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映画「将軍様、あなたのために映画を撮ります」

1978年、韓国人女優崔銀姫(チェ・ウニ)と、著名な映画監督である申相玉(シン・サンオク)が北朝鮮に拉致された事件を追ったドキュメンタリー映画。亡命から30年の時を経た今、ベールに包まれた国家の内幕が明かされる。




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拉致の経緯

韓国の女優 チェ・ウニ(崔銀姫)と映画監督シン・サンオク(申相玉)。
ヒット作を飛ばした二人はやがて結婚。
二人の養子と平和な家庭を築いていた。
しかし強権的なやり方をしていたシン・サンオクは、韓国政府に映画を撮る権利をはく奪される。韓国で映画を撮れなくなり、借金が増えていく一方。
さらには若手女優と浮気。
二人は、離婚する。

そんなある日、チェ・ウニが北朝鮮に拉致される。
船で連れ去られ、注射を打たれ気づけば北朝鮮。
そして元妻を探すシン・サンオクも同じく拉致されることに。
そこから五年間、監禁されるシン・サンオク。何度も脱走を試みるが失敗。
金正日に忠誠を誓うよう洗脳の日々が続く。

北朝鮮にエンタメを

金正日は、チェ・ウニとシン・サンオク二人に映画を撮るよう依頼。
そしてシンは映画スタジオを作り、北朝鮮で映画の撮影を開始する。
3年間で17本。
北朝鮮初のラブストーリー映画や、怪獣映画「プルガサリ」も撮影。
しかし国際映画祭の場に姿を現した二人は密かに脱北の計画を立てる。

録音

この映画は、妻チェ・ウニを中心に(シン・サンオクは2006年没)関係者の証言とチェらが密かに録音した金正日との会話を録音したテープで構成されてる。
北朝鮮の映画というと怪獣映画プルガサリを連想するが、アレを監督したのがこのシン・サンオクなのだそうで。
あの怪獣映画の裏にこんな話があったとは……まさに数奇な運命。

当時、金正日は北朝鮮には父の総書記(金日成)を賛辞するような作品ばかりで(エンタメとして)まともな映画がないと嘆いていたらしく、そこで二人を連れてくるように(拉致して来いとは言っていない、とのことだが)言ったのだという。
そりゃあ海外と映画の質を比べればまだまだだったでしょうから、シン監督の存在は映画好きエンタメ青年だった金正日からすれば、貴重なオモチャだったのは間違いない。

幸せの行方

脱北し、韓国に戻った後も韓国では裏切り者と思われていたらしいが、たしかに韓国では落ち目になり映画も撮れず借金を抱えた映画監督が、北朝鮮では自由に撮影できる環境を与えられ(しかも金正日は内容に口出ししない)資金を気にすることなく自分の好きな映画を撮影できるようになった、となれば拉致ではなく自主的に言ったのではないか?と疑われてしまうのも不思議ではないだろう。

おまけに当時の韓国は軍事政権。
北朝鮮で金正日の下で映画を撮ったなんて国家に対する反逆だ!と言うでしょう。だからこの映画が、韓国人ではなくイギリス人監督の手で撮られたというのも理解できる。

ドキュメンタリーで、崔銀姫氏はこの録音テープに対して「後で韓国に戻ることになれば誰も私たちの話を信じないだろうし証拠が必要だという申監督の言葉を聞いて、カバンの中に録音機を入れてこっそり録音した内容」と明らかにした。Robert Cannan、Ross Adamの両監督は「かなり前にこの信じがたい事件について聞いた時から映画としてつくりたかった。取材をしながらまだ多くの真実が隠されているという事実に驚いた」と話した。

2人は「崔銀姫氏と家族を説得するのに2年かかった」とし「まだすべてのことが嘘だと考える人々がいる以上、できうる限り偏見を持たずに正しく真実を話すと説得して家族の心を動かした」と付け加えた。両監督は取材のために北朝鮮と米CIAにも連絡を取ったが返事を拒否されたと明らかにした。
米国映画祭ヘ行った話題のドキュメンタリー…「申相玉・崔銀姫の拉致を指示」金正日の肉声にショック | Joongang Ilbo | 中央日報

この映画の最大のポイントは、やはり金正日の肉声入り録音テープ。
当時、金正日の肉声を聞ける機会はまずなく、作中に登場するCIA職員もこのテープで初めて聞いたと語る。
録音ができるほど心を許されていたということだろうし、そのくらい金正日は映画に心酔していたということでもあるのかもしれない。
作中でもシン監督に予算を気にせず映画を撮るよう指示する電話の声も残されてる。

果たしてこのドキュメンタリーがどこまで真実を描いているのか、もしくはこれもまたフィクションなのか、どこまでが真実なのかは当事者にしかわからないが、作中で描かれる拉致や監禁・拷問が行われたのは事実として変らないだろう。
初めて北朝鮮の拉致を知った時は意味がわからなかったが、こうやって拉致の実情がつまびらかになると、権力構造の歪さから国まるごとカルトと化したからこそ倫理も無視し、独善的な行為も行なってしまえるのだろうと理解もできる。


ただ脱北した後、結局シン監督は韓国ではなくアメリカに住み、そこでB級映画のクロオビキッズ三部作(日本ではビデオスルー)を撮っただけで死去した、と聞くと、果たして映画監督としての幸せはどこにあったんだろうか、とも思ってしまった。


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