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「舞城王太郎が好き」という憂鬱

anond.hatelabo.jp

僕は村上春樹が好きだ。

町田康とか舞城王太郎とか池澤夏樹とか、他にもいろいろな作家が好きだけど、一番好きな作家を選べと言われたらやっぱり村上春樹だ。
マスメディアで騒がれると当然、全く興味のない人の目にも付く。

そこで、職場でも今日たまたま『騎士団長殺し』の話題になった。
(中略)
とりあえず一言

僕「ハルキストほどじゃないですけど自分は春樹好きです」

Aさん「ほー・・・」

見事にスルーされた。それ以上なにか聞かれたりはしなかった。

おそらく「村上春樹に興味がない人」にとって、「村上春樹が好きな人」は得体が知れない人物だと思っているのではないか。

転職したばかりでただでさえ上手く馴染めていない職場の人たちとの断絶が深まった気がした

僕ももっとうまい言い方があっただろう。

村上春樹の名前を挙げることが微妙なのは、その知名度に比して、案外と読まれていないことが多いところで、それは吉本ばななでも、カズオ・イシグロでも同じ。
本は(特にフィクションは)読む人は読むが、読まない人はなかなか読まない。
文学は、文学というそれだけで、敷居が高くなる。
好きでも嫌いでも、好き嫌いを言えるほどに読んでいる人なら、そこに断絶はないのだが。

これが連ドラやアニメになっていたりすれば、作品個別の理解も深まるだろうが、過去の映像化を振り返っても、松山ケンイチ主演の「ノルウェイの森」やイッセー尾形が出演した「トニー滝谷」を観ている人の方が原作を読んでいる人より少ないだろう。
……インテリゲンチャ*1な高畑勲がアニメ化していれば。

なのでこういった感覚も「わかる」が、相手を問わずそれなりに通じる村上春樹はまだいい。

マシだ、舞城と比べれば。



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舞城王太郎大好き男

それに比べて、舞城王太郎。

ましてや貴女が、「舞城王太郎作品が大好き♪ わたし、もうほとんど読破しちゃった♪」
と答えたならば、どうでしょう?
これはかなり博打な答え方で、なるほど、舞城王太郎はメフィスト賞を受賞してデビューし、ミステリから文学へと手を伸ばしている。、
両ジャンルの作風は似ていながら違い、違っていながらどこか通じ合っている、
そんな舞城の魅力は喩えようもなく、
しかもバット男にせよ、熊の居場所にせよ、
(平凡に思える短編でありながら、いずれもその読後感は)圧倒的な異端ゆえ、
あなたがそう答えた瞬間、文学大好き男がいきなり超笑顔になって、
鼻の下がだら~んと伸びちゃう可能性もあるにはありますが、
しかし、逆に、(なんだよ、この女、ヴィレバン常連のサブカルかよ)とおもわれて、
どん引きされる可能性もまた大です、
なぜって、必ずしも文学大好き男がサブカル大好き女を好きになるとは、
限らないですから。
※以上、ジュリアススージー「インド料理大好き男に「どこの店が好き?」と訊ねられたとき、女はどう答えたらいいの?」の一部を改変

舞城王太郎の憂鬱

舞城王太郎はかなりのあだ花。
すっかりアニメ、マンガ原作方面に舵を切った西尾維新とは異なり、ミステリクラスタからすれば「あれをミステリに入れるな」と言われ、文学クラスタからすれば「“っぽい”だけで中身がない」「村上春樹の焼き直し」などと言われてしまう。
アニメ「龍の歯医者」やマンガ「バイオ―グ・トリニティ」の原作をしつつ、芥川賞候補として、何度も、何度も、挙げられる舞城王太郎。
しかし、その選評たるや、

石原慎太郎 男71歳
「多くの作品の中の会話がことさら現代的に幼稚化されているが、それが決して作品にアクチュアルな性格を付与してはいない。」「題名そのものまでが『好き好き大好き超愛してる。』にいたっては、うんざりである。」

第131回芥川賞候補作「好き好き大好き超愛してる。」選評

石原慎太郎 男77歳
「だらだら長いだけで、小説として本質何をいいたいのかわからない。」「終盤の普通活字の四倍の大きさで書きこまれたカタカナの無意味さは作者の言葉の未熟さを露呈させているだけだ。」

第142回芥川賞候補作「ビッチマグネット」選評

「わざわざ候補として挙げておいて、酷評して落とす」という忍術飯綱落し*2のようなことを何度もされた舞城王太郎は、言ってみれば文学界の権威から「ダメ」だと言われた異端の作家。
元のミステリ界には戻れず(最初から戻る気もないだろうが)、文学賞にも手が届きそうで届かない。
誰だ!あの慎太郎に舞城読ませようなんて考えるアホは?!

2012年、第148回芥川賞の候補になった短編「美味しいシャワーヘッド」に至っては、

宮本輝 男65歳
「これまでの舞城さんの作品と比してシンプルになっているが、毒気も抜けてしまった。既作から一歩も前進していない。」「何を書きたいのか、何を書こうとしているのか、ご自分でもわからなくなっているのではないだろうか。」
舞城王太郎-芥川賞候補作家|芥川賞のすべて・のようなもの

とも、言われている。
慎太郎がいた頃は徹底してダメ出しされ、いなくなっても芥川賞に、手が届かない。

そんな舞城王太郎を「好き」と胸を張って言えても、そのリアクションはまず

1.通じない(そもそも知らない)
2.名前は知ってるが読んでない
3.文体が合わない(ダラダラ長い)
4.嫌い(生理的に)
5.お前サブカルかよ(けっ)

この5種類の回答で、円グラフの大半が、ぐるっと埋まる。
同好の士と巡り会う機会は、物理世界ではとても希少。


圧力と、疾走感を感じさせ、ひたすら言語空間をメタボリックに増幅し続ける文体と、思考をエンコードすることなくそのまま吐き出したような抽象的な作品世界。
読み終わって「面白かった―」「よくわからなかった―」では足りずに、「○○は××の暗喩でありこれは文学においての……」などという書評がふさわしい、めんどくささ。
暗喩に満ちているが故に、それを読み解かなければ、「読んだ」とカウントされないような感覚。
この記事にしろ、同じ文学でも、村上春樹なら「学び」カテゴリーで許されても、舞城となると「エンタメ」「アニメ」カテゴリでなければ、今ひとつしっくりこない。
「舞城を好き」というだけで、勝手にサブカルにカテゴライズされかねない、ほんのりキラキラネーム感のある名前の威力とイメージ。
だから、一読の価値はあると感じても、人に勧めるか?と問われれば、躊躇する。
乙一や、桜井亜美と一緒に、短編映画も監督したのに、あまり知られてない。
村上春樹の影を踏み、踊り、歩く。
そんな舞城王太郎。

「村上春樹」の名前を出したら微妙な空気が流れた?
もし「舞城王太郎」の名前を出したら、それ以前の空気になっただろう。

それでも勧める舞城王太郎リスト

ここまで読んで、それでも舞城を読もうかと思った奇特な紳士淑女、あるいはここまで言われるなら逆に興味がわいたという自虐趣味の紳士淑女。
そんなみなさまに、メフィスト賞を受賞し、書店に並んだ時から読んでいる*3私めが、いくつかオススメを。

スクールアタック・シンドローム(新潮文庫)

スクールアタック・シンドローム(新潮文庫)

いきなり長編では、敷居が高い。
なので比較的読みやすい短編集「スクールアタックシンドローム」だろうか。
特に「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」は是非お読みいただきたい。
★★★★

好き好き大好き超愛してる。 (講談社文庫)

好き好き大好き超愛してる。 (講談社文庫)

愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。それぞれの願いを叶えてほしい。温かい場所で、あるいは涼しい場所で、とにかく心地よい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい

やはり舞城の傑作と言えば、まずは、芥川賞の候補に挙げられながらも石原慎太郎に「うんざり」と酷評された「好き好き大好き超愛してる。」だろう。
大ヒットした「世界の中心で愛を叫ぶ」のアンチテーゼとして書かれた今作では、作中作の手法を用い「愛するひとの死」が繰り返される。うんざりされたタイトルもセカチューへのカリカチュアライズしたディスだと捉えれば。
★★★★★

ディスコ探偵水曜日(上)(新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日(上)(新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日(下)(新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日(下)(新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日(中)(新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日(中)(新潮文庫)

そして「まどかマギカ」よりも前に書かれた「ディスコ探偵水曜日」は、世界を相手に踊り狂う私立探偵ディスコ・ウェンズデイの物語。
とてつもない傑作だが、この情報量が読み手を阻む(当時、ソフトカバーで読んだがそれでも上下巻)。
★★★★★

煙か土か食い物 (講談社文庫)

煙か土か食い物 (講談社文庫)

そしてデビュー作であり、「奈津川家サーガ」の一作目となる「煙か土か食い物」は外せない定番になる。
この作品が、ミステリの賞に候補として応募され、受賞したのは、それが「ミステリ番外地」と言われるメフィスト賞だったからなのも理解できる。
いきなりのアンチミステリであり、勢いのある作風は今に続く舞城の文書スタイル。
ここまで読めば「舞城王太郎が好きだ!」と胸を張って言えるし、微妙な空気にさせることもできるだろう。
★★★★

先日、舞城がアニメ原作を担当した「龍の歯医者」も、より深く楽しめるはず。

前編・天狗虫編

前編・天狗虫編

舞城王太郎、デビューからずっと好きで読んでるんですよー(恥
……。
あ、いや、サブカルですが何か?

お粗末。

*1:via押井守

*2:白土三平「カムイ伝」

*3:当時は、講談社ノベルスから出るミステリを毎月買っていた