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文章力を磨く基礎訓練 池上彰x竹内政明「書く力」

読書 ブログ

書く力 私たちはこうして文章を磨いた (朝日新書)

一般の方は、とにかく「理想」を目指して、「理想的な文章」以外はダメだと切り捨ててしまいがちだと思うんです。
でも、そんなことをして、自分にダメ出しばかりしていたら一文も書けなくなってしまう。「恥ずかしい文章を書きたくない」と向上心を持つことは大いにけっこうなことだと思います。いつも「いやあ、我ながらすごい文章が書けた」と満足ばかりしていたら、それは進歩しません。とはいえ古典になるような名文と比べて、「自分の文章はダメだ」とくよくよ悩んでいるのは意味がありません。
そういう意味で、「ベタに書くことを恐れない」、つまり「工夫せずにそのまま書くことを恐れない」というのも、文章を書くにあたって、すごく大事な感覚だと思うんです。

選挙特番の無双っぷりでお馴染み解説おじさん、ジャーナリスト池上彰と読売新聞の編集手帳を書き続けている竹内政明という書くことに関して卓越した両者が「文章を書くこと」に関してお互いの手の内を探り、さらけ出させた対談本。

わかりやすいノウハウが箇条書きになった、いわゆる文章力本とは一線を画している。



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文章の筋肉

たとえば好きな言い回しに関して

うまい下手は別として、とにかく文章を書いていると、「自分が好きな言葉」とか「好きな表現」「好きな言い回し」というのが出てきますよね。特に意識しているわけではないのに、つい使ってしまう言葉がある。
でも、この「好きな言葉」や「好きな表現」というのは、本当はあまり「使ってはいけない言葉」だと思います。

竹内氏の話は続き、棋士の大山康晴十五世名人というひとに得意な手を聞いたところ「プロに得意な手なんてありません。得意な手があるならアマチュアです」と答えたという逸話を聞いて首肯したのだという。

「使いやすい言い回し」は、それなりに文章を書いていればその人ごとに存在している。
「言い回しを個性にしましょう」などという文章術の教えもみたことがあるので、それをバカ正直に信奉しているひともいるのだろうが、自分のようなたかがアマチュアのブログ書きですら、そういった「楽で簡単な言葉に逃げる」場面は多い。

楽な言い回しに逃げないのは難しいが、その分、書きかたや表現が広がる。

池上 筋肉をつけたり、体力をつけたりするときに、負荷をかけてトレーニングすることがありますよね。筋肉を鍛えるためには、筋肉を痛めつけて、筋肉を傷つける。その筋肉が回復するときに、より強い新たな筋肉がついてくる。
つまり、ラクな運動をしている限りは、いつまでたっても筋肉はつかないんです。
(中略)
苦しいかもしれないけど、「よりよい表現はないか」頭を絞ったり、工夫したりしているうちに、少しづつ進歩していくものなんですよね

文章の肥やし

類語辞典を読んでさまざまな表現を調べてみる。
使いたくない言葉を類語辞典で探すと、いろんな対案が書かれている。
そういう中から自分にしっくり来る言葉、表現を探す、なんてことがサラリと書かれてあったり。

文章を多く読み、自分の気にいる文章を見つけるといいとも書かれている。
自分がその文章をなぜいいと思ったのか、どこがいいと思ったのかを分析してみる。
そういった分析が文章力の肥やしになるのだという。

落語が役に立つというのも納得できる。
間のとり方、まくら(導入部分)、言い回し。
単なる軽妙な話し言葉を、話芸の域まで高めた落語が役に立たないわけがない。

このように対談の中でお互いの文書に対するこだわりや考え、あるいはノウハウや経験などを垣間見せてはいるが、別段わかりやすく太字になっているわけでもなければ別項に書き出してもない。
この二人の対談を読みつつ、合間合間にちらりと見える二人の技術や思考法を読み解くのがこの本の正しい読み方になるのだろう。
 
 

硬派と軟派

インターネットやSNS、ブログを読んでみると、ほとんどが話し言葉で書かれている。
そこに対して疑問がない。

たとえば「です・ます」「だ・である」について、この本には、こんなことが書いてある。

池上 硬派な文章と軟派な文章のどちらが好きかといえば、私は軟派が好きなんです。軟派な文章には遊びを入れることができますからね。だから、普段は「です・ます」で書いています。なんとなく「だ・である」で書き始めても、ふと気がつくと「です・ます」になっていて、「ああ、いけね」と書き直したりすることが多いんです。

それなりに文章を書く人なら誰しもが思うところ。
書いているとき「あれ?これはどっちだっけ?」と読み返し、文末だけ変えるのも「文章あるある」。

「です・ます」であれば途中の表現も「できる」ではなく「できます」であったり、「してみる」ではなく「してみます」だったりして、これらを一切統一するのもなかなか難しいところ。
このブログでは、記事のトーンによってそれなりの書き分けをしているつもりだが……果たして機能しているだろうか。

もし考えたことがないひとがいるなら、是非自分の文章を読み返して「です・ます」なのか「だ・である」なのか確認してみるのも面白いかもしれない。
もし自然に「です・ます」で書いているなら、あえて書きなれない「だ・である」で統一してみる。
そういった負荷が文章の筋肉になるだろうから。
 
 

文章力

この本を読んで書くことがうまくなるかどうかはわからない。
が、少なくとも文章を書くことの面白みや難しさを実感はできるだろう。

単にブログで「注目されたい」「バズりたい」「稼ぎたい」人は読む必要はない。
そういったひとはネットに転がっているどこかの素人ブログが書いている「バズるための文章術」でも参考にすればいい。
「自己紹介から始めましょう」「記事には写真を多く入れましょう」などなど誰にもでわかるノウハウが羅列してある。
画一的な「人気ブログ」の仲間入りができること請け合い。
きっと「いいね!」「シェアします!」はいっぱいもらえる。


エピソードなどエッセイ、解説文、書評。
この本は、それなりの長さを持つ「文章」を書くときに役立つ気付きが多く含まれている。
何度も読み返し、その手練手管を吸収できれば文章も多少向上するかもしれない。

あとがきで竹内氏が

対談を終えたいま、池上さんのポケットからいくつかの秘密を探り当てた幸福感に浸っている。
それは確かにそうなのだが、一抹の憾みもないわけではない。気がつけば、「まさぐる」よりも「まさぐられる」ことに時間を費やしてしまった。
対談は口の格闘技である。なごやかに語り合っても、おのずと勝敗はつく。池上さんの口車……もとい、巧みな話術に乗せられて、気分よくしゃべっているうちに、ただでさえ中身の乏しい当方のポケットは裏地まの袋まで引っ張り出されてしまった。

と書いているが、この二人の、一流の言葉の格闘を読むことで、最も得をするのは読者だろう。

読んでいてこれほど気づきが多い本もなかなかない。
文章を書くことに関し、何かしらの疑問や考えがあるなら、一読の価値は間違いなくある。

書く力 私たちはこうして文章を磨いた (朝日新書)
池上彰 竹内政明
朝日新聞出版
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