江戸川乱歩賞受賞 家族全員シリアルキラーのミステリ「QJKJQ」

QJKJQ

市野亜李亜(いちのありあ)は十七歳の女子高生。猟奇殺人鬼の一家で育ち、彼女自身もスタッグナイフで人を刺し殺す。猟奇殺人の秘密を共有しながら一家はひっそりと暮らしていたが、ある日、亜李亜は部屋で惨殺された兄を発見する。その直後、母の姿も消える。亜李亜は残った父に疑いの目を向けるが、一家には更なる秘密があった。

第62回江戸川乱歩賞受賞作品。
電子書籍版には審査員選評が入っていないので受賞作として読むには、少々物足りない印象があるので、もし読むのであれば是非ハードカバーで読んでいただきたいが(装丁もかなりよくできている)。
各人の選評がなかなか面白い。
3人ほどは絶賛、あとは……と言った印象。

なので、かなりのクセ球。
ひとを選ぶかもしれない。
以下、ネタバレなしで。



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江戸川乱歩賞

【新文化】 - 第62回「江戸川乱歩賞」、佐藤究(きわむ)氏に

「家族全員がシリアルキラー」というかなりぶっ飛んだ設定。

これがもしメフィスト賞なら“ミステリー界の極北は安定してるな”と思える。
あの賞は、森博嗣や舞城王太郎や西尾維新などそうそうたるメンツが通過し、探偵ナイトスクープのネタをミステリに転化した短編すら含まれるバカミス蘇部健一「六枚のトンカツ」までも受賞するような賞なので。

けれど、今作は江戸川乱歩賞を受賞してるんだから面白い。
江戸川乱歩賞は、過去に藤原伊織や池井戸潤、福井晴敏が受賞してる。

作者の佐藤究氏は、過去に佐藤憲胤名義の「サージウスの死神」で群像新人文学賞優秀作に入選した過去もある。

サージウスの死神
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アマゾンでプレミア付いてるな……。

シリアルキラー・ファミリー

ダイニングテーブルでみんな朝食をとっている。うちでは誰も肉を食べない。
ベジタリアンとは少しちがう。健康のためじゃなく、血に満たされているせいだ。
だから血の滴るステーキに魅力を感じない。
それでも、わたしのいる食卓の眺めは、西東京市でいちばん危ない光景なんだ。野菜やシーフードしか食べていなくても、庭先に放し飼いで肉をかじっているライオンみたいなものだよ。
I キルハウス

語り手である娘は鹿の角から削りだしたナイフを使い、男の胸を刺し殺す。
母親は極太の鉄製シャフトを振り後頭部を殴打、若い男性を殺害。
兄は鋼鉄製の牙で若い娘の喉を食いちぎり心臓を取り出す。
そして父は獲物を拷問にかけじわじわ殺す。
一家全員がシリアルキラーという家庭が、西武新宿線沿線にある。

あるとき、事件が起きそんな一家の日常が崩れる。


兄が惨殺され、母親が消える。
父親は黙して語らず。
狩る側の家族が狩られる側になる。

事件は混迷の度を増し、家族は崩壊し、娘は己の存在と向き合うことになる。

賛否

かなり露骨なので、読者の多くは途中でおおまかな仕掛けに気づいてしまうと思う。

ネットの感想を幾つか見てみたが、某ミステリ名作の名前を挙げている人が多かった。
そう思わせる箇所があるので作者自身も意識してるのは間違いないところ。
「有名なアレ」がどこにあるか、ということを虚実に関するレッドヘリングとして機能させようとしているのは面白い。
が、読者にはあまり機能していないのかもしれない。

なので先の予定調和がどのように収斂していくのかという巧みな仕掛けの構造を楽しむのがいいかもしれない。
その仕掛けや複雑な構造が一気に最後の真相へとキレイに繋がっていくのはなかなかのもの。

大まかな構造がわかったところで、幾つも仕組まれたトリックは全て見抜けない。

舞城王太郎や西尾維新は、デビューがミステリ寄りのメフィスト賞でも、後に他の小説へシフトしていったけれど、この佐藤究氏(佐藤憲胤)もミステリ以外のジャンルへとシフトしていくような印象がある。
もっと踏み込んだメタミステリなどを書いて欲しいところだが(最近、そういう作家が少ない)。

選評では賛否別れていたが、面白く読めた。
ミステリ読みなら充分楽しめる。

ただ少々残念なのはトンデモない展開や“ミステリ”の向こう側へ突き抜けられそうな素材を扱いつつも、そこまで辿りつかない常識的な範囲内で着地した辺りの大人しさかもしれない。

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