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官能と耽美と倒錯のミステリ 韓国映画「お嬢さん」


暗くなれば多国籍な人種で溢れる歌舞伎町も、平日の朝は閑散としている。
元新宿コマの跡地に立つTOHOシネマ新宿は、屋上からゴジラが新宿を見下ろしてる。
エスカレーターで上がり自動券売機でチケットを購入。
ジャズミュージシャンであり小説家 菊地秀行の弟君でもある菊地成孔曰く

地球人は子供騙しの『ラ・ラ・ランド』(菊地成孔の『ラ・ラ・ランド』評:世界中を敵に回す覚悟で平然と言うが、こんなもん全然大したことないね)なんか観て胸をキュンキュンさせてる暇があったら、絶対にこれを観ないといけない。
菊地成孔の『お嬢さん』評:エログロと歌舞伎による、恐ろしいほどのエレガンスと緻密 | Real Sound|リアルサウンド 映画部

とまで言っているので、上映終了ギリギリに飛び込みで観にきた次第。

平日、朝9:30初回の館内は二割程度の客。
ほとんどが男性で、ほとんどが高齢者。
過激な内容のため18禁になっただけに「パク・チャヌクの映画」を観にきたというより、ソフトポルノでも観にきたような感じなのかもしれない。新宿国際劇場がなくなってコッチに流れてきたのか。

「地球人なら観るべき」というより「ラ・ラ・ランド」が女子に人気の行列パンケーキならこちらは好事家にウケる裏町の小さな洋食屋のジビエ料理であって、比較は厳しい。



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雨。
傘もささず歩く軍人の列を追う子供ら。
韓国語の歌を歌う子供らを、日本語で追い払う軍人。
1933年、日本統治下の朝鮮半島。

主人公の少女 スッキ(キム・テリ)は犯罪組織に育てられた孤児。
あるとき詐欺師(ハ・ジョンウ)の手伝いのため、日本人のお嬢さま(キム・ミニ)の侍女として屋敷に忍び込むことになる。

計画はいたってシンプル。
詐欺師が、日本人の貴族のふりをしてお嬢さまをたぶらかし、館の主人である叔父 上月(チェ・ジヌン)の目を盗み駆け落ちする。
そのアシストをするのが、スッキの役目。
しかしお嬢さまと過ごすうち、スッキは純粋なお嬢さまに惹かれていき……。

荊の城

原作は、サラ・ウォーターズ「荊の城」
「2005年度このミステリーがすごい!」で1位になった海外ミステリの名作。

日帝時代の韓国。
日英折衷の館を舞台に、韓国人俳優が韓国語と日本語がチャンポンでセリフを話し、原作は英国ミステリという日韓英文化のカオスなミックスぶり。館に潜む深い闇は、耽美でフェティッシュで倒錯的なデカダンスの香り。
旧弊的な掟に縛られる異形の館とその住人、そこで繰り広げられるエロティックで怪しい駆け引き。

非常に絵画的な映画でもあって、狂い咲く桜の木で首をくくる女性や、英国風でもあり和風でもある庭や、モンドリアンを思わせる幾何学に組み合わせられた畳敷きの部屋。
タイトルにもなっているキム・ミニ演じるお嬢さんも非常に絵画的(春画)な存在として切り取られる。

これはたしかに観ておいてよかった。
新宿での上映は終わってしまったので残念ですが、まだやっている映画館はあるのでそちらで是非。
劇場は、おっさんだらけかもしれないが。

以下は、ネタバレ有りで。

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異文化

あえて韓国人俳優が日本語で演技をするというチャンポンや、なんちゃって日本の表現。

この辺り、日本人俳優を使ったりすることもできたし、もっとリアルな日本的表現をすることもできたろうにあえてなんちゃって日本にこだわったのもパク・チャヌクの狙いなのかもしれない。
エロ本をお嬢さんが読み上げて、競売に掛ける前、木人を下ろしてそれとお嬢さんが組み合って宙吊りになるなんて、突然すぎて耽美というよりもはやコメディの域。

だからアレは日本人でもなければ日本文化の再現でもなく「韓国人目線による日本文化」という表現なのかも、と思ったり。
いまどき日本を忠実に再現することは難しくないのに、あえてあの少しずれた感じを出す辺りが、日本人的にはモゾモゾするが、それだからこそ面白い。
韓国人俳優と韓国人監督が、日本文化と英国文化を再現してみせる。

一章と二章で突然風景が180度変わって見えるのは某ミステリ映画も思わせる構造で(原作はこちらのほうが古いが)、スッキ&お嬢さんのベッドシーンなどでカメラの撮り方がすっかり変わるのもそれを示していた。
最近でこそ数作思いついてしまう構造になってしまったけれど、途中ですっかり風景が変わる仕掛けはやはり面白い。

お嬢さん役のキム・ミニより、化粧っ気のない童顔キム・テリのほうが日本でウケそう。
長編映画デビュー作でこれだけハードな役を演じきっただけに今後も期待。
ルックスのチャーミングと大胆な演技とのギャップもいい。

歯が口の中にあたって切れると言われて、歯を削るのは驚いたが、あのフェティッシュな描写で全編進むのかと思ったら後半になるに連れてどんどん過激になっていくというのがなんとも。
口の中に指を入れたり蛇とかアメとか、暗喩というよりもはや直喩。
フロイトに聞かなくてもわかる。

上月はイン○テンツで、だから女性にエロ本を読み上げさせるという倒錯的な行為にハマる。
金はあるがそれ以外に何もないかわいそうな老人。
罰として黒川の手袋で顔面を押さえてぐるぐる延々に回し続ける描写にかなり狂気を感じさせる。

最終的に女性と女性は幸せを求め新天地へと向かい、残された男と男は地下の闇で死んでいくのも何やら。
最後のちょっと長い絡みは、サービス的な意味合いなのか。
もっとあっさり終わってもよかったかもなーと思ったり。
ただ死んでる男二人で終わるより、女性二人がキャッキャウフフのほうがそりゃあ眼福ですが。


韓国語のエンドテロップって全然わからないので、時折映る英語や日本語を見つけて読むしかなく、流れてる音楽を聴くしかないんだが、あの曲はイマイチ。
菊地氏も指摘してるが、もう少し音楽がなんとかなれば、さらによかったのに。
あまりその辺こだわりがないのかもしれない。

非常に面白かった。
さすがパク・チャヌク。
ブルーレイ出たら買うかな……。

旧作「渇き」や「イノセント・ガーデン」をもう一度観たくなった(あれも耽美なので)。

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