからの着信を受け、家族と共に病院を脱出、漢江へと向かう。果たして彼らはヒョンソを救えるのか?そしてグエムルを倒すことはできるのか!?

シンゴジラが好評な昨今、ポン・ジュノの「グエムル」を久々に観直してみた。



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暗喩

「ゴジラ」には暗喩として核実験や核兵器、戦争が織り込まれているように、「シンゴジラ」にはその暗喩として震災と原発がある。
そしてこのグエムルには、政府に対してのアンチテーゼが暗喩として機能している怪獣(ポリティカルブラックコメディ)映画なんだけれども、そういった政治的な視点を考えなければ「低予算で怪獣映画を作ったようにしか見えない」「あれだけ薬剤をまいて怪獣一匹なんて考えられない」などというズレた感想にならざるをえない。

グエムルの怪物は、アメリカの在韓研究所から廃棄された廃棄物の影響で生み出されることが冒頭示される。

――この映画での、国の無関心ぶりは現在の韓国という国を象徴させているのですか?

「今回は私が社会学的な立場で韓国を分析して、この映画で表現したというよりも、私が今まで育ってきた中で、『韓国という国はどんな国なんだろう?』という疑問、問いかけを出しています。私は国家や国家が作り出すシステムに対して、いつも疑問や不満をもっているんです。というのも、彼らの作ったシステムで国民は幸せになったとは思えませんから」
グエムル 漢江の怪物 インタビュー: ポン・ジュノ監督インタビュー(2) (2) - 映画.com

この映画でポン・ジュノは家族を描きたかったと語っているし、家族で戦えるサイズの怪獣でなければならない。
ゴジラが数十メートル必要なのはビルをなぎ倒し、破壊を尽くし、日本政府を相手に戦う核兵器の破壊力の象徴としての存在だからこそあのサイズが必要なのであって、このグエムルの怪物が数メートル(尾も含めれば十数メートル)なのは一人の少女を連れ去り、その家族が立ち向かうためのサイズとして適当。
そうでなければひとつの、バラバラの家族がお手製の武器で立ち向かうことが出来ない。

怪獣だから大きくなければならないのだ、という思い込みは実にバカバカしい。
サイズにも意味はある。
 
 

米国

この映画で米国のやっていることだけを考えれば、

・漢江に薬剤を捨てる(実際にあった事件をベースにしている)
・薬剤の影響で怪物が生まれる
・無いはずのウイルスをあると主張し、薬剤を散布しようとする

韓国の警察も軍も唯々諾々、アメリカの言うがまま。

この事件は、アメリカの歪みが生み出した怪物によって引き起こされている。
終盤、テレビが写り込みそこで行われている公聴会での「無いはずのウイルスを米国がまるであるかのように主張している」のは、まんまイラク戦争の大量破壊兵器の一件をなぞってるようにも見える。
何か理由をつけて他国に干渉するお馴染みのやり方。


監督は特に反米的なメッセージはなく家族がテーマだと言っているが、だとすればその家族とは韓国の民族や一般市民、民衆を家族としているのかもしれない。
アメリカがもたらした歪みによって生み出された怪物が猛威を振るい、それに一般市民が立ち向かう。
大きな枠で見ればアメリカが撒く薬剤は枯れ葉剤のようにも見えるし、デモに対してそれを撒き、吸って死ぬデモの若者らの姿にも意味が込められてる。

復讐

小さな枠で見れば、これは子供を奪われた家族と犯罪者への復讐の物語でもある。

怪物は破壊するのではなく、どこかの犯罪者のように人間を集め、自分の巣にコレクションする。
映画「コレクター」の犯人は生きた娘を拘束していたけれど、この怪物の場合は死体でもいいらしく、たまに食う。
そして犯罪被害者家族は一致団結して犯人に立ち向かう。

時折、シュールな映像やコメディタッチのパートが挟まるのもポン・ジュノっぽい。
ただ政治的な左っぽい暗喩を前提として観ないとわかりづらい。
だから韓国などでは大ヒットし、日本ではウケなかったんだろう。

後に撮られた映画「スノーピアサー」などを観ていてもやはり階級闘争というか左っぽい影がチラホラするんだけれど……監督本人は否定しているので、まぁ、気のせいかもしれない。

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